コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(10) ( No.568 )
日時: 2010/10/29 19:26
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: bFAhhtl4)


 私にとって恵玲は、心の底から信頼できる、大親友だった。

 小さい頃からたくさんおしゃべりをして、たくさん遊んで、些細なことでケンカをして次の日には何事も無かったかのように顔を合わせて。
 私と一緒にいる時の恵玲は、昔からつっけんどんな態度をとることが多かったし、上から目線の命令口調なことが多かったから、周りの人から見たらきっと首をかしげてしまうような2人だったのかもしれない。でも私は、彼女と共に行動することには何の疑問も抱かなかったし、むしろ彼女と一緒にいることで深い安心感を得ていた。

 確信が、あったのだ。

 恵玲は、絶対に私を裏切らないって。私は恵玲を本気で信じていいし、恵玲も間違いなく私のことを信じてくれているって。
 その気持ちに根拠なんてない。きっとこれは彼女と過ごしてきた時間がもたらしてくれた、ものすごく貴重なものなんだと思う。

 だからこそ私は、今まで迷うことなく恵玲に頼ってこれた。たくさん恵玲に助けてもらって、見えないところでもたくさん支えてもらいながら、過ごしてきた。

 唯一、私が彼女に全てを見せてきた一方で、彼女に関する謎が多すぎることだけが腑に落ちないけれど、それでもやっぱり、私の恵玲に対する強い信頼は決して揺らぎはしなかったのだ――……





 空一面をすっぽり覆ってしまった黒い雲。どろどろとした液体が流れていくようにゆっくりと、しかしあっという間に周囲に広がっていき、それがまた私の恐怖感をあおった。得体の知れない不気味な何かが、自分の身を襲ってくるようにさえ感じたのだ。

 あまりの恐ろしさに、私はパスタの見張りを放棄して、そそくさと自分の部屋に逃げ込んだ。そして走った勢いそのままに正面のベッドにダイブして、しばらく布団に顔をうずめていた。

 なにか嫌な予感が頭の中をぐるぐると回っていたが、それが具体的になんだかわからない以上、考えていても不安や焦燥感がつのっていくだけである。しばらく目を閉じて大人しくふかふかの布団に身を任せた後、このまま埋まっていても仕方がないと、私は跳ねるように上半身を起こした。ペタンと女の子座りをして、乱れたストレートの茶髪を手ぐしで整え、小さく浅い息をつく。
 そのまま、ベッドの上に放り投げられた白い携帯に目をやった。

 ――……外はなんか恐いことになってますし、風也うちに呼びますか

 不安が影を落としていた顔に、ようやく笑みを浮かべられる。

 私は先程かけそこねた電話を取り直し、そこでふと名案を思いついた。

 そう言えば一学期……夏休み前の頃に、風也がいつか下橋に招待してくれると言ってはいなかっただろうか。噂されているような暴力的な場所じゃないと彼も断言していたし、この機会に行ってみるのも悪くない、となかなか大胆なことを考えたところで……
 私はむむっと眉を寄せて部屋の小窓に視線を投げた。カーテンがかかっているため外の景色は全く見えなかったが、どういう色が広がっているかは容易に予想が付く。あの文字通りの暗雲が立ち込めているはずだ。そしてそのタイミングで下橋に行くというのは、感覚的に躊躇いが生じてしまう。

 やっぱり自分の家に呼ぼうと再決心して、私は今度こそ携帯を耳に当てた。