コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(5) ( No.918 )
日時: 2011/03/26 14:08
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
参照: 2ページですww


 空を見上げると、ちょうど太陽が私達の真上に来ていた。功がふぅと息をついて今の時間を尋ねてくる。携帯を開くと、画面には“11:48”と表示されていた。思い出したように鳴りだしたお腹の音が聞こえないように、大きめな声で時間を彼に告げる。うなずいて腰を上げた彼に続き、私もスカートについた土を払いながら立ちあがって、たまっていたメールを急いで確認した。

 緋桜の寝室にいるときに、母親と一応恵玲にメールをしておこうと思っていたにもかかわらず、結局やらないまま時間が経ってしまっていた。案の定来ていたメールはその2人から。母親の方はやはり家に帰ってこない娘を心配する文面だったが、恵玲の方は遊びの誘いなのか何なのか今の居場所を問うものだった。
 功の迷惑にならないよう、できるだけ簡単に打ってしまおうとすごい勢いで指先を動かしていると、当の彼が私の横に並び、

「親からか?」

ちらっと視線を投げ、聞いてきた。私がうなずくと、功はちょっとだけ目を伏せて「そっか……」と小さくつぶやく。どこか寂しそうな、でもとても優しい、心情のつかみづらい表情をしていた。なんだか不安になってしまった私が歩きながら表情を伺っていると、彼はふっと笑って心に染みいる声で言ったのだ。

「……大事にしてやれよ」

 彼の台詞に、思わず私は目を見開く。しかし彼はそれ以上その話を続けることはなく、私も追及することなどはできず、ただゆっくりとうなずいて、彼の言葉を心に留めておいた。

 冗談など言えない空気の中緋桜の家に向かって歩いていた私は、功が隣で独り言のように呟いた声に、少し驚いてそちらに視線をやった。彼は右手を顎のあたりに当てながら、何かを考えるように眉根を寄せている。少しすると、彼はなぜか声のトーンを落として私に尋ねてきた。私の目に、彼の顔はどこか哀しそうに映った。

「そういえば亜弓、風也の家のこと何か聞いてるか?」

 思わず目を瞬いて、疑問符を浮かべた顔で彼を見る。それを見た彼が、「そうかまだ話してないか」と呟くのを耳にして、途端に胸がざわついた。

 私はそんな話は全く聞いたことがない。それなのに、彼は知っている。風也の家のことを。そして彼が知っているということは、おそらく他の緋桜のメンバーも知っているということではないか。
 それに気がついた途端、影が光を隠すように自分の顔を影が覆うのをはっきりと感じとった。不安や寂しさがぐちゃぐちゃになった得体のしれない負の感情が、私の心を一瞬で覆う。胸の辺りでむらむらとした不愉快なものが存在を膨らませていた。それを自分自身認識して、愕然としてしまった。今の自分の気持ちを、嫉妬と呼ばずに何と呼ぶのか。皆が知っていることを自分だけ知らないことと同じくらいに、自分がそういう感情を抱いたことがショックで、無意識に唇を尖らせムッとした表情をしてしまった。

 それを知ってか知らずか、功が伏せていた目を上げ、口を開く。

「あいつは自分からは話さないかもな。亜弓にだったら聞けば話すと思うけど……」

 顔を曇らせたまま、彼と目を合わす。すると彼はひどく真剣な、そしてちょっとだけ申し訳なさそうな顔で、真正面から私を見て言ったのだ。

「風也には、妹がいるんだ。でも色々あってあんまりうまくはいってない。俺からは勝手に人の事情ペラペラ話すわけにいかないから、これくらいしか教えてやれないけど……いつか、あいつの話を聞いてやってほしいんだ。風也、外では気付かれないようにしてるけど、体調に出るくらい本気で悩んでるから」

 いつの間にか黒々とした感情は消えて、ひたすら真摯な気持ちで功の話を聞いていた。そして私はなぜか少し泣きそうになりながら顔を歪めて、固い声で「わかりました」とうなずいた。