コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』(2) ( No.30 )
- 日時: 2010/10/26 18:26
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: N9MWUzkA)
翌日。
太陽がわずかに地上に顔を出した、朝方。
荒木恵玲は、すでに人が寄り付かなくなりほぼ廃墟と化した建物の屋上の縁に腰かけ、フリルのミニスカートから伸びる細い足をブラブラと揺らしていた。
ついさっきまで真っ暗だった空が、ちょっと太陽が照らしただけで、黄色に近い白い光に包まれている。この時間帯は人通りがほとんどなく、ちょっとした無音の世界だ。とても神秘的な、まっさらな静寂を、彼女は心底楽しんでいた。
しかし彼女は1人でそこに座っているわけではない。
ウィル=ロイファー。同じ組織のメンバーである彼が、恵玲の隣にフェンスにもたれかかって立ち、同じ光景を見つめていた。ウィルが朝日を眺め小さく息をつくと、さびたフェンスがギシ…と音を立てる。
それから1分程して……
背後でザッとコンクリートを踏む音がし、2人は同時に振り返った。
「――来たね」
「白波くん……っ、久しぶり〜!」
二人が振り返った先には、随分と長身の青年が佇んでいた。
黒髪を高い位置で1つに結い、その長身にロングコートを羽織っている。ほぼ無表情に前方を見据えているためか、やけに大人びて見えた。それにしても、本当に何に対しても関心の無さそうな瞳である。
“白波”と呼ばれた彼は、なぜか脇に抱えているスケボーをガシャッと屋上のコンクリートに投げ捨てるように置き、ようやく口を開いた。
「時間だ。行くぞ」
立派に声変わりした、低い、声だった。
ウィルは頼もしく頷き、その横で恵玲も好戦的な、ギラギラとした瞳に切り替わっている。今にも舌なめずりまでしそうな勢いだ。
「行こう」
ウィルが合図をし、そして同時に――……
彼の姿が、一瞬にしてその場から消えた。
それを見た恵玲が、
「テレポートはラクでいいなぁ」
なんて楽しそういに言い、反動をつけるように足をたわめ、そして口元に不敵な笑みが刻まれ――
――飛んだ。
恐ろしいほどのジャンプ力で3つ先の建物に乗り移り、再び反動をつけて、その先の建物へ……。そうしてウィルがいる場所へとものすごいスピードで向かっていった。
そして、それを後ろから白波が追いかけていく。
彼の両足には、さっき持っていたスケボーが。その板の裏側には空気の渦ができ、彼ごとスケボーを浮かせ、切るような速さで滑空していた。
そうしてたどり着いた先は、目を見張るほどの大きな屋敷。その屋敷から見えない位置に、3人が足を下ろす。
「任務内容……わかってるよね?」
ウィルが声を抑えて言った。その視線は、屋敷の最上階の方へと向いている。
「でも任務って言っても、今日は下見でしょぉ?」
「そうだけど、盗れそうなら盗って来てって、影晴様が――」
「――誰だ!!」
「――!?」
突然、男の声と共に警備のライトが辺りに散った。
「まずい!!」
そのライトが恵玲ら3人に当てられる寸前。
ウィルが地面に右手のひらを押しつけ、
「テレポート!」
そう叫んだ。そして同時に3人の足元が白く輝き――
ライトが当てられた時には、彼らの姿は霧のように消えてなくなっていたのである……
気が付くと3人は、いつもの組織の集会場所――ウィルと白波の家の前に座り込んでいた。幸いここは人がほぼ全く来ないところに建てられているため、目撃されることはない。
ふぅっと息をついた恵玲は、隣でウィルが荒い呼吸を繰り返していることに気付いて、慌てて背中をさすった。
「ウィルく大丈夫!? ごめんね、こんな遠い距離! しかも3人……っ」
「大丈夫。……急だったから、ついここ思い浮かべちゃった……」
白波も何か言いたそうな顔でウィルを見つめていたが、結局何も言わないまま、ウィルが話を変えた。
「……すごい、警備だったね」
まさかあの位置で、あんなに早く見つかってしまうとは。
ウィルは困ったなぁという風に眉を下げていたが、恵玲は未だに不敵な笑みを崩さない。
「やりがいありそうじゃん」
心底楽しそうにそう言った。
それを見たウィルは苦笑に近いものを浮かべ、恵玲と白波を交互に見る。
「ま、恵玲の“アクション”と、白波の“風”の能力があれば、今回もどうにかなるよ。任務遂行日まで、色々考えなくちゃねー」
すっかり息を整えたウィルが、にっこりと微笑む。
恵玲もつられて満面の笑みを浮かべ、力強く、頷いた。