コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第1話『謎の闇組織E・C』(5) ( No.6 )
- 日時: 2019/07/01 15:47
- 名前: 友桃 (ID: y68rktPl)
「では、これから記念すべき第1回のHRを始めたいと思いまーす」
そう言ってにこりと可愛らしい笑みを見せてくれたのは、我が1年4組の担任の先生である。若い20代くらいの女性で、上品な、でもどことなく天然っぽい雰囲気をまとった人だ。白い小さな顔を綺麗に巻かれた黒髪が包み、膝丈のスカートから伸びる足もモデルのように細かった。
私は、こんな若い先生が…! と内心驚きながら、緊張も忘れて先生に魅入ってしまっていた。
「まず、私の紹介から……」
そう言って先生は私達生徒に背を向け、黒板にちょっと丸みを帯びた可愛らしい字で、“渡辺さやか”と書きつけていった。「よしっ」と小さな声で呟いて、再びくるっとこちらに向き直る。
……試しにこっそりとクラスを見回してみたら、皆が皆興味津々な瞳で渡辺先生を見つめていた。
「えっと……1年4組の担任になりました、渡辺さやかです。担当教科は英語で、たぶん皆さんの授業も受け持つことになると思います。まだ教師歴2年目ですが、精いっぱい頑張りますので、皆さんもいいクラスにできるように協力してくださいね! それでは、細かい話は後々ということで、とりあえず配布物を……」
そう言って先生は、教卓に置いてある大量の書類をガサゴソと荒らし始めた。当然ながら初日は配布物の量がバカにならないのだが、あれだけの量の書類を管理する先生方は本当にすごい。私達生徒は数枚のプリントでさえ完全には管理できないというのに。
ところが様子を見ている内に先生の顔が徐々に曇っていったのである。そして突然吹っ切れたように「うんっ!」と言って顔を上げ、何かを決意したような力強さで、
「ごめん、皆! 皆に書いてもらおうと思った自己紹介カードを職員室に置いてきちゃったみたいだから、取りに行ってきます――って、あぁ! まだみんなの名前も呼んでなかったね! じゃあ、取りに行ってから出席はとります。その間に皆さんは仲良くなっておいてください!」
言うだけ言って教室を飛び出して行ってしまった。
――……大丈夫か、先生……
いささか心配になった生徒たちである。
私はというと、先生が言い残した“仲良くなっておく”を実践しようと、周りをキョロキョロとしていた。同じような行動をとる人が他にもちらほら見えている。
とりあえず前後左右どこかの人に話しかけよう! と心の中で意気込んでいると、ちらっとこちらを振り返った前の席の女の子とバッチリ目が合ってしまった。
「あっ……」
「よろしくー」
「あ、はいっ、よろしくです」
私はほっとして持ち前の変な“ですます口調”で返事をする。
言葉遣いが気になったのか目を瞬かせた彼女は、それでも気を取り直したように話を続けてくれた。
「アタシ、谷田津波っていうんだ。名前、何ていうの?」
彼女――津波は、焼けた肌に、私よりも薄い茶髪の、ボーイッシュなタイプの子だった。ショートカットにしているのも、そのイメージを増幅させているのだろう。それに加えて、声がまたハスキーなのである。
私は今まであまり会ったことの無いタイプに非常にドキドキしていた。
「友賀亜弓です。亜弓でいいですよ」
「ほんと!? アタシのことも津波でいいから。でさ、タメでいいよ? 敬語じゃなくて」
やはり突っ込まれた。
私はやや苦笑いを浮かべて、
「気に障ったらごめんです。私元々誰にでも敬語…っていうより“ですます口調”なのですよ」
そう言うと、予想外に津波は「へぇー!」と目を輝かせた。
「“ですます口調”かぁ。かーわいいな〜」
なんて恐れ多いことを言う。
「そんなんじゃないのですっ。気付いたらお父さんのしゃべり方真似ちゃってたのですよ!」
なぜか津波はそんなどうでもいい話で爆笑してくれた。そういう雰囲気で私たちはどんどんお互いのことを話したのである。
津波は話せば話すほど、さっぱりとした、そして些細なことでも笑って場を盛り上げてくれる、明るい子だった。小学生の頃からずっと水泳部に所属しているらしく、茶髪なのもそれが原因らしい。
「じゃあ染めたわけじゃないんですか?」
「そ。髪が日焼けしたの。たぶんアタシ見た目ほどチャラくないよ。……第一印象怖かったでしょ」
「若干」
そう言ってわざとらしくにこっと笑うと、津波はニッと笑って突然私の机に身を乗り出してきた。
「そういう亜弓は染めたの? ソレ」
私はふるふると首を横に振る。「生まれつきです」と言うと、「へぇ〜、生まれつきでその綺麗な茶髪はうらやましいなー」と津波は頬杖をついてそう言った。
そこでガラッと教室のドアが開き、渡辺先生がプリントの束を抱えて飛びこんでくる。
「……自己紹介めんどくさいね」
前に向き直る直前に津波がそう呟き、私は「あはは……」と乾いた笑いを漏らしていた。