コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第1話『謎の闇組織E・C』(6) ( No.10 )
日時: 2019/07/01 15:48
名前: 友桃 (ID: y68rktPl)

 HR終了後、私は早速津波を連れて恵玲の所へと向かった。恵玲の席は窓際の前から2列目という、ど真ん中の席の私からしたら何ともうらやましい席だった。

「恵玲」

 近付いたところで声をかけると、彼女と一緒にその隣の席の子も驚いたように振り返った。真っ直ぐなセミロングの黒髪を耳の下で2つに結った、とても清楚で純粋なイメージの女の子だった。どうやら席が隣同士の2人で盛り上がっていたらしい。

 恵玲はこちらを振り返ると、私にはまず向けられない、実に可愛らしい笑みを浮かべて、隣の子を手で示した。

「あ、亜弓! この子、美久みくっていうのぉ。今日一緒に帰ろって話してたとこなんだぁ。いいでしょ?」

 ……声音まで、急変している。私と2人で話すときの、いかにも気が強そうな、そして若干冷めたような声は一切消え失せ、女の子らしいと言えばらしい、柔らかいものになっている。そして、語尾が伸びているのは……気のせいではないだろう。

 しかし私はそれぐらいでは驚かない。
 この子は昔からそうなのだ。私以外の子がいる場面では、自分の“強い”性格をめったに出さないのである。しかも悔しいことに彼女の面立ちからして、どちらの表情・しゃべり方も不思議と外見にマッチしてしまうのだ。

 というわけで、いちいち彼女の態度の変化に突っ込む気などさらさら無く、私は彼女の質問にもちろん笑顔で答えた。

「いいですよ。一緒に帰りましょ。……ところで、私も一緒に帰りたい人がいるんですけど――」

 一緒に連れてきた津波を視線で示す。
 恵玲も美久も、快く受け入れてくれた。




 “沢田美久”――。それが、恵玲が紹介してくれた子の名前だった。
 私達4人の中で格段に大人しく、どことなくふわふわした、例えて言えば子犬のようなイメージの女の子である。雪のような白い繊細な肌をしていることも、彼女の清楚や純粋といった第一印象のもとになっているだろう。

 そして極めつけは、その声。
 鈴の音のような耳に心地よい声で、

「あ、亜弓ちゃん…って、呼んでも…いい?」

なんて言うのである。
 その声を聞くだけで、心が癒されるような気がした。隣に並んで歩く津波とお互い目をキラキラさせて、「可愛い……」と2人同時に呟く。

「アタシ、こういう、なんていうか天使みたいな子初めて見た……」

 津波が放心したように言い、私と恵玲はそれはもう何度も大きくうなずいた。そんな私と恵玲に挟まれて、美久は激しく恐縮している。

 しかし、これでは全く話が進まないので、私は白い肌を桃色に染めて恥ずかしがっている美久に言った。

「その呼び方でも全然OKですけど、一応今まで“あーちゃん”って呼ぶ子多かったんで、どっちか呼びやすい方にしてください!」

 すると美久はどことなく嬉しそうに、「あーちゃん……」と確かめるように呟いていた。

 ちょうどその時、恵玲が携帯を開いて何かを確認し、

「そろそろ行った方がいいかなぁ……」

と独り言を漏らしたのである。またか、と呆れ半分な気持ちで彼女を見ると、津波ら2人にも聞こえたらしい。不思議そうに恵玲へと視線を向けた。

「恵玲、何か用事あんの?」

 津波の声にハッと携帯から顔を上げる恵玲。それから申し訳なさそうに眉を下げて、とても残念そうな声で、

「うん、そうなの。……ごめんね」

そう言った。そんな大きな目を伏せられて謝られてしまったら、こちらとしては引き止められない。
 私達は、また明日たくさん話そうと約束し、恵玲だけが途中の道を違う方向に歩いて行った。


 その後彼女と逆方向に歩いて行った私は全く気が付かなかった。



 彼女が、普通の人間ではありえない速さで路地を駆け、

 自分の身長の何倍もある家に飛び乗り、屋根伝いに進んでいき、



 そして――



 何の迷いもなく、ある組織の集会へと向かっていたのを―――――