コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第4話『あなたのために……』(8) ( No.166 )
日時: 2010/09/12 12:09
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: s4AxdT15)


 1時間目終了のチャイムが鳴ると同時に、風也は机の上に散らばったシャーペンやノートをバッグにしまい、すくっと立ち上がった。
 彼の席は窓際から2列目の1番後ろ。周りを気にせず好き勝手できるいい席だ。

 バッグを肩にかつぐようにして教室を出ようとすると、ある知った顔の女子と目が合った。

 ――町田美沙。まだ学校が始まって間もない頃に告白してきた子だ。彼女は普段つんとすましたクールなイメージの子で、クラスの女子の中でもかなり強い立場にいる。ただし風也を見るときのみ、その表情は一変するが。

「――風也く…!!」

 一気に頬を紅潮させてこちらに駆け寄ろうとする町田を見て、風也は急いで教室を後にした。後ろから、「ちょっと美沙またぁ〜? かっこいいのはわかるけどー」「ほんっと好きだよねぇ」という台詞とともに、女子たちの甲高い笑い声が聞こえてきた。



 ――……マジ何なんだ、アイツは……

と、内心ため息をついて、廊下を早歩きで進んでいく。休み時間は教室を移動する時間でもあるので、いくつもの集団とすれ違った。まだみんな彼を恐れて避けて通るため、歩きやすいと言えば歩きやすい。

 階段までたどり着いて、風也はふとその場に立ち止まった。

 ――……久し振りに疾風達に会いに行くかなー…

 下りの階段をぼぅっと見つめる。1階下には2年生の教室があり、彼の本来の同級生がいつものように廊下で騒いでいるはずだ。実は去年、同級生の一部とは打ち解けており、「絶対遊びに来いよ!」とも言われている。

 風也がゆっくりとそちらに足を踏み出したとき、

 どんっと重く響く音を立てて、肩が誰かとぶつかってしまった。

「――わっ」

と驚いたような声が上がり、同時に複数のものが床に落ちて派手な音を立てた。見ると、足元にはシャーペンにカラーペン、消しゴムと筆箱に入っていただろう文房具が散乱している。周りを歩いていた生徒達も、びっくりして視線を投げた。

 悪ィ、と言おうとして風也が相手を見ると、ぶつかった小柄な男子は目を見開いて固まってしまっていた。それを見てついため息をついてしまいそうになるのを、ぐっとこらえる。

 何も言わずに風也が拾い始めると、その男子生徒が「え…」と小さく声をもらすのが聞こえた。この空気がものすごく居心地が悪いため、すぐに全て集めて彼に手渡す。

「悪ィ、マジよそ見してた」
「あっ、いや……」

 ぽかんとしている彼を放って、風也はそのまま階段を下りて行った。






「ねぇ、あーちゃん。ほんとに大丈夫なの……?」
「大丈夫ですって! 恵玲もこの間しゃべりましたもんね」
「うんっ、全っ然平気だよぉ」


 私は今、いつもなら1人で上っていた階段を、5人という大人数で進んでいる。反響する足音がいつもより多くて、ちょっとした違和感を覚える。

 今日は以前から考えていたように、恵玲と津波、美久、そして静音を屋上でのランチに誘ったわけだが、最上階が近付くにつれて3人が尻込みしてきたのだ。教室で提案した時は、思っていたよりも乗り気だったというのに。

 屋上の入り口までたどり着いて皆を振り返ると、さっきまで珍しく弱音を吐いていた津波が、なぜか目をらんらんと輝かせていた。

「やっばい! ここまで来たら逆に何か吹っ切れた!」

 行ってやるー! と1人でガッツポーズまでしている。その隣で余裕の表情の恵玲と、1歩退いた状態の美久と静音。特に美久は泣きそうな顔をしていたので、とりあえず言葉で安心させて、


 一気に屋上の扉を開いた。

 いつもの場所に風也が座って、本を読んでいる。彼は本から顔を上げると、私の後ろに何人も女子が控えているのに気付いて動きを止めた。

 昨日雨が降ったせいか、今日はジメジメと蒸し暑い。私は一度太陽を見上げてあまりの眩しさに目をそらし、それから彼の方へと皆を引き連れていった。



 記念すべき、このメンバーでの最初のお昼ご飯。
 この日のおにぎりは一段とおいしくて、味が体中にしみわたるようだった。