コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第3話『我ら、麗牙光陰――』(9) ( No.104 )
日時: 2010/08/31 23:40
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 7hab4OUo)

 風也は最近知り合ったばかりの青年――白波と対峙しているうちに、高まっていた感情が急速に冷却されていくのを感じていた。準備態勢をとっていた体から、適度に力が抜けていく。

 ――……ちょっと待て、落ちつけオレ……っ

 一度意識して息をつく。彼の瞳から闘気が消え、ピリピリとした空気は流れるように消えていった。

 ――……相手白波だろ……っ。 何結構マジにやり合おうとしてんだ、オレは……!

 見ると、白波は珍しく眉を寄せ、不審げな顔つきになっている。彼に、拳銃を持つ手から力を抜く様子はない。
 風也は思わず舌打ちをすると、本気で困ったように髪をくしゃくしゃっとかき混ぜた。

「フィルム取り返さなきゃいけねぇし、相手お前だし……。どうしろってんだよ」

 そう言ってから彼は、内心ハッとしてある重要なことを思い出していた。


 ――……そうだ、アレ偽物――……


「……何を迷っているのか知らないが、こっちは一応口止めしておく必要がある……」


 カチャ……


 と、不吉な音が眼前に聞こえる。いつの間にか白波が、風也の前髪で隠れた額に銃口を突き付けていた。その迷いの無さに内心舌を巻く風也だが、別段怯える様子もない。撃つ気がないのが分かるからだ。撃とうとしているには、あまりにも手に力が入っていない。脅しと分かっていれば、何も怖くない。

「まぁ……別に警察に突き出されても問題ないが……」

 ――面倒だからな。

 そう続けようとした白波を、風也の声が遮った。

「別に脅されなくたって、突き出しゃしねぇよ」

 普段通りの落ち着いた声。さらにはズボンのポケットに両手を突っ込むという、完全に無防備な体勢で彼の目を見る。その、納得のいかなそうな目を。

「……何で。名前まで知っておいて」

 理解できないという気持ちが、白波の声音ににじみ出てくる。それを心なしか寂しそうな表情で、風也が聞いている。

 それからしばらくの間沈黙が続き、亜弓がそれを不安そうに見つめていると……



 シュ……



 と、空気を切るような音が耳に届き、皆が一斉に音のした方――入り口近くに視線を向けた。ある人物が突如この空間に加わっていた。

 まず目に入るのは、肩下まである艶やかな銀髪。くりっとした明るい印象の瞳は深い蒼色である。そして、全体的に小柄で華奢なイメージの人物だった。

 ――……ウィルくん……!!

 恵玲がじんわりと頬を染めて、胸の前で両手を組む。

 対して亜弓と風也は周囲の状況など頭の中から完全に消えて、この唐突な登場をした彼をぽかんと口を開けて見つめ、同じ疑問を胸中で叫んでいた。

 ――……い、今この人……

 ――……どっから出てきやがった……!!

 部屋内の空気をがらりと変えておきながら全くそのことに気付いていないウィルは、何か言おうと口を開きかけ、視界の隅に知った人物を見つけて思わずそちらを振り返りそうになった。が、それを寸でのところで止める。

 ――……何で恵玲がいるんだ……

 なぜ必死な様子で任務を断ってきた彼女がここにいるのかは理解できないが、彼女の親友の友賀亜弓がこの場にいる以上、無視しておくのが賢明だろう。
 亜弓の顔は、恵玲が以前写真やプリクラやらを見せてくれたお陰で、この場にいるE・Cのメンバーは全員知っているのである。

 ウィルは状況を把握しようとざっと部屋を見回し、それを白波の所でピタッと止めた。彼はまだ、風也に銃口を向けたままである。

「――もういいよ、白波」

 ウィルが場の空気に似合わない穏やかな透き通った声で言うと、白波は何も言わずに銃を引いた。風也が何か言いたそうな目で見るが、彼はふっとその視線を避ける。

 そして今度こそ広間にいる全員の目がウィルに集まった。それでも余裕の笑みを崩さないウィル。

「……もう1人E・Cのメンバーが来てたとはな」

 声に不快感がこもる。たいていの人が見惚れる彼の笑顔が、風也にはなぜかとても気に食わなかった。今にも舌打ちをしてしまいそうだ。

 しかしウィルはそんな彼の様子などお構いなしに、快く頷いていた。

「そう。ぼくはウィル=ロイファー。よろしく、金髪くん」

 風也の目に、殺気がこもる。

 しかし彼が行動を起こす前に、正面にいる白波が口を開いていた。

「依頼物は確保できたのか」

 ウィルが心底うれしそうにそれに答える。

「うん、もちろん!」

 そう言って彼は、右手に握っていた“あるモノ”を軽く振って見せた。



 それは、フィルムだった。

 もちろん白波とは別のモノ――……



「――! それ……!」

 亜弓が思わず身を乗り出して声を上げる。そちらを振り返って、ウィルははっきりと頷いて見せた。

「これが本物だろうね。……キミ達の反応からしても」

「何で場所が分かった!!」

 そう驚愕の表情で叫んだのは、今まで呆然と成り行きを見つめていた警備員。
 しかしウィルはその質問には答えず、何か隠し事をするような意地の悪い笑みで、手の中のフィルムをもてあそんでいる。

「さぁ、なんでだろうね〜」

 ――……影晴様のお陰なんだな〜これが

 心の中でほくそ笑む。

 ――……透視の能力で事前に場所を見つけておいてもらったんだよ

 ただ、見た目だけではどちらのフィルムが本物かは判断できない。だから白波と二手に分かれてどちらも入手したのである。ウィルの方も水希が能力で敵の足止めをしてくれたため、思っていたよりもあっさりと事が運んだ。


 じゃあそろそろ帰ろうか、とウィルが口にしかけた瞬間。

 突然風也が、舌打ちと共に攻撃を仕掛けた。

 まず手始めに、白波が握っていた銃を的確に蹴撃を放って吹き飛ばす。カンッと高い音が響き、銃はカラカラ…と床をすべって恵玲の近くで動きを止めた。恵玲がどうするべきか悩むような表情でそれを見つめる。

 そして、ようやく本気で驚いたような表情を浮かべ、空になった自分の左手を見つめる白波を置いて、風也は素早く床を蹴った。




 狙いは……




 ウィル=ロイファー…!!