コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(3) ( No.906 )
日時: 2011/03/22 12:14
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)


 しばらくしてひとしきり笑い終えた有衣が、私の手を引いてテーブルまで連れて行ってくれた。そして彼女に手で示された席――伸次の隣に座ると、夜ゑがすぐに冷たい紅茶の入ったコップを置いてくれる。カランカラン……と、コップの中の氷が涼しげな音を立てた。
 私が甘い紅茶を一口含んだところで、正面に座った有衣が私の名前を呼んだ。その声にこたえて顔を上げると、彼女は今までの会話を苦笑を浮かべつつ静かに見守っていた銀髪の男性を、どこか自慢げに紹介してくれた。

「こっちが頼りになるサブリーダーの芝崎功! アタシら以外は皆“功兄(にい)”って呼んでるかな」

 「頼りになるのは風也の方だろうが」と呆れ顔でぼやきながらも、功はこちらと目を合わせ会釈をしてくれた。やはりさすがサブリーダーというか、人の上に立つオーラや風格を持った人である。

「友賀亜弓ですっ。よろしくです」
「あぁ、よろしく」

 私がやや固くなりながらぺこりとお辞儀をすると、功は笑って穏やかな声で答えてくれた。

 外見が銀髪な上に、いかにも鍛えてそうな筋肉質な体なので少し怖そうに見えるのだが、実際はもっと優しい人のようだ。よくよく見てみれば、とてもあたたかい目つきをしている。他のメンバーに比べて口数が少ない方なのか、皆が盛り上がっているのを横で楽しそうに口元だけ微笑ませて見つめている様子だった。確かにこの人がグループの重要な位置にいたら、かなり頼りになりそうである。

「やっぱりリーダーとかサブリーダーとかあるんですねー」

 ぼんやりとした声で今さらなことを独りごちると、不意に有衣が何かを思いついたようにパンッと手を鳴らした。

「そういや亜弓、下橋がどういうところか全然知らないんじゃね?」

 私は待ってましたとばかりに目を光らせ、何度もうなずく。実は、ここに来たら真っ先に聞きたいことだったのだ。下橋は風也が深く関係している場所だというのに、全然知らないというのも結構悲しいことなのである。下橋の人達がどういう風に生活しているのか、部活みたいな上下関係があるのか、喧嘩は本当に強いのか、そもそもなぜこういう場所ができたのか……。聞きたいことは山ほどある。

 すると今度は、功が椅子を引き立ちあがって有衣の方を見た。

「俺がこのへん案内ついでに色々話してくる。有衣は今日昼飯の当番だろ?」
「おぅ! あ、どうせ案内すんならあの湖は絶対連れてけよ!」
「わかってる」

 正面でなされる会話を、私は期待に満ちた目で見つめていた。

 ――……“あの湖”ってなんでしょう……?

 湖と言うだけでも、十分に期待が膨らむ。わくわくしてくる。
 私は頬を紅潮させながら、すでにもう椅子から腰を浮かせていた。隣に座っている伸次が「楽しんでこいよ〜」と手を振ってくれている。

「はいです!」

 どんどん楽しくなってきた私は力強くうなずくと、すでに玄関の方でこちらを振り返り待っている功の元に、小走りで駆け寄っていった。隣に並ぶと彼は体格がいいだけでなく背もかなり高くて、やっぱり少しだけ緊張してしまう。でも話してみれば優しい人なんだからと自分を励ましつつ、彼が下駄箱から出してくれた靴をはいた。
 功がドアを開けてくれる。私が外に出る前に中を振り返るのと、有衣がニヤニヤと、夜ゑがにっこりと笑いながら声をかけてくるのは同時だった。

「初デート行ってら〜」
「風也にはちゃーんと伝えておくね」

 「えっ!」と思わず濁点が付いてしまいそうな勢いで叫ぶ私の手を、功が引く。

「あいつらの言うことは気にすんな」

 冗談だ、と彼は静かに苦笑をもらしていた。