コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(7) ( No.870 )
- 日時: 2011/02/19 09:16
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
- 参照: 2ページです
主・影晴の入室を促す声に続いて、ゆっくりと、もどかしいほどにゆっくりと開かれる扉。時が止まったかのように固い静寂が部屋に満ち、ひんやりと肌をかすめる空気さえ感じ取れるような緊張が身を包む。何が起きているのか頭の中の整理がつかない状況で、絨毯をこする扉を凝視する麗牙光陰の面々。その目は、あまりに唐突で予想外な展開に見開かれている。
ウィルとて例外ではない。澄んだ蒼瞳を驚愕に揺らす彼の脳裏に、麗牙のリーダーを任されたばかりの頃の記憶がよみがえる。
――“実は君たちの他にも、もうひとつE・Cのグループがあるんだ”
まるで家族を紹介するように、あたたかい声でそう言った影晴。少々違和感を感じるほど今と変わらない顔に深い微笑みをたたえ、麗牙光陰の仲間――“月下白狼”の存在を彼は教えてくれた。今でも覚えている、その時の……気持ち。“仲間がいる”――ただそれだけで、うれしさに、頼もしさに、体の内側からじんわりと広がるようにみなぎってきた、力。
そしてだからこそ、その直後の影晴の哀しそうに眉を下げた表情をはっきりと覚えているのだ。心底申し訳なさそうな、なだめるような声を。
――“でも、ごめんよウィル。まだ君たちと直接会わせることはできないんだ”――
もちろん、その理由が気にならなかったと言えば嘘になる。しかし当時のウィルは、自分以外にもたくさんの能力者がいると知るだけで十分だった。当時すでに紹介されていた、“白波”という仲間が隣にいるだけで、十分だったのだ。そしてやはりそれ以上に、主を困らせるようなことを彼はしたくなかったのである。
しかし、今その“もうひとつのグループ”が、ウィルの手の届く場所にいる――!
――……月下、白狼……? ほんとうに……!?
ふっと冷たく細い息を吸い込むと同時に、呼吸が止まるような息苦しさを感じた。かすかに震える指先で胸元をギュッとつかみ、どうにか心を落ち着けようとしたが……
扉の奥からのぞいた服の袖と、靴のつま先を視界に入れた途端、彼の体温は爆発的に上昇していた。隣にいた恵玲がむき出しの二の腕を掴んでくることにも気付かずに、ウィルは姿を完全に現した2人の男性に、茫然とした表情のまま視線を走らせた。
1人は落ち着いた雰囲気の、年上の男性だった。年齢はおそらく20代前半か半ばくらいだろう。比較的がっちりとした肩に対し、小さなつくりの顔。きちんとセットされた黒くつやのある髪。特別オシャレな髪型ではなくいたってシンプルなものだが、十分に清潔感があり、彼の真面目そうな顔ともマッチしている。芯の強そうな瞳と、顔に違和感なくおさまった黒縁眼鏡。鼻筋は通り、口元は緩むことなくがっちりと結ばれている。白波並みに背が高いが、彼のような細身の印象はあまり受けない。どちらかというとある程度鍛えられた感じの、ほどよく引き締まった体だ。質の良さそうなグレーのワイシャツに、きっちりと襟元で結ばれたネクタイは、色や柄の相性が抜群である。
それに対しもう1人の青年は、ぐっと年齢が下がり、ウィルあるいは恵玲と同じ年くらいのように見えた。つりあがった目に、細く整えられた眉。乾いた質のちょっと傷んだ黒髪は所々大きくはね、寝起きなのかセットしてそうなっているのか判別しがたい状態になっている。目に余裕でかかる長さの前髪は、真ん中から分けられ左右の目の端を隠す形になっている。ストライプのシャツに黒い薄手のベストを重ねているが、下はデニムをかなり浅くはいており、加えてシャツが半端にズボンからのぞいていたりして、全体的にだらんとした印象の青年だった。
ウィルが、信じられない思いでどことなく対象的な2人を見つめていると、彼らも当然こちらに興味を示してきた。先の黒縁眼鏡の生真面目そうな青年がウィルにがっちりと視線を合わせ、何かを見極めるかのように眼鏡の奥の目を細める。そこに負の感情はなかったが、しっかりと唇を引き結んだまま穴が開くほどにこちらを見つめてくるので、ウィルは自分の体が指先まで緊張し強張っていくのを感じていた。特に敵意をむき出しにされたわけでもないのに、なにやら透き通るようなプレッシャーを感じ取っていたのだ。
と、そこで。
その隣に立っている少し崩れたイメージの青年が、突然かすれた大声をあげた。
「すっげーッ!! あいつめちゃくちゃ可愛くね!?」
麗牙光陰全員がびくっと肩を震わせて、声の主――ぴんと伸ばした人さし指でウィルの隣を示している青年に視線を集中させる。直前までの妙に緊迫した空気を見事にぶち壊してくれた彼は、真っ直ぐ前に突き出した右腕を上下に振りながら、そのつり目で隣の黒縁眼鏡の青年を見ていた。彼が振っている右腕には、オシャレなリストバンドがはめられている。どうやら彼は隣に立つ仲間に共感してほしいようだが、その目が外見からのイメージと違いとても純粋に光っていて、ウィルは少し意外に感じていた。
それから彼が遠慮の欠片もなく指差している方向を目で追っていくと、その先に予想通りぽかんとした表情の恵玲が立っていて、ウィルは内心何度もうなずいてしまった。確かに恵玲はその辺にいる子と比べると、かなり可愛い部類に入るのだろう。同時にそこらの男じゃ太刀打ちできないような恐ろしい能力も持っているが。
そんなことを考えながら思わずくすっと笑みをこぼしてしまったウィルは、直後、彼女の大きな黒瞳がす……と細められるのを見て、さりげなく視線を前に戻してしまった。なんとなく恵玲はあまり見られたくない表情だった気がしたのだ。どうやら彼女は月下の青年に意識を集中しすぎてこちらの視線には気が付いていないようだったので、ウィルはそのまま何も見なかったことにすることにした。