コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(5) ( No.919 )
日時: 2011/03/26 14:09
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)


 その後はようやく重い空気が消え、談笑しながら帰路につき、緋桜の家にたどりついていた。扉を開けるのと同時に、風也の綺麗に染まった金髪が目に飛び込んできて、私はほっと胸をなでおろしていた。
 家に入るとすぐに、中にいた皆から「おかえり」と声がかかり、ぽっと蝋燭が灯るように胸があたたかくなる。あの大きな木のテーブルに、風也と有衣、そして伸次と夜ゑが座っていたが、皆例外なくこちらに視線を向けている。自然と満面に笑みが浮かんだ。私は何かいいことがあった後に家に帰る時のように、明るい声で言った。

「ただいまですー!」

 両腕で頬杖をついている夜ゑが、にこっと笑みで返してくれる。そういう些細な表情がうれしくて、頬の緩みがどうしても抑えられなかった。



「本当に一体どうなってんだろうな」

 風也が不服そうにそう言ったのは、6人で昼食を取り終えた後、私と2人でテーブルについたままお茶を飲んでいるときだった。

 風也は、私が帰ってくる少し前に目を覚ましたらしい。まだ少し微熱があるせいかあまり顔色が良くないが、本人はこれぐらいなら大丈夫だと言っている。しかし口には出さないがまだ頭痛も残っているようで、時折顔をしかめて側頭部辺りを手で押さえている。後でまた寝かせた方がいいかもしれないと考えながら、彼の疑問に私も頭を悩ませた。
 風也も私と同じく、どうして駅前で眠っていたのか、全く身に覚えがないらしい。幾度となく首をひねっている。

 私も全く見当がつかないので一緒になって納得のいかない顔をしていると、不意に「あーゆみっ」というやけに楽しそうな声とともに、誰かが後ろから首にしがみついてきた。驚いて後ろを振り返ると、有衣がニッと歯を見せて笑い、親指2二階の方を指さした。

「2階、案内するからついてきな」

 命令口調だが、なぜかそれが彼女だと全然不快に感じない。今までの疑問なんか頭から吹き飛んで、私は思わず顔を輝かせた。風也が見送りをするようにひらひらと手を振っている。探検気分で元気良くうなずきながら、あわよくば革命のことも聞いてしまおうと心の中で気合を入れていた。



 緋桜の家の2階は、1本の廊下を中心に、その左右に部屋が並んでいる。階段を上ってすぐ右手にあるのは洗面所やトイレやお風呂。左手にあるのが、私がお世話になった寝室である。廊下を真っ直ぐ進んだ先の右手、つまり洗面所の隣にあるのが、シンプルな机がいくつも並んだ勉強部屋だった。そういう部屋があることをちょっと意外に思いながら有衣の後をついていくと、彼女は勉強部屋の正面の部屋に何も言わずにずんずんと入っていく。そこまでの部屋はのぞくだけだったので、入っていいのか分からずに入口のところで立ち尽くしていると、彼女はこちらを振り返り中に入るように促した。その部屋の中は、クローゼットや衣装ケース、段ボール箱が床をほとんど埋め尽くしていた。

 有衣がその辺の段ボール箱に腰かけながら言う。

「物置部屋みたいな部屋だよ。服とかも置いてあるけど」

 すると、部屋の一角の小さな机に、私は見覚えのある後ろ姿を見つけた。――夜ゑである。彼女は机に何やらアルバムを開き、せわしなくページをめくっていた。しかしすぐにこちらに気付いて手招きをする。そして相変わらずの可愛い声で、なんとも嬉しいことを言ってくれた。

「功がね、もしあーちゃんが聞きたそうにしてたら革命の話しておいてって言ってたの。あーちゃんが聞きたいかどうかは分からないけど、一応――」
「聞きたいのです!」

 私が話を遮って好奇心まみれな声を上げると、夜ゑは楽しそうに声を上げて笑った。有衣も唇で弧を描き満足そうな表情をしている。

 すると夜ゑは私に椅子をすすめ、アルバムから取り出してあった3枚の写真を私に見せてくれた。1枚目は夜ゑと知らない女の子が2人で映っている写真。夜ゑの隣でピースをしている子は、二の腕辺りまでの長さで結構量のある髪をポニーテールにした、気の強そうな女の子だった。2枚目は有衣と夜ゑ、それから伸次が制服姿で映っている写真。今とは髪型や雰囲気自体も違っている。そして3枚目が、おそらく下橋のメンバーで撮った集合写真のようなものだった。あまり明るい雰囲気ではない上に、皆目つきが鋭くて、私は一瞬身を引いてしまった。

「ザッと見て見つかった高校のときの写真が一応これかな。他はたぶんデジカメに入ったままかも」

 夜ゑが苦笑を浮かべて言う。

 そして有衣と夜ゑは軽く目くばせすると、写真を食い入るように見つめている私に、写真の中の人物を指しながら丁寧に語り聞かせてくれた。2年前に起きた――いや、彼女らが起こした、下橋での革命の経緯を……。