コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 2章 第3話『ふたり』(5) ( No.183 )
日時: 2011/12/19 21:07
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)
参照: なんかまたすごくわかりにくい文章書いちゃったかもです^^;


 光が、その屋敷を照らしていた。オレンジ色にも金色にも見える光。その源を見れば、つい目を細めてしまうようなまばゆい光。糸を織り重ねたように、繊細できらびやかな光の帯は、屋敷だけでなく寂れた街全体を覆っている。それなのに、なぜだろうか。まるでその光は、眼前の屋敷に焦点を当てているかのように、その屋敷だけを浮かび上がらせているのだ。その屋敷だけが、神々しいまでの存在感を放っているのだ。屋敷を照らすのと同じオレンジ色の光は、わずかに頬にかかるだけでもじわりとにじむような熱を感じさせる。それなのに、周囲を取り巻く見えない空気は芯から冷たく感じられ、その異様な温度差に背筋が凍った。目の前の大きな門を、広大な庭を、威圧感を伴ってそびえたつ屋敷を順に見つめ、扇は顎を引いて、隣にいる園香の手を握った。

「行こう」

 隣で園香がごくりと空唾を飲み込んだ。アップにした茶髪が、小さく揺れた。





 その頃大崎影晴は、E・Cのメンバーとの面会の場となっている広間で、悠々と椅子に腰かけていた。そろそろ任務の報告のために扇が来る時間だ。彼は几帳面な性格なので、いつも決められた時間のぴったり5分前に屋敷の前にたどりついている。そしてそれは今日とて例外ではない。高々と足を組み、何も無い壁をじっと見つめていた影晴は、不意にがらんとした広間の中央に目を向けくつくつと笑みを漏らした。仕立ての良いスーツに包まれた肩が小刻みに揺れる。隣にひっそりと立っている天銀は、それを横目で見るでもなく、黙したまま正面を向き続けていた。

 影晴は、例え今のように屋敷の中にいても、外の風景を透かして見ることができる。“透視”の能力さえ使ってしまえば、壁も距離も何の障害でもない。もちろん能力を消費しすぎると体がもたないので屋敷に来たメンバーの様子を常に監視しているわけではないが、最近の月下白狼に関しては別だった。白波から月下の反乱の意を聞いて以来、影晴は月下の行動にひそかに目を光らせている。今日もそう。広間の最奥部にある椅子に座ったまま、門の辺りを透視して扇が来るのを待っていたのだ。そして早くも見てしまった。お呼びでない、安藤園香が共に来ていることを。しかし、扇も園香も影晴の透視の能力のことは知っているので、彼女を連れてきたことを隠す気はないのだろうが。

 ――……さて、どうしたものかな

 組んだ膝の上で頬杖を突く影晴の顔には、深い余裕の笑みが浮かんでいた。自分の部下達が何かしら反抗的な態度を取ろうとしているにもかかわらず、影晴の心は全く動じる気配すらない。……あふれるほどの自信だけがその余裕を生んでいた。自分に対する、そして自分の理想に対する自信。研究者としての今までの成果に対する誇りが、盲目的ともいえる思いを抱かせていたのだ。

 影晴は正面を見つめたまま、脇にいる助手に唐突に声をかけた。影晴と同じくスーツを身にまとった長身の彼は、冷徹なまでに沈黙を貫き、まるで周囲の壁と同化しているかのようだった。

「天銀、白波に連絡を。それと必要ないだろうが、一応君自身も心の準備をしておいてくれ」

 何やらいつも以上に寡黙な天銀は、身じろぎひとつせず横目でこちらを見ただけで、ひっそりと部屋を出ていった。両開きの扉の閉まる音が、空しく広間に残される。助手の後ろ姿がドアの向こうに消えるのを見届け、影晴はす……っと隻眼を細めた。

 ――……組織内に反乱の意志のある者たちがいるのは危険だ。それに月下と麗牙はまだ実験の第一陣。彼らや彼らの能力さえじっくりと観察できれば、また近いうちにそれを生かして第二陣として薬をばらまくことができる。扇や園香がいなくなったところで何の支障もない……!!

 口端がつりあがり、狂気的な笑みがその顔を覆う。露わになっている方の目が冷たく鋭利に光る。部屋の温度が急激に下がっていった。――ふとそこで、唐突にその瞳から狂気が消え去った。同時に口元も柔らかく声を描き、周囲の空気が瞬時に穏やかで寛容なものへと変わる。近くに誰か他の人物がいたら、唖然とするような変化だ。そして、直後。二度のノック音。それに続く、いつも通りの芯の通った名乗りの声。扉の外にいるだろう2人の能力者に入室を促す影晴の声は、心に染みいるような慈悲深さにあふれていた。