コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(2) ( No.414 )
日時: 2010/10/06 05:37
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KnqGOOT/)

 お菓子作りの話題が終わるのと同時に、玄関のほうからバタンッとドアの閉まる音が聞こえてきた。皆の頭に同じ人物がふっと浮かんで、彼らは一斉にリビングのドアに注目する。

「白波くん……っ」

 ドアの向こうから姿を見せたのは、いつも通り仏頂面の有希白波。
 ここにいる3人が全員身長160センチメートルに満たない小柄な体型のため、彼のような長身はどうしても目立つ。目立つはず、なのだが、彼の無表情と体を包む無関心オーラが、その際立つはずの存在感を打ち消してしまっているようにも見えた。

 皆が一斉におかえりと言って向かえるが、彼は特に気にする風もなくドアのすぐ横の壁にもたれかかる。そして呼び出した理由を聞くわけでも目で催促するわけでもなく、手に持っていたワインをおもむろに仰いだ。それを見て、お酒を飲める年齢になったらまず最初にワインを飲もう、とひそかに心に誓う恵玲である。

 ウィルは改めて確認するようにメンバーを見回し、頼もしい表情でうなずいた。

「みんな、そろったね」

 恵玲と水希はまっすぐと、ワインをすでに飲み干している白波はちらりと横目でリーダーを見る。それぞれと目を合わせて、ウィルは即本題に入った。

「今度の日曜日、麗牙光陰全員、影晴様の屋敷に集合命令!」

 語尾にハートマークでもついてしまいそうな口調で、にこっと嫌味なくらいに可愛らしい笑顔を浮かべるウィル。
 対して恵玲と水希はめいいっぱい目を見開いていた。耳を疑うような言葉が彼の台詞に含まれていたからだ。驚愕が先行して口をパクパクすることしかできない恵玲は、たっぷり10秒かけて、ようやくわずかに裏返った声を上げた。

「影晴様の屋敷ぃ!?」

 笑顔のまま、はっきりとした肯定の返事が返ってくる。思わず恵玲は隣に座る彼の二の腕につかみかかった。

「それって面会ってこと!?」
「痛い痛いっ。恵玲落ち着いて。自分の握力半端無いの忘れないで!」

 椅子から腰を浮かせて夢中で尋ねてくる恵玲に、ウィルは慌てて制止の声を上げる。
 すぐに、あ、と声を漏らして手を離す恵玲。体も元の位置に戻し、それでも瞳の奥の興奮は収まりきらない。見ると水希も色々と聞きたそうな顔をしており、ウィルはそんな彼女らに強く共感して、だからこそなおさら深いため息をつかずにはいられなかった。
 突然表情を曇らせたウィルに、2人は目を丸くする。

「なんで突然って聞きたいんだろうけど……」

 申し訳なさそうな顔で、首を横に振った。

「ぼくも詳しい話、何も聞かされてないんだ。ごめんね」

 何の責任もない彼にそんな風に謝られては、恵玲たちの方も居心地が悪い。
 弾かれたように慌てて彼を慰めようとした2人をさえぎって、今まで無言を貫き通していた白波が突然口を挟んだ。

「……行くのか?」

 脈絡のない台詞が予想外な方向から飛んできて、一瞬思考が追い付かない。3人はそろって、壁際に立ったまま腕を組んでいる彼をぽかんと見つめた。
 直後、改めて彼の台詞を咀嚼して再び頭を悩ませる恵玲達。この状況で行くか行かないかを問うのはどう考えても不自然だ。その真意がつかめずに、3人は首をかしげて彼を見た。

 彼らの顔を見て、白波は未練なく自ら退く。

「いや、何でもない」
「白波?」

 ウィルが気遣って声をかけるが、彼は特に残念そうな顔をするわけでもなく、くるっと3人に背を向けた。話が一段落したと判断したのだろう。実際伝えたい話はそれだけだったウィルは、じれったい気持ちを抑えながら引き止める理由もなく、リビングを出ようとするその後ろ姿を見つめた。

 しかしそのまま無言で出て行こうとした彼を、思わず、といった風に呼び止めた人物がいたのだ。

「――白波くんっ」

 わずかな誤差もなく足を止めた白波は、驚いたように後ろを振り返る。彼が何気なく向けた目は、期待に満ち溢れた恵玲の目と真正面からぶつかった。

「白波くん、この後時間ある!? どこか遊びに行こっ」

 この場で突発的に思いついたアイディアに、恵玲は我ながら名案だと大きな黒瞳を光らせた。