コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 2章 第2話『灰に染まる波』(1) ( No.109 )
日時: 2011/09/09 22:17
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: AEu.ecsA)
参照: ん〜微妙な話になってしまったやも。。。

 鮮やかなオレンジ色に燃える夕日が、街をも同色に包んでいる。名残惜しげに友達と別れる小学生も、買い物に向かう母親も、みなが一度はその光を振り返り感嘆の色を瞳に浮かべている。その美しい光はもちろん、風音高等学校の殺風景な屋上にも例外なくふりそそいでいた。

 今日は風がない。まるで、ぴたりと空気が静止してしまったかのように。
 有希白波は、彼にとって定番の場所とも言える風高の屋上で、ひとりフェンスにもたれてワインを飲んでいた。風音は住宅街なので高い建物は少なく、この場所はかなり見晴らしがいい。ずっと遠くにある美しい夕日が、白波の大人びた顔を、ワインのボトルを金色に染めている。思わず目を細めてしまうほどのまばゆい光。白波には強すぎる、光。

 最後の一口をあっけなく飲み干した白波は、なんの名残もなく夕日から目をそらし、床に置いてあったスケボーを足を使って手に取った。これを使えば空が飛べると知ってから、ずっと使いこんできたものだ。ところどころはげてやや年季ものになってきているが、折れでもしない限りは新しいものを手に入れる気は毛頭なかった。ちなみにこのスケボーは、公園に落ちていたのを拝借したものである。
 白波はスケボーを片手にぶら下げたまま、何となく空を仰ぐ。今日は本当に風がない。無造作に高い位置で結いあげた黒髪も、揺れもせずに落ち着いている。おかげで夕日の照りつける暑さがそのまま辺りに残っていた。それでも白波は汗一つかいていなかったが。

 唐突に白波は、手に持っていたスケボーを屋上のコンクリートに投げ捨てた。大きな音を立てて小刻みに左右に揺れているスケボーを、白波は慣れた動作で片足を乗せ押さえつける。そしてどこかずっと遠くを見やったところで、不意に目を瞬かせ視線を下に落とした。ズボンのポケットに入っている携帯電話が、バイブ音を鳴らしていた。
 表情を変えないまま淡々と携帯を開く白波。麗牙光陰のリーダー・ウィル=ロイファーからのメールである。任務の連絡かと思い一瞬携帯を握る手に力がこもったが、彼の予想は見事に外れてしまった。

『今日、夜ごはん家に来れる? みんな集まるんだけど』

 一度画面から目を離し、先程と同じ方向の空をぼんやりと見つめる。ほどなくして白波は一言だけ返事を打ち、送信ボタンを押した。そのまま閉じた携帯をギュッと握りしめる。
 邪念を振り払うように、音を立ててスケボーにもう片方の足をのせた。その直後、「風よ!」と力を込めて呟く。瞬間、白波の足元から力強い風の渦が巻き起こり、彼ごとスケボーを持ち上げた。そしてそのまま屋上よりもずっと高く舞い上がり、目的の場所を目指して滑るように空を走りだす。かすむような速さ。いつも以上にスピードを出す白波の顔に、風が真正面から容赦なく吹きつけてきた。