コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(4) ( No.912 )
- 日時: 2011/03/24 16:45
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
話しているうちにいつの間にか私達は、駅前の大きな広場に出ていた。円形に広がるアスファルトの地面。その周りを囲むように並ぶ店。私の位置からちょうど広場を挟んで正面に見える、小さな駅。広場では小中学生の男の子と数えるくらいの数の女の子が、バスケットボールで盛り上がっている。その中には先程家の中で見かけた集団も混じっているようだ。運動会の玉入れで使うような棒のついた籠を両端に置き、そこを目指して皆が全力でボールを取り合っている。ほとんどが半袖のTシャツに短パンもしくは七分丈のズボンという格好だが、どの子も例外なく全身にびっしょり汗をかいているようだ。肩で息をしながら、手の甲で汗を拭いているのが見える。いつもよりは乾燥していてさっぱりとした空気とはいえ、この炎天下のでは仕方のないことだろう。それでも皆、焼くように照らす太陽にも、全身から噴き出す汗にも負けることなく、バスケを楽しんでいる。あまりにもボールの動きに夢中で、こちらには気が付いていないようだった。
彼らが楽しそうに遊ぶ光景を熱心に見つめていると、功が建物の壁に寄りかかりながら尋ねてきた。
「亜弓、もしかしてバスケ好きなのか?」
突然名前で呼ばれたことに驚きながら、曖昧に笑って首をかしげる。
「ん〜特別好きってわけではないのです。球技は苦手ですし。でもなんか皆楽しそうだなって思って」
彼らを見ていると不思議と混ぜてもらいたくなってしまう。恥ずかしいので言えないが。
私の答えに、功はちょっとだけ残念そうに言う。
「そっか。伸次がずっとバスケやってるから、話が合うかもと思ったんだけどな」
「伸次って……しーちゃんって呼ばれてた、あの……?」
「そう。いじられてたあいつ」
そう言って功は口元に笑みを浮かべる。そんな彼の顔をやや顎を持ち上げて見上げながら、この人はきっと周りからすごく慕われているんだろうな、と確信に近い気持ちで感じていた。言葉の節々がどことなく優しいのだ。声音も、性格の真面目さが出ているのか、からかうような調子があまりでない。
私は先程夜ゑに遊ばれていた三和伸次という青年を頭に思い浮かべながら、再び歩き始めた功の後についていった。正面の広場の方ではなく、右に曲がり広場を左に見て歩くかたちだ。物騒な赤い落書きが目立つ横に長い建物に沿って歩く。駅から見ると、広場を挟んで右奥の道から来た私達は、今度は左奥の方の道に歩いていくことになる。広場が建物の陰で左手に見えなくなると、功は最初の角を右に折れ、細い道に入った。
彼が唐突に話を切り出したのは、そんなときである。
「有衣達のことで何か知りたいこととかあるか?」
私はクレープを食べきって残ってしまった紙を幾度も折りたたみながら、気になっていたことを即彼に尋ねた。
「皆って同い年なんですか? 有衣ねーさんが大学生っていうのは知ってるんですけど」
今歩いている道は、今までの道よりもさらに整備がなされておらず、人気もない。もちろん営業している店なんかは見当たらず、極めつけには歩いている道が途中から土にまでなってきた。もうアスファルトですらない。しかしそれが逆に湖を連想させ胸が高鳴り、気付かれないくらいにこっそりとスキップで歩いてみたりもした。
ゴミ箱を通りかかったところで、功は私がずっと手でいじっていた紙を捨ててくれた。ゴミがちゃんと入ったのを確認して、口を開く功。
「えっとー……俺以外は皆タメ。俺は大4だけど、有衣と夜ゑと伸次は皆大1だ。夜ゑと伸次なんかはガキの頃からの幼馴染だっていうしな」
「幼馴染! すごいのです……っ」
クレープ屋のおばちゃんの発言を思い出し、私はつい興奮した声を上げる。目が突然輝くのが自分でもわかった。
こういう他人の恋愛関係の話は大好きなのである。2人の顔を頭の中で並べると、思わず笑みがこぼれてしまう。絶対にお似合いのカップルだ。先程の家での会話からして、なかなかユニークな間柄ではあるようだが。