コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』(5) ( No.49 )
- 日時: 2010/10/23 07:52
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: N9MWUzkA)
時計の針が8時を指すと、私はお弁当と携帯電話、財布が入っていることを確認し、バッグを肩に下げて家を飛び出す。
こんなに遅い時間。もちろん父親はとっくに家を出ているし、生意気な中学生の弟も部活の朝練があると言って1時間も前に出掛けて行った。唯一家にいる母親だけが、エプロンをつけたまま「行ってらっしゃい」と手を振ってくれる。
「行ってきます!」
私はアパートの廊下を駆け、丁度来ていたエレベーターに乗り込んだ。
私と恵玲は、小学生の頃からずっと一緒に学校に通っている。
なんだかんだ言って恵玲はいつも私の味方でいてくれたし、私もそのつもりだ。ただ、彼女に関しては謎な部分が多すぎて、時々すごく不安に駆られたりもする。
いつだったか、彼女が珍しくひどく落ち込んだ様子を見せた時も、結局詳細は話してくれなかった。……涙を見せはしたが。
――……こんなに恵玲のこと知らないで、本当に親友って言えるんですかねー…
正直切実な悩みである。
アパートを出て正面の公園の方に歩いて行くと、丁度右手から恵玲が歩いてきた。足を止めて、彼女を待つ。
「おはよーです!」
「おはよ」
面倒くさそうな声音で返事をした恵玲は、ふと空を見上げ眩しそうに目を細めた。
「今日も晴れますねー」
気持ちの良い空気を思いっきり吸う。さわやかな、心地の良い朝だ。
深呼吸している間に、恵玲はさっさと先に進んでしまっている。慌てて小走りに追いつくと、彼女はちらっと目だけ向けて、
「昨日の、どうだったの」
さして興味もなさそうにそう言った。
一瞬驚きはしたが、恵玲はヘンに勘のいい子だ。……私と違って。
「やっぱバレましたねー」
別に困ることでも悔しがることでもないので笑ってそう言うと、恵玲は「で?」と前を向いたまま促してくる。私は昨日のことをざっと頭の中で振り返ってみて、ちょっとため息交じりに話し始めた。
「会ってきましたけど、実際そんなにしゃべってない気がしますねー。ただ、びっくりな発見が2つありました!」
恵玲がこちらに顔を向ける。
「何?」
「タバコ吸ってました!」
「……ありえる話じゃん」
なんだそんなことか、と言いたげな様子である。
しかし、私としてはもう1つの方が本題である。あの噂でも言われていない情報なのだ。
ちょうど2つ目の角を左に曲がって校舎が見えたところで、私は再び口を開いた。
「もう1つはですねっ」
「……」
「紫苑くん、1コ上なのです。留年生なのですよ」
さすがにそこは小声になった。
しかし恵玲は、先程と比べれば十分に興味のありそうな黒瞳をこちらに向けてきた。
「そっちは初耳」
「ですよねっ」
「……だから先生たち、案外落ち着いてるんだ」
恵玲の何気ない呟きに、私はなるほど、と思って大きく頷いた。
確かに、明らかに彼を避けている生徒に比べれば、先生たちは特別何かをする様子はないし、そのせいか入学以後予想していたほどには彼のことに関して大騒ぎしていない。きっとそれは、彼が大人しくサボる程度で済んでいることも、大きな要因になっているのだと思う。
そしておそらく、この先部活などで先輩と絡む機会が増えていくと、自然と彼が1コ上だということが知れ渡っていくのだろう。
「去年は、大騒ぎしなかったんですかね」
「考えてみたら、入学の時点で誰が入ってくるかなんて生徒にはまず分かんないじゃん。……先輩たちは入ってから気付いたんじゃないの? “紫苑風也がいる〜”って」
「そうかもですねー」
私はついため息をついてしまった。
噂って、恐ろしいな……と。
そんなことを話しているうちに、校門を抜け、昇降口にたどりついていた。家から学校までは5分しかかからないため、しゃべっているとあっという間だ。
左から2番目の下駄箱に向かうと、ちょうど静音が靴を履き替えているところだった。今日はシックなイメージのシュシュでポニーテールをしている。とても大人っぽい。
「おはよーです!」
「おはよぉ」
2人で笑顔で手を振ると、静音も軽く手を挙げた。
「おはよ。さっき何話してたの? 2人して深刻そうな顔して」
「見てたんですか!」
驚いて彼女に尋ねると、「見えてたよー」と意地悪っぽくニヤッと笑われてしまった。
私達が靴を履き替えるのを待って、静音も一緒に教室に向かう。歩き始めるとすぐに、「で?」と目で促されてしまった。話そうか少し迷ったが、仕方がない。私は好きな人ができた、ということだけを彼女に話すことにした。……もちろん相手のことは伏せて。
それから教室につくと津波と美久も混ざって、私の謎のひとめ惚れの人をネタに盛り上がったのである。