コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第9話『混乱の夜明け』(4) ( No.956 )
日時: 2011/05/01 09:44
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: AEu.ecsA)

 それから扇はおもむろに影晴の屋敷で起こったことを語りだした。迅が影晴に突然呼び出され、屋敷の場所が分からない迅について一緒に行ったこと、そこまでは園香も春妃も知っている。その後の麗牙光陰との出来事を、そして迅が見知らぬ一般人の記憶を一部封じたことを、冗談を挟むことなく懇切丁寧に細かく説明したのだ。それを園香と春妃は口も挟まずに黙って聞いていた。少なくともそこに、明るく楽しい雰囲気など微塵もなかった。むしろ厳かと言っていいような空気が流れていたほどだ。

 ブランコをちょっとだけ揺らしさびた音を立てながら、園香は足元を睨むように見つめる。顔を伏せているせいか、ちょっとこもった声がその口から洩れる。

「あのいい子ちゃんの麗牙光陰も、でかいミスを犯したわね」

 あざ笑うかのような内容ではあったが、彼女の声には深い意図はこもっていない。迅も珍しく彼女に同意してうなずく。

 麗牙との直接の接触は無くても、扇を通じて影晴からざっとしたグループの性格や任務の成果は聞いたことがあった。それによると麗牙光陰というグループは、主である影晴に随分と忠実で、任務もきっちりとこなしてくるらしい。自分達とは大違いだ、と迅は口端を釣り上げ醜く笑う。自分たち月下白狼は、そんな“いい子ちゃん”には到底なれない。
 しかしだからといって、麗牙のことが嫌いというわけでは決してなかった。特に今日実際に対面して、自分たちとは性格が違うものの、良さそうな奴らだと株を上げたくらいだ。特に荒木恵玲という少女は完全に迅のストライクゾーンな子で、思い出すだけでもその可愛さに満足感でいっぱいになった。

「また荒木に会いてぇなー」

 ついもらしてしまった独り言を聞き逃さなかったのは、恋愛方面に至極敏感な園香である。彼女は意地悪く笑い、探るような目で迅を見てきた。

「ちょっと迅〜。もしかして誰かに一目ぼれでもしちゃったぁ? 麗牙の子?」

 ぼっと火が付くように顔を真っ赤にした迅は、慌てて早口で言い返す。

「ち、ちげーよ、そういうんじゃねぇよ!」
「ムキになっちゃって。ちゃんと認めれば迅の恋応援してあげないこともないわよ?」
「誰がてめぇなんかに頼るか、ボケッ」

 口を開けばひとたび口喧嘩。放っておくといつまでもくだらないケンカを続けることが分かっている扇は、すぐに口を挟んできた。迅がぎゃんぎゃんわめいている中でも、彼の芯の通った声ははっきりと耳に届いた。

「迅。あの2人の記憶は結局どの程度消したんだ?」

 迅は勢いよく扇を振り返り、喜々とした顔で目を光らせる。ニッと歯を見せ、得意気に言った。

「扇と話してた通り、片方……女の方の記憶は完全には消してないぜ。ゆる〜く記憶封じかけておいただけだ!」

 迅の台詞に、扇は了解したというように頷く。
 彼らは迅が影晴に呼び出された時点で、迅の能力を使うだろうことは優に予想できていた。だから屋敷に入る直前に打ち合わせをしていたのである。もし予想通り誰かの記憶を消すことになったら、影晴にばれない程度に記憶封じを軽めにしておこう、と。迅としてはちょっとしたイタズラ気分であったが、もしかしたらそのちょっとした手抜きが何か影晴にとって不都合なことを引き起こすかもしれないし、そうでないかもしれない。でもいつものようにただ使われているよりは、その方が楽しいだろう、とそう思ったのである。
 迅と扇がざっとその意図を話すと、残り2人はそれぞれに反応を見せた。園香は満足げに微笑み、春妃はその影晴の目の前でという勇気あるイタズラに、感心したように目を丸くしたのである。ただし2人とも、頬を紅潮させ楽しそうなところは共通していた。

 扇が迅を見、腕を組んで皆の気持ちを代弁する。

「影晴にあっさり使われているばかりでは、やはり癪だからな。特に迅の能力は代償があるだけにそう簡単に使われちゃたまらない」

 彼の言葉にうなずいた園香は、目を細め冷たい笑みを浮かべた。

「そのうち影晴に、痛い目見してあげたいわねー」

 ふふっと彼女の口から笑い声が漏れる。

 辺りの木々がその声におびえるように震え、音を立てた。影晴への反旗が、E・Cの内部でささやかに立てられようとしていた。