コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第4話『あなたのために……』(5) ( No.147 )
日時: 2019/07/01 16:29
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: y68rktPl)

 麗牙光陰のリーダー・ウィル=ロイファーは、影晴との面会権を持つ数少ないメンバーのうちの1人である。面会権を持つもう1人は月下白狼のリーダーであると聞いているのだが、彼は今まで一度も月下白狼に会ったことが無い。チームの拠点はそう遠くはないらしいが、麗牙とは別の地域で活動しているため、偶然出会うということはまずないだろう。影晴からは、麗牙よりは年齢層が高く、ウィルと同じ16歳の子もいると聞いている。

 今後もチーム同士の接触はないだろうと影晴から聞いているが、ウィルとしてはそれでも構わなかった。もちろん仲間が増えるのはうれしいことだが、今までのように麗牙の皆さえ近くにいれば十分満足な上、これからも影晴様の役に立てると思っただけで心底幸せなのである。


 彼は今も弾むような気持ちで、影晴の住む古い屋敷を歩いている。薄暗い廊下で、彼の銀髪は非常によく映える。

 影晴のいるこの場所を知るのも各グループのリーダーのみだ。そしてウィルは当然のごとく、いつもテレポートで行き来している。ちなみにウィルのテレポートは、彼が頭に思い浮かべられる場所ならどこにでも移動できるため、こういうときは本当に役に立つ。

 今日は今回の任務の報告だ、と意気込んで、ウィルは眼前に立ちはだかる大きな扉を見上げた。彼自身背が低いため、余計に威圧感を感じてしまう。そして同時に、適度な緊張感が身を包むのだ。
 冷たい空気が、彼のむき出しの腕をなでる。

 ――……この扉の向こうに、影晴様がいる……

 毎度のことながら、ごくっと唾を飲み込み、体の横で両の拳を握りしめる。

 ウィルらにとって影晴は心の底からの尊敬に値する人物だが、その絶対性ゆえ軽い畏怖を覚える存在でもあった。得体が知れない、と言っては言い方が悪いが、実はまだ正体不明の人物なのである。そんな、どこの誰かもわからないような人によくここまでついていけるなぁ、とウィルは自分でも内心不思議に思っている。が、彼に関する様々な謎を帳消しにするほどの恩をウィルは感じているし、きっとそれは皆も同じだ。

 ウィルは深呼吸をし、手の甲でコン、コンと二度扉をたたいた。

「麗牙光陰、ウィル=ロイファー参りました」
「…入って」

 いつも通りの穏やかで優しい声が彼を促す。

 影晴は“透視”の能力を身に宿しているため、不審者かどうかはすぐに見抜けるのだ。

 ウィルは、「はい。失礼します」と品の良い声で言って、静かに扉を開いた。やはり少し重たいが、何度も来ているのでいい加減慣れてしまっている。

 入るとそこは長方形の大きな部屋。扉から真っ直ぐ部屋の1番奥まで、レッドカーペットのように絨毯が敷かれている。そして真正面、絨毯の最端には立派な造りの椅子がしつらえてあり、そこにはある種の威厳を伴って例の人物がおさまっていた。


 ――大崎影晴


 正確な年齢はわからないが、外見年齢は随分と若い。まだ30代前半に見える。額と右目には真っ白な包帯が巻いてあり、それを右側だけ長い前髪が覆っている。髪同様に黒い瞳は、凪いだ水面のように静まり返り、そして一瞬緊張感と狂気を垣間見せている。そしてその口元には常に、全てのモノを受け入れるような、寛大な優しい微笑が浮かんでいる。

 ウィルは真っ直ぐに、澄み切った蒼瞳を影晴に向けた。

 ――……影晴様……


     ぼくらを、仲間に巡り合わせてくれた人……


     ぼくらを、あたたかく迎えてくれた人……


 ウィルはいつものように片膝を床につけようとして、

 ふと見慣れない人物が視界に入り、立ったまま思わず左の方に顔を向けた。


 身じろぎもせず、隅に控えている青年がいた。

 すらりと背が高い。日の下に出ていないのでは、と疑ってしまうような色白の肌。毛先にいくにつれ濃さの増す茶髪は、所々いい具合に外にはねている。そしてその暗い瞳は、人形のようにぼんやりとあらぬものを見つめている。

 ――……この人……

 初対面の人物に、はっきりと眉をひそめるウィル。

 ――……なんだろう、なんか……。なんかすごくモヤモヤする……!

「――ウィル」

 影晴の笑いを含んだ声で、ウィルはハッと我に返った。慌てて体勢を低くして頭を垂れる。

「すっ、すみません、影晴様……!」
「いや、いいよ。彼の紹介がまだだったからね」

 影晴はそう言って微笑み、無言で立つ青年をす…っと手で示した。

「彼は天銀あまがね。私の……そうだな、助手、といったところか」
「助手……」

 そう呟いて、ウィルは彼に丁寧に頭を下げる。

「麗牙光陰のウィル=ロイファーです。よろしく」

 しかし返事はなく、ささやかなお辞儀が返ってきただけだった。1ミリくらいしか動いていなかったが。

 それを見た影晴が小さな笑い声を上げる。

「すまない、ウィル。どうも天銀は寡黙でねぇ」
「いえ、全然大丈夫ですよ」

 ――……ウチにも無口な奴がいるからなぁ……

 ウィルはつい苦笑をもらしそうになるのを抑え、すぐに表情を引き締めた。ちゃんと任務の報告をしなければならない。



 ……今回もまた、優しく微笑んで言ってくれるだろうか。


“よくやった、君たち麗牙光陰の働きは本当に素晴らしいよ……!!”と。