コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(3) ( No.751 )
日時: 2011/01/08 10:25
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 1/l/Iy6H)

「恵玲!?」
「恵玲姉ちゃん!」

 外野から驚愕と不安の入り混じった声が飛んでくる。

 しかし、さすがと言うべきなのだろうか。彼女はそう簡単にやられる人物ではなかった。
 蹴りで思い切り吹き飛ばされた恵玲は、床に滑るように肩から着地した瞬間、手の平で床を押してその反動で一回転。そのままトンボを切って風也と間隔数メートルの位置に華麗に着地したのだ。風也がピゥッと口笛を吹き、興奮した目で彼女を見る。恵玲も服についた汚れを申し訳程度に払いながら、「痛いなぁ、もう」と呟き、悔しさと興奮を混ぜ合わせたようならんらんと光る瞳で彼を見据えた。

 不意に、「あ……」と風也が思い出したように呟く。

「今の、この間屋上でケンカ売ってきたやつの礼ってことで」

 一拍置いて恵玲が苦い表情を浮かべて頷く。

「あぁ、亜弓とのときのやつね。ていうか今、展開一緒だったよね? あの時は確かあたしが投げとばして、風也くんが綺麗に着地したんだっけ?」
「確かそうだな。てかお前と型が似てて地味にびっくりしてるんだが」
「うん、あたしも思ってた。蹴るのとかステップの感じとかね」

 恵玲が好意的に微笑んでいる。妙に柔らかい空気になってしまい、風也はつい緩んでしまいそうな緊張感をどうにか体の内にとどめていた。このままだと周りに亜弓やE・Cのメンバーがいることすら頭から飛んで、こちらに没頭してしまいそうである。おそらく恵玲も似たような状況だろう。再びその瞳に不敵な色を宿した彼女は、小さな唇で弧を描いて、舌なめずりまでしている。風也はつい呆れたような空笑いをもらしそうになったが、自分も人のことは言えない、と内心苦笑していた。

 外野はふたたび静まり返っている。いや、もしかしたら自分が恵玲との対決にのめりこみすぎて、周囲の音を遮断してしまっているだけかもしれない。そう考えた瞬間、不意に小さな危機感がわいてきて、風也はチラッと横目に扉の方を見た。亜弓が胸元に手をやったまま、困ったような顔つきでキョロキョロと視線を走らせている。とりあえず無事であることがわかって風也はほっと息をつき、改めて気合を入れ直した。

 そして恵玲と視線を合わせ、お互いすぐにでも動けるように片足を引いて、相手の動きをつりあがった目でじっと観察して……

 ふと斜め後方――亜弓のいる位置に新たに人の気配が生じて、風也は血の気の引いた顔で勢いよくそちらを振り返った。

 彼の視線の先で、申し訳なさそうに眉を下げたウィル=ロイファーが、テレポートで亜弓の背後に出現。彼の手刀が、亜弓の首筋にたたきこまれようとしていた――