コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第4話『あなたのために……』(11) ( No.184 )
日時: 2010/09/14 10:20
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

 瞼の上から朝日が差し込んでくる。目を閉じているのに白くぼやけたような光を感じて、風也はうっすらと目を開けた。頭上の窓から太陽が顔をのぞかせている。寝起きの瞳にその光は強すぎて、幾度か瞬きを繰り返した。

 そしてベッドから体を起こそうとして、

「……やっべ」

バサッと再び枕に頭を沈める。

 全身が鉛のように重い。そして体の内側から拡散してくるような、熱気。それを認識するのと同時に、視界がぼんやりとかすんでくる。確かめるように額に手の甲を当てると、かあぁっと高い熱が額から手に移動していくのを感じた。汗もじんわりと滲んでいる。自分の吐く呼気すら、熱がこもってわずらわしい。

 それでも風也は、自分の体に鞭打って無理矢理上半身を起こした。大きく息をついて、立てた片膝に重い頭を預ける。

 するとドアをノックする音がして、茶髪の青年がドアの隙間から顔をのぞかせた。

「おっ、風也起きてる」

 ――三和伸次。生活を共にする、下橋のグループのメンバーの1人である。彼は今大学1年生なので、風也の2歳年上だ。

 風也は顔を上げて部屋を見回した。ここは緋桜のメンバーが集まる建物の、2階の寝室。部屋いっぱいにいくつも並んだベッドはどれも空である。今何時なのだろう、と彼はぼんやりとした頭で考えた。

「久し振りに熱出したな。ここ2、3週間具合よかったろ」
「…あぁ……今何時」
「7時半。つーかお前寝てろよ」

 伸次に苦笑混じりにそう言われて体を倒すと、さらに体の重みが増した気がした。このまま二度と起き上がれないんじゃないかという錯覚にとらわれる。熱独特のだるさだ。
 伸次が布団を直して、冷えたタオルを額にのせてくれる。体の熱と水の冷たさとで一瞬ゾクッとするが、すぐにその冷気を心地良く感じるようになる。

「……オレ今日もテストなのに」

 こうやって体調を崩してテストを受けられないことは去年もたくさんあった。それに加えて出席日数も明らかに足りていないために留年したのである。
 なぜか今日はテストを受けられないということが、すごく悔しかった。

 風也が目を閉じてため息をつくと、励ますような声が上から降ってくる。

「今日治して明日からの出れば、2、3教科追試で済むじゃん。てか、いつもみたいに10時頃には熱下がるだろうし、途中参加できんじゃね?」

 目を閉じたままうなずくと、「学校に連絡は?」ともうすでに答えが分かっているかのような声音で聞かれる。「しなくていい」とこもった声で言って、風也はベッドの脇に立っている伸次に目をやった。

「悪ィ、マジいっつも……」
「気にすんなって。オレ今日ちょうど大学全休だし。それに風也のせいじゃねーだろ!」

 言い聞かせるようにそう言って、伸次はベッドを離れた。

「夜ゑがおかゆ作っていってくれたから、持ってくる」

 そう言い残して、静かに部屋を出る。

 風也は申し訳ない気持ちに加え、自分自身に対する苛立ちで、ギリッと奥歯をかみしめていた。

 ストレスが原因だと、医者からは言われた。ストレスがたまりすぎて、発熱しやすい体質になったんだろう、と。それさえどうにかなればすぐに良くなる、とも。

 じっと睨むように天井を見つめる。
 そうしていると、ふっと頭の隅をある顔がよぎっていった。


「…風香…」


 呟くと同時に、得体の知れないむらむらとした感情が胸の内に沸き起こってくる。そのうち耐えられなくなって、風也はガバッと勢いよく体を起こした。いつの間にか呼吸が乱れ、冷たい汗が頬を伝っている。

 ガチャ…とドアが開いて、伸次が部屋に戻ってきた。風也の様子を見て、目を見開く。

「おいっ、風也大丈夫か!?」
「風香は……」
「――え?」

 息と一緒にかすかに漏れた声に、伸次は眉をひそめた。その名前が彼の口から出てくること自体、珍しかったのだ。

 風也は、声を絞り出すようにして言った。

「アイツは……、どうしてる……」

 いったん手に持っていたお皿を小さいテーブルに置いて、伸次は真剣な表情で彼を見る。おそらく今この瞬間、心の中で激しく葛藤を起こしているであろう、彼を。

「大丈夫。オレらが交替で見に行ってる。……ただ」

 言おうかどうか迷うような表情を浮かべる伸次。一度目を伏せてから、はっきりと風也を見て、

「……お前に会いたがってるよ、…すごく」

“風香”の気持ちを代弁するような、重みのある声でそう言った。

 風也は彼の言葉には反応せずに、何かに耐えるようにそのままじ…っと膝に顔を伏せていた。