コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第1話『謎の闇組織E・C』(3) ( No.3 )
- 日時: 2010/11/01 20:02
- 名前: 友桃 (ID: ZQ/BM/dz)
その後クラス発表の人だかりから脱出した私たちは、以前からの予定通りクレープを買って家で食べよう、という話になった。小さい頃から、何かとイベントのあるときには友賀家にやってきてクレープを食べることが、ほとんど決まりのようになっている。ついこの間の中学卒業式は、確かイチゴチョコ味を食べて、それはもう幸せなひと時を過ごした。
「中学、か……」
思わずため息交じりの声が漏れる。隣を並んで歩いていた恵玲が横眼でこちらを見た。
「今度は目つけらんないようにね」
「わかってます。それに高校は中学と違って髪染めてる人多いですから、大丈夫ですよ!」
言いながら大げさにガッツポーズすると、丁度その時バッグの中で携帯電話のバイブが鳴った。どうも邪魔された気分である。鳴っている携帯電話は恵玲のものであったらしく、彼女がバッグからディープピンクのスライド携帯をとりだすと、バイブは一層大きくブーブーと音を響かせた。
余談であるが、彼女の携帯電話は実に忙しい。学校の行き来や遊び途中、加えて授業中に鳴ることもしょっちゅうであるし、その内容も高確率で重要なものらしく、そのまま「急用できた! ごめん帰る!」と本当に帰ってしまうこともしばしばである。
今回の連絡は電話だったらしい。相槌を打ちながら携帯電話を片手に会話をする彼女の口元は、先程に比べるとかなり緩み、頬も若干桃色がかっているようにも見える。声音も随分柔らかく女の子らしい声だ。まぁ、もともと可愛らしい声をしてはいるが。
私は半ば呆れて、バレない程度に息を吐いた。
恵玲は以前、それはそれは恋した乙女の表情で、「すっごくかっこよくて優しい男の子がいるの」と話してくれたことがある。「好きなんですか!?」と聞くと随分考えこまれてしまったので、はっきりしたことはわからないが、たぶんこの電話の相手はその子だろう。彼女の表情でバレバレである。
普段とのギャップが激しい彼女の女の子らしい部分を見るのは微笑ましいが、しかし彼女のある言葉が私の耳にやけに強調されて入ってきたのである。
「うん、わかった。今からすぐそっち行くね!」
――……
…“今から”ぁ!?
ちょうど携帯を閉じたところで、彼女の大きな瞳と目が合う。私が視線に疑いの念を込めると、彼女はあまり申し訳なく思ってなさそうな顔で、
「ごめん、帰る!」
そう言い切った。
「またですか! クレープは!?」
「明日。明日学校終わってから食べよ」
悪びれもなくそう言った恵玲は、素早く携帯電話をバッグにしまい、くるっと私に背を向けた。
「じゃっ、あたしこっちだから!バイバイ」
「えっ、……ちょっ」
慌てて制止の手を伸ばした時には、恵玲は人間業とは思えない驚異的なスピードでこの場を立ち去っていたのである……
ここでようやく“今”に至る。
結局1人でとぼとぼと帰路についていた私は、そこでふと立ち止まった。さっきまではクレープを買うつもりだったのでデパートや喫茶店などが並ぶ駅前の“桜通り”を目指していたが、恵玲がいなくなった今、そちらに用はない。今まで北へ北へと歩いていたのを方向転換して、次の角を右に曲がろうとした、その時――
向こうから同様に曲がってきた人物と危うくぶつかりそうになった。「あ」と思わず声を漏らしたが、相手が寸前のところで避けてくれたためどうにかぶつからずに済んだのだが……
その一瞬、驚いて相手の顔を見た私は、ゆっくりとスローモーションのように目を見開いていた。
金髪の、同年代のおそらく男の子であった。おそらく、というのは、若干青白いともとれるような真っ白な肌をしていて、顔立ちも一見女性のような人だったからである。それでも男性と判断したのは、彼が学ランを着ていたのと、突き刺すような鋭い眼光をしていたせいだ。
私が慌てて謝ると、彼も「悪ィ」と一言言ってそのまま行ってしまった。
どんどん小さくなっていく後ろ姿を、呆けたようにじ…っと見つめる。
「あの制服……うちの……」
みるみるうちに体が火照っていく。ゆっくりとした動作で両手を頬にあてると、思った以上に上気しているのが分かった。