コメディ・ライト小説(新)

Re: エンジェリカの王女 短編集 ( No.14 )
日時: 2017/09/12 22:13
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 16/cv9YI)

『エリアスと二人の出会い』

 ジェシカとノア。エリアスが二人に出会ったのは、数年前のある日のことだった。
 『エンジェリカ武道大会』。それは、エンジェリカ王宮のすぐ横にある会場にて、二年に一度だけ開催される戦いの祭典である。
 王女であるアンナは、その大会を見に行かなくてはならなかった。もちろん彼女は戦いなどに興味がない。だから断ろうとした。しかしディルク王に厳しく言われ、渋々見に行くこととなる。エリアスはそんな彼女に護衛隊長としてついていった。

 その大会にジェシカが出場していた。
 ちなみに、出場理由は「高額な賞金が欲しい」。ただそれだけである。
 公的な場に出るのはこれが初めて。彼女は、一切躊躇いなく後ろめたさも感じずにバトルができることを、心から喜んでいた。だから異常なまでに張りきっていた。
 ジェシカは持ち前の素早い剣技で、あれよあれよという間に勝ち上がる。
 どんな巨大な大男も彼女の敵ではない。彼女はその小さな体で強者たちを次々と下していく。
 エリアスはその姿を見てすぐに思った。彼女には戦いの才能がある、と。
 ジェシカは結局準優勝に終わった。決勝戦で親衛隊からの出場者に敗北したからである。最終的に負けたとはいえ、親衛隊員に善戦したのだから、並大抵の女ではない。

「少し構わないでしょうか」
 帰路につく参加者たちの中からジェシカを探しエリアスは声をかけた。
 その時彼はちょうど探していたのだ。王女の護衛を任せられるような強い天使を。ジェシカは理想にぴったりな天使だった。女で、王女と年も近そうで。
 だからエリアスとしては、この機を逃すわけにはいかなかった。
「ジェシカー、誰か話しかけてきてるよー」
「ん?」
 彼女の横には紫の髪を持つまったりした天使もいる。
「あたしに何か用?」
 ジェシカはきょとんとして首を傾げる。
「初めまして、私はエリアス。少しお願いしたいことがあるのですが……」
「いいよ」
 頼みの内容を聞く前に笑顔で即答するジェシカに戸惑いながらも、エリアスは頼みの内容を話す。
「先ほどの戦いを見ました。ぜひ王女の護衛になっていただきたいのです」
 ジェシカは一瞬愕然とした顔になる。まさかそんな話だとは夢にも思わなかったのだろう。
 エリアスは頭を下げ頼んだ。
 それに対してジェシカは、いやいや、と笑う。
「お金貰えるなら、あたしは何でもするよ」
 よく見ると彼女はとても貧しそうな身形をしていた。隣にいる紫の髪の天使も同じような格好である。
 二人とも痩せていて、体のあちこちに小さな傷があるうえ汚れている。それに着ている服も古着のようなものだ。
「ではこちらへ来ていただけますか?少しお話ししたいのですが」
 まるで勧誘でもしているかのような気分になりエリアスは不思議な感じだった。
「じゃあジェシカ、僕はその辺にいとくよー」
「待って、ノア」
 離れていこうとした紫の髪の天使を引きとめるジェシカ。
「エリアス……だっけ?この子も一緒に行っていいかな」
「えぇ。構いませんよ」
 彼の能力がいかほどのものかは分からないが、二人を引き離す理由は特にない。
「ではこちらへ」
 エリアスは、まず二人を風呂に入れなくてはならないな、と思った。これはアンナに隠しての行動だ。つまり、彼女に勘づかれてはならない。
 アンナに気づかれず二人の天使を風呂に入れる方法――、その時のエリアスの頭はそれでいっぱいだった。
 エリアスは汚いのが苦手なので、「とにかく早く綺麗になってほしい」という気持ちでいっぱいだった。

◇終わり◇


《余談》

 ジェシカの好物は桃である。
 中でもエンジェリカで栽培されていないエンゼルピーチという品種がお気に入りだとか。