コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第3話『我ら、麗牙光陰――』(9) ( No.105 )
- 日時: 2010/08/31 23:42
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 7hab4OUo)
「――え、ちょ……っ!?」
ウィルが目を見開き彼を止めようと手を出しかけたのも束の間、空間を斬るような鋭い回し蹴りが顔面に迫って来て、彼は本能的な反応の速さで顔を後ろにグイッと引いた。紙一重で、足が前髪をかすっていく。……今の蹴りをかわせたのは、確実に恵玲のお陰だ。いつも恵玲のフォームを目にしていたお陰で、すぐに1発目は反応できたのである。
しかし、問題はこの後だった。
1発目をかわされたのが相当不本意だったようで、あからさまに顔をしかめた風也がさらにスピードを上げてきたのである。
「――!?」
ゾクッと背中を悪寒が襲うとともに、左足が下から弧を描いて振り上げられる。まるで鞭のようにしなる蹴撃――! それをよけきれず体勢を崩したウィルの白い頬に、ピッと一筋赤い線が引かれる。しかし顔をしかめて居る間もなく、続けて今度は狙う位置がぐっと下がってきた。
――フィルムを握る右手である――!
――……それだけはさせない――!!
全神経を右腕に集中して、寸前どうにか直撃を避ける。今のは完全に意地だ。突然無理な動きをしたせいで、腕の筋がピンと伸び痺れたような感覚になる。
そして直後、今度は右肩口を狙ってくる軌跡――。
――……マズい……っ、当たる――!!
ウィルは考えるよりも前に、反射的に叫んでいた。
「――テレポート!!」
薄皮1枚というところで、ス…と彼の姿が消失する。風也は空気を振り切ると、すぐに後ろを振り返った。
「恵玲っ!!」
亜弓が叫び声を上げる。
テレポートで逃れたウィルが、恵玲の腕をつかみその体を引き寄せた。彼女はチラチラと握られている腕を見ながら、素直に従っている。
「てめっ――」
「ごめん、ホントこんなことしたくないんだけど、キミ…マジで厄介だからさ……」
本気で参ったというように大きく息をつく。
恵玲を盾にされていては攻撃できない。というか強いんだから抵抗しろよ、とムラムラとした気持ちが胸中に沸き起こってくる。
風也はギリッと奥歯を噛み、殺気を込めた目でウィルを睨みつけた。……困ったような笑みを返されるのがさらに腹が立つ。
と、白波が何も言わずにウィルの横に並び、床に転がっている拳銃を拾い上げる。そして静かな瞳で風也と目を合わせた。
同時に亜弓が恵玲を助けに駆け出そうとすると、サッと制止の手が出て彼女は思わず動きを止めていた。……ウィルだった。彼はこちらが驚くほどの優しい瞳でわずかにうなずく。まるで恵玲の身の安全を保証するかのように。
そしてウィルは部屋を改めて見回し、やや挑発するような声音で言ったのだ。
「ぼくらは麗牙光陰――
E・Cに属するグループのうちの1つだ」
白波が目だけで彼を見る。
「ほんとはあんまり言っちゃいけないんだけど、キミ達とはなんとなくこの先も縁がありそうだからね。それだけ教えておくよ」
そう言うと、ウィルはなぜか窓の方に目を向けた。亜弓達が疑問符を浮かべて彼の行動を見つめていると、窓の向こう側、つまりベランダから、1人の少女が姿を現したのである。
黒く長い髪をツインテールにし、品の良い膝丈のワンピースを身につけた子だった。真面目そうな、“自分”をしっかり持っていそうな“強い”瞳の女の子である。
彼女が近くに駆け寄ると、ウィルは「それじゃ」と言って手を振った。
「待っ――」
止めようとした風也は、解放されて軽く背中を押された恵玲にとっさに手を伸ばす。そして直後、2人は同時にウィルを振り返った。
「テレポート!!」
ウィルが床に手の平を向け叫んだ瞬間。
白く光る円が彼ら3人を囲むように中心から広がり……
一瞬目を瞬いた時には、彼らの姿は視界から消え去っていた。亜弓は呆然としてその空になった空間を見つめ、風也は悔しそうにじっとそこを睨みつけていた。