コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』(1) ( No.25 )
日時: 2010/08/25 15:45
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 7hab4OUo)

「あーちゃ〜ん! 早くしないと、しょっぱなの授業から遅刻するよ!」


 津波が教室の入り口からよく通る声で叫んでいる。私はその声にせかされて、余計に慌てふためいてしまった。ようやくバッグから取り出した化学の教科書と真っ白なノート、そして中学3年生の時から使っている筆箱を抱えた瞬間、なぜか机の角にぶつかり派手に荷物をぶちまけてしまった。

「あーっ!」

 津波は爆笑である。その隣で美久が、拾いに行くべきかどうかわたわたしているのが視界に入ったが、「大丈夫ですよ」と苦笑混じりに目で伝える。
 恵玲はというと、「あ〜あ」と残念そうな声をあげて、少し心配そうな顔をしているのが見えたが、本心では「バーカ」と冷めた視線を送っているのが見え見えだった。

 ――……恵玲め、あの二重人格が……!

と、内心彼女にベーっと舌を突き出しながら、教科書を拾おうとしゃがみかけた時、

「はい」

それより前に教科書とノートが顔の前に突き出された。一瞬ぽかんとしてしまってから、すぐに状況を把握して顔を上げる。

 赤い縁のオシャレな眼鏡に、シュシュでポニーテールを飾った女の子がそこに立っていた。

「あ、ありがとです!」
「いいえー。じゃあ行くね。遅刻するから」

 去りついでに、ノートの上にポンッと筆箱を置かれ、私はなんとなくぽ〜っとしてその場に固まっていた。

 が、すぐに「早く行こうよぉ!」という内心怒りに満ち溢れた恵玲の声に、弾かれたように教室を飛び出したのだ。




 今日は授業が始まって2日目。まだ教室の位置を全然把握できていないため、私達4人は前方を歩くクラスメートらしき人たちの背中を追って、化学実験室へと向かっていた。果たして先頭を歩く人は場所が分かっているのだろうか。……責任は重大である。

 さっきから私たちの間では、部活の話で持ちきりだ。
 津波はさも当然のように自分は水泳部に入るんだ!と主張し、残り3人が感心して彼女を見ている、という状況だった。

「スポーツできる人かっこいいですねー。私クロール、手伸び5メートルで終わりますもん」
「マジ!? じゃあプールの授業のとき、アタシが教えるよ」
「ほんとですか!? お願いしますっ」

 これは本当に助かる。今までは義務教育だったから良いが、これからはそうもいかないので、進級できなくなるのでは、と不安だったのだ。……まぁ、私の場合、体育の前に普通の勉強が危ないのだが。

 できれば誰か勉強も教えてくれないかなぁ、と厚かましいことを考えている私の横で、美久も教えてほしいと願い出ている。ちょっと恥ずかしそうに頼んでいるところが、本当に可愛い。ちなみに彼女は今、クラスで天使のようだと囁かれているところなのだ。

 そして、その流れだともちろん恵玲に話が振られるわけだが……

「ありがとぉ。でもあたしは大丈夫。泳げるから!」

 私は思わず大きくうなずいてしまった。
 それを見た津波が、目を光らせ食いついてくる。

「泳げるんだ! 確かに恵玲、運動神経良さそうだもんなっ。 てか、2人って中学一緒だったんだっけ?」
「小さい時からずぅ〜っと一緒だよぉ。ね、亜弓?」

 恵玲が満面の笑みで笑いかけてくる。それはそれは、いろんな意味で夢に出てきそうな可愛らしい笑顔だった。

「はいっ。小学校入る前からですねー。恵玲って小さい頃から運動神経すっごい良かったんですよーっ」

 私の言葉に津波と美久が、興味津々と言った風に「へぇー!」と声を上げた時だった。


 す……と、私の右横を誰かが通り過ぎたのだ。


 もちろんここは廊下なので、今までもたくさんの人とすれ違ってはいたのだが。

 今の人は、それまでとは全く違う感覚だった。

 まるで何かに引っ張られるように、流れるような動作で後ろを振り返る。そして驚いたことに、あちらもチラッとこちらを振り返ったのだ。


「あ……」


 思わず声が漏れ、自然と足が止まった。


 金髪の男の子が、そこにいた。


 一瞬、その鋭い瞳と目が合う。私は放心したように、その瞳を一心に見つめていたが……

 ふっと目をそらされた。

 そして彼は、何事もなかったかのように歩いて行ってしまったのである。

 私は無意識に胸元に手を当て、自分を落ち着かせようと息を吐き――



「今、完っ全にバレました……!」



 尚も現実へと戻りきれていない状態で、そう言い放った。
 津波と美久が怪訝そうな顔をして、私の顔を覗き込む。

「あーちゃん……どうしたの? ……大丈夫?」

 美久が心底心配したように声をかけてくれたが、私はカクッとロボットのような動作で頷くことしかできなかった。

 恵玲がすぐ隣に立って、ごくごく小さな声で囁く。

「あの人のこと? この前言ってた……」
「はい」
「……やめときな」


 …………


 ――……はいっ!?


 私はものすごい勢いで恵玲へと顔を向け、無言の激しい非難オーラを送る。
 しかしそんなのものともしない彼女は、次の瞬間とんでもないことを口にした。


「さっきの金髪、紫苑風也だよ。……3組の子に聞いた」


 瞬間、私は息をのむ。



 ――……あぁ、私はほんっとに何て人を好きになってしまったんでしょう……!



 ――……よりによって、あの不良!



 ――……でも――


     彼の瞳がどこか寂しそうに見えたのは、



     私だけでしょうか……?