コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(2) ( No.726 )
- 日時: 2011/01/08 10:22
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 1/l/Iy6H)
- 参照: 2ページですww
「なん、で……」
今にも消え入りそうな恵玲の震える声が聞こえ、私はハッとして意識を現実に戻した。体の横で両のこぶしを固く握って、動揺した様子でこちらを凝視する彼女と目が合う。よく見ると、小さな唇をかんで泣きそうに眉を歪めてもいた。
しかし彼女はずっとそうしていたわけではなかった。私が自分自身の考えていることすら明確にわからず言葉に詰まっている間に、彼女はその瞳にじわじわと攻撃的な光を宿していったのである。それは今まで何度も見た、単に冷めた目つきなどではなく、威嚇するような敵対感情すら見える瞳だった。おそらく初めて向けられたその感情に、私は心臓を締め付けられるような息苦しさを覚えた。体がしびれたように動かない。それでも、かろうじて彼女の大きな瞳が潤んでいるのが見えたことが、奈落の底に沈みかけていた私の心をギリギリ引きとめてくれた。
こちらからでもわかるくらい、握った手に、絨毯を踏む足に、引き結んだ唇に、何よりつりあがった大きな目に重苦しいほどに力を入れた恵玲は、次の瞬間何かがはちきれたかのような勢いで声を吐き出した。
「なんで、ここがわかったの……っ。なんで、あたしがE・Cだって、わかったの!?」
最初は顔を伏せがちに、何かをこらえるように。そして最後には顔を振り上げてたたきつけるように。そんな彼女の全身の叫びに、私は完全に気圧されて思わず身を引いてしまう。無意識に胸元に右手をやって空唾を飲み、ゆっくりと目を見開いた。そのまま黙って正面にいる恵玲を見つめていると、彼女が肩で息をし、決して泣かまいとするように目を幾度も瞬いているのがわかる。
そして彼女はまだ言い足りなかったのか、整えるように大きく息を吸って、再び激しい言葉を投げつけてきた。
「あたしは……、あたしは……っ! あんたにだけは知られたくなかったの! 風也くんも津波も美久も静音も、今までの友達誰にも知られたくないけど、その中でもあんたにだけは絶対に知られたくなかったの!!」
ところどころ涙声になりながら、恵玲は訴えかけるように胸の中のものを吐き出す。そうして息を切らしている彼女を闇組織のメンバー2人が気遣うように肩に手を置くなり背中をさするなりしていたが、その光景に私の意識は全く向けられていなかった。私の視線はずっと彼女を一直線にとらえたままだったのだ。彼女を見る目に徐々に徐々に力がこもっていくのが、自分でもわかった。
ぐちゃぐちゃに乱れていた、逆に乱れすぎて思考を停止させていた私の頭が、このときようやく目が覚めたように輪郭を取り戻していった。そして同時にある感情が、私の中で明確に固まっていったのである。じわじわと、理解が胸の内に広がった。
――……あぁ、やっとわかりました。自分の考えていたことが。伝えたい、ことが
言いたいことはたくさんある。言葉が、感情が、あふれかえってくる。でも、その中で絶対に伝えなくてはならないことがあるとしたら――
私は先程の恵玲と同じように両のこぶしを力いっぱい握って、一歩前に踏み込んで、彼女に負けないくらいの勢いで叫んだ。
「どうして……知っちゃいけないんですか!?」
根本を覆すような反論に目を瞬く恵玲に向かって、私は言葉を続ける。
「どうして、私は恵玲に全部話してるのに、恵玲は私に何も話してくれないんですか!? 仕方ないって、恵玲は自分のこと話さない子なんだって、……秘密がいっぱいある子なんだって割り切ってたって、そんな風に言われちゃったらいくらなんでも悔しいじゃないですか! 小さい頃からずっと一緒にいたのに。私は恵玲の……親友なのにっ!!」
顔が火照る。のどが、熱い。次々に出てくる言葉とともに、涙まで噴き出してきた。頬を伝う滴はやけに熱をもっていて、それを意識するだけでのどが焦げるように熱くなった。
大した量は喋っていないというのに、極度に張りつめた感情のせいかあっという間に息が切れてしまう。感情の高ぶりでぼんやりとしてきた頭に顔をしかめながら、私はしばらく息を整えていた。
恵玲は眉根を寄せ、涙をこらえるように目に力を入れてこちらを見ている。その震える唇が開く前に、私はやや大きい呼吸を繰り返して、先ほどよりは落ち着いた調子で再び彼女に尋ねた。
「小学校に入った頃から急に家に入れてくれなくなったことは、やっぱりE・Cに関係してるんですよね?」
恵玲が虚をつかれたような顔をする。
十分に予想はついた。恵玲がどういう能力を持っているかはわからないが、いくつか不思議な、それこそ魔法みたいな能力を私は目にしている。そういうあるはずのない能力を自分の子供が持っていたら、親はどうするだろう。どう、感じるのだろう。
――悔しい。悔しかった。恵玲に何もしてあげられなかった自分が。相談すらしてもらえなかった自分が。あまつさえ、……守られる側にさえなったことのある自分が。
何も返事をしない恵玲に、私は涙混じりの声でささやくように言う。
「私、そんなに信用できませんか……?」
恵玲がめいいっぱいに目を見開く。何かを言いかけて、すぐにその口を閉じる。
私の視界には、頭の中には、すでに恵玲しか存在していなかった。
「言っちゃいけないって言われてたんですか? E・Cのこと喋ったら、私が警察に突き出すとでも思ったんですか? 闇組織のことを、恵玲のことを、軽蔑するとでも? それともまさか、私が――」
「――悪いけれど、そのへんにしてもらおうかな」