コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』(6) ( No.50 )
- 日時: 2019/07/01 16:00
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: y68rktPl)
1時間目の終わりのチャイムが鳴ると同時に、風也は屋上の扉を開いた。教室には行っていない。学校に1時間遅刻してきて、その足でここに来たのだ。
ここは、広い上に、誰もいない。彼のお気に入りの場所だった。
が、しかし。この日は少し事情が違った。
屋上の、しかもいつも彼が腰を下ろしている場所に、見知らぬ人物がいたのである。もちろん、あの友賀とかいう女ではない。
風也は扉を開いたところで立ち止まり、す…っと目を細めた。
随分と長身の青年だった。180…あるだろうか。少なくとも自分よりはずっと背が高い。その青年は黒髪を大雑把に高い位置でしばり、春物のロングコートを着ていた。今日は小寒いので、その格好でもそう暑くはない、かもしれない。
そして風也がつい目を見張ったのは、
青年がワインを片手にグビグビ一気飲みしている光景である。
――……コイツ、いくつだ?
自分のことは棚に上げて、風也は眉をひそめた。
外見からすると、自分と同じかそれ前後と言われればまぁ納得であるが、さすがに20歳を過ぎているとは思えない。というよりも、おそらく彼の背格好が見た目年齢を引き上げているだけで、顔だけみると自分よりも年下のような気が……。
風也はむらむらとした疑念を抱え、少しの間固まっていたが、すぐに青年とは逆側のフェンスにもたれかかった。バッグからさっき買ったばかりのお茶を取り出して、一口だけ口に含む。
そして再び青年へと視線を向けた。
……腹が立つことに、彼は全くこちらを気にしていないようだった。
「――オイ」
ここまで無視されると逆に興味がわいてくる。
適当に声をかけると、丁度ワインを飲みほしたのか、青年は右手に空のボトルを下げた状態でようやくこちらを見た。綺麗な顔立ちをしてはいたが、その瞳はどことなく暗く、何に対しても興味を示さなそうな瞳だった。
「……お前、ここの生徒じゃねぇだろ」
話題に困ったので、とりあえず彼の私服を指してそう尋ねる。
――……ていうかコイツ、どうやって入ってきたんだ
どう考えても怪しい。
果たして彼は、おもむろに頷いた。
「なんでこんなとこにいんだよ」
正直言って邪魔だ。そういう意味も込めて青年を軽く睨みつけると、彼は至極低い声で答えたのだ。
「……人が来なそうな所に来ただけだ」
風也の表情がわずかに緩む。
と、そこで風也はその青年の足元に、あるものを発見した。
――……なんだ、あのスケボー……?
青年がカタッとボトルをコンクリートに置く。それを見て風也は、再び眉をひそめて言った。
「お前いくつだ? ……まだ20歳いってねぇだろ」
青年が不愛想にぼそっと呟く。
「――14」
「――は!? ……14って、中学生じゃねぇか……!」
唖然として彼を見るが、彼は表情一つ変えずにこちらを見ている。
そのうち風也は不思議と、彼とは気が合うかもしれない、と思い始めていた。……もちろん、どちらも犯罪を犯しているからではない。彼の雰囲気と言うか、その瞳に透けて見える何かが自分と似ているような気がしていた。
もしかしたら、青年の方も同じことを考えていたのかもしれない。特に何をするわけでもなく、ぼんやりとこちらを見ている。
「……お前、名前は」
まるで当然の流れであるかのようにそう聞いていた。
彼も、無表情のまま少しも驚いた表情を見せない。
「白波。……有希白波だ」
「そうか…。オレは、紫苑風也。……よろしく」
決して仲の良い雰囲気とは言い難いが、しかし、確かにここには似た空気が漂っていた。
それから2人は会話もなく、ぼうっと空を見つめていたが、
「――そろそろ行く」
唐突に白波がそう言い、疑問符を浮かべて風也が振り返るのと同時に、
さー…っと風がわずかに渦を巻いて吹き荒れ、
白波の姿は忽然と消えてなくなっていた。
風也は風の名残の中で、しばらく呆然とその跡を見つめていた。