コメディ・ライト小説(新)
- Christmas Short Story ( No.774 )
- 日時: 2010/12/29 13:31
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 1j9Ea2l5)
するといつの間にか津波から回ってきたカードを持っていた風也が、二つ折りのそれを開いてこちらを見た。
「これまだ何も書いてねぇけど、何頼むかは決めたのか?」
そういえば、と津波らの視線も集まる。私は風也がたたみ直して渡してくれたカードを受け取りながら、わくわくする気持ちを抑えられずに頬を緩ませて言った。
「まだ決めてないんですけどね。今のところ1番の候補は“kaya”のアルバムなのですー!」
「あーちゃんほんと音楽好きだね」
「はいです。みんなは何もらうんですか!?」
こういった話題は大好きで身を乗り出すような勢いでそう尋ねると、津波たちも断然話に乗ってきてくれた。津波なんかきらりと目を光らせて今年のプレゼントはほぼ1年前からほしかったやつなんだ、と熱く語っている。買ったほうが早くないかと風也がぼそっと呟いていたが、彼女は構わず頬を紅潮させて弁舌をふるっていた。
そうして特別なことは何もやらないまま、時計の針は驚くほどの速さで時を進めていく。気付いた時には4時間という時が流れており、私たちはみんな驚愕に声を上げ、このメンバーの居心地のよさをしみじみと感じていた。
凍えるような寒さ。乾いた風が肌をかすめるだけで鳥肌が立つように体中に冷気がしみこむ。時折ぶるっと身震いをしながら、恵玲は自分自身を抱くように体に腕をまわした。
クリスマスイブ。……残り十数分で日付が変わる時間帯。
あたりには闇が降り、塗りつぶしたような黒が視界をふさいでいる。家から漏れる明かりと気休め程度の数の街灯が闇のなかにぼんやりと白く黄色っぽい光を浮かべていたが、それでもこの道を歩くのを怖がる女性は結構多いだろう。恵玲もこの道はよく歩くが、後ろから闇がひたひたと迫ってくるような、そんな錯覚に陥ることがたまにある。彼女の場合仮に襲われても倍返しできるので、錯覚から恐怖が生まれることはそうなかったが。
彼女は今、亜弓の住むアパートの屋上の淵に腰かけている。そうして特別何かをするわけでもなく、ぼんやりと景色を眺めていた。足元に見える住宅街や、あるいは空に点々と光る星を仰いで静かに過ぎる時を楽しんでいる。
不意に体の内側から震えが広がり、恵玲は小さくくしゃみをもらした。少し薄着すぎたかもしれないと自分の腕をさすったとき、
ふわっと包み込むように背中にぬくもりが広がった。ハッとして自分の肩のあたりを見ると、黒いダッフルコートが優しくかけられていた。
「どうしたの? こんなところで」
凛とした優しい響きの声とともに、隣に“彼”が腰を下ろす。そちらを見た恵玲は、コートの襟元を両手で合わせながら頬を染め艶やかな笑顔を浮かべた。
「ウィルくんこそ、家にいたんじゃないのぉ?」
彼女の台詞に、ウィルは微笑むのみ。彼の長い銀髪は暗闇に映えてまた一段と美しかった。
恵玲は視線を前に戻し、囁くようなどこか幻想的な声音で言った。
「もうすぐクリスマスだよ」
「そうだね。今年はサンタさんは来るかな?」
そう言ってにこっと笑うウィルに、恵玲は愛しげな表情を浮かべて優しい声音で言う。
「ウィルくんが、やってくれてるんでしょ?」
彼は特に驚くことはなく、あくまで落ち着いた様子で切り返した。
「違うよ。毎年サンタさんが来てくれてるんだよ」
恵玲が彼を振り返って微笑む。そして不意に立ち上がり、空を仰いで一面を見まわした。
漆黒の海に散る白く小さな星々。そして先程まではあまり意識して見ていなかった、半月よりは少し膨らんだような形の金色に光る月。
それらを唇に浅い弧を描きながら見つめていると、不意に視界を真っ白な綿のようなものが横切った。重量を感じさせないそれが舞うようにふわふわと空から落ちてくる。そのひとつが恵玲の頬に着地し、しゅ……と縮まるように溶けて冷たい水になり、彼女は思わず片目を閉じて頬に指先を当てた。
「雪だ……」
ウィルが吐息とともに声を吐き出して、落ちてくる雪を受け止めようと手のひらを空に向けた。その蒼瞳がうれしそうに細められる。
恵玲も彼の真似をして空中を舞う綿をつかまえようと両手を掲げたとき。
彼女はゆっくりと目を見開いて、突然きょろきょろとあちこちを見回し始めた。それも、空の方を見上げて。
「恵玲?」
ウィルが立ちあがって首をかしげる。すると恵玲はどこか呆けたように呟いたのだ。
「今……鈴みたいな音が聞こえた」
彼女の台詞に、ウィルは目を瞬く。それから同じように真っ暗な空を見上げて耳を澄ます。互いの息遣いさえ聞こえるほどに辺りは静まり返り、心地よい緊張の中2人は身じろぎひとつせずに“音”を待った。
数秒後。
ウィルがほうっと感慨に満ちたため息をついた。目を純粋に輝かせ、空を凝視する。
「本当だ……。鈴の音だ……」
そして直後、
2人ははからずも見てしまったのだ。
金色に輝く月を横切る、黒い、影を……。
息が止まるかのような驚きとともに、2人揃ってこれでもかというくらいに目をめいいっぱい見開く。そして2拍ほどの間の後、ウィルは急いで上着の袖をまくり時間を確認した。
今まさに、時計の針が深夜12時を回ったところだった。
「メリークリスマス……」
ウィルが囁くような声で呟いた。
* * * * * * *
ちょっと(かなり?)早めですが、
メリークリスマスww