コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第5話『不確かなもの』(1) ( No.212 )
日時: 2010/09/16 16:20
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

 ジリジリと肌を焼くような日光が後ろから照りつける。それはコンクリートの地面に反射して、下からも全身を焦がして行く。動かずとも居るだけで、額から、首筋から、腕から、汗がどんどん噴きでてくる。
 学校周辺の木々からは、毎年恒例のセミの大合唱。そこかしこから聞こえてくるその統一性の無い歌が耳にじんじんと鳴り響き、それだけでも暑さが増すようだった。この声を聞くと、あぁ夏だなぁとしみじみ感じてしまう。

 衣替えでブラウスのみの着用が許可されているというのに、それでもまだ足りない。ブラウスの背中の部分が汗で滲んでいるのが分かってげんなりする。そしてそれ以上に、紺のハイソックスがこの炎天下の中気持ち悪すぎて、今すぐ脱いでやりたい気持ちになった。

 うつろな目で隣に視線をやると、風也と恵玲も暑さにやられて顔をしかめていた。風也はいくつかボタンの外されたワイシャツの襟元で、パタパタとあおいでいる。

「……どこかで涼みません?」

 私は堪え切れなくなって、2人にそう持ちかけた。駅前の桜通りに、ファミレスも喫茶店も大体そろっている。

 ちょうど校門を抜けたところで、風也が独り言のように呟いた。

「何か飲みてぇ……」
「私、アイス食べたいですー」
「ごめん、あたし帰るから」

 期待を裏切る恵玲の台詞に、私は勢いよく彼女を振り返った。恵玲は前に視線を向けたまま、こちらを見もせず調子の低い声で続ける。

「今から出掛けるの。だから2人でこのままデートでも行ってきなぁ〜」

 ――……デ…っ!?

 頬がカッと熱くなる。危うく声に出すところだった。

 風也と2人で出掛けたことは今まで何度もあったが、改めて“デート”と言われると全く感触の違うものになる。突然緊張が増してきて、体全体がまた別の熱を帯びてきた。太陽の熱だけでもう限界だというのに、このままでは火照りあがって沸騰してしまう。

 そんなことをしているうちに、学校を出て1つ目の交差点にたどりついた。本来ならここで私と恵玲が右に曲がることになるのだが、今日は恵玲のみ別れることになる。

 ちょうど信号の色が青に変わり、恵玲はからかうようにニッと口元で笑って手を振った。

「それじゃ、テスト返却お疲れっ。バイバイ!」

 嫌な単語を耳にし、うっと渋い顔をしている間に、彼女は行ってしまった。

 一応、という感じにその後ろ姿に手を振り、彼に向き直る。いつもは全然平気だというのに、目が合った瞬間思わず息を止めてしまった。恥ずかしすぎて目をそらしたいのに、そらせない。わけもなく、ただそらしたくないと意地を張るもう一方の自分が、逃げようとする自分を強い力で引き止めているようだ。

 彼は、緊張しないのだろうか。その表情は驚くほどいつも通りに見えて、複雑な気持ちになった。


 でも――


「それじゃお言葉に甘えて。……行くか、デート」


 彼のその優しい声が、私をがんじがらめにしていた緊張を、一瞬でほどいた。