コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 2章 第3話『ふたり』(7) ( No.206 )
- 日時: 2012/04/10 14:38
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)
- 参照: 久しぶりすぎる本編ですー。わかりにくいところあったら言ってください
突如眼前に姿を現し、あまつさえ銃口をこちらに向けてきた男2人。そんな彼らを、園香はほとんどプライドとも言える意地でにらみつけていた。
男2人はどちらも扇に負けないくらいの長身。そして少なくとも園香の記憶では、今まで会ったことのない人物だった。今銃口をこちらに向けている片方の青年は、黒髪を1つに結い、目にかかるかかからないかくらいの前髪を無造作に下ろしている。園香の目には、髪を切るのも整えるのも面倒でとりあえず結んでおいた、というようにしか見えない。着ている薄手のロングコートも、服装に興味がなくて適当に上から羽織ってきたのだろう。……全て園香の推測だが。その隣に立つもう片方の青年は、ぴくりとも動かずに無言でその場にたたずんでいた。体の両脇にだらんと垂れさがったスーツの袖。袖口から伸びる、白く細い手首。セットしたのか、はたまたただの寝癖なのか、ところどころ跳ねた茶髪は襟足に近付くほど色が濃くなっていく。男性にしては長めな髪で、首筋を優に覆い、肩についている部分さえあった。同じく前髪も長めで、影のかかっている双眸は抑揚のない暗い色をしている。
まさに今、銃口が自分へと向けられているというのに、園香はそれに対する危機感をそれほど感じずにいた。それ以上に、彼ら自身が持つ空気やオーラのほうがよっぽどプレッシャーとなっていたのだ。特に、何も武器を握っていない茶髪のほうの男性。彼はどこか不穏な空気を体の周りにはべらせており、正直至極不気味だった。
まるで時間が止まってしまったかのようだ。誰も動かない。園香も、扇も、男二人も。拳銃のトリガーに指をかけている青年ですら、なぜかその指を動かそうとしなかった。茶髪の男のほうが、ちらりと横目で拳銃を見ている。
浅く息を吐いて園香が隣に立つ扇に目配せをするのと、その彼が長い指を体の脇で軽く動かすのとは、ほぼ同時だった。
銃口をこちらに向けている黒髪の青年が、ほんのわずかに目を細めた。トリガーにかけたその指が、透き通る氷に覆われている。パキパキとか細い音をたてて氷は徐々に広がっていき、やがてその手を銃に固定してしまった。もちろんトリガーは引けない。園香は口角を上げ、5メートルほど前方に立っている2人を強気な目で見てやった。
「なぜすぐに撃たない? 影晴の回し者なら俺たちの能力くらい知っているだろう」
扇のいつも通りの落ち着いた声音を聞く頃には、園香も随分と余裕を取り戻していた。相手の武器を1つ封じたのだ。こちらが不利ということはまずないだろう。片足をわずかに引いて、園香はいつでも動ける体勢をとっておいた。強い風が、沈黙の中を駆け抜けた。
返事はない。青年は凍り付けられた自分の左手と銃を少しの間無感情に眺め、その視線をこちらに移し……小さく唇をかんだ。そして雑な動作でもはや役に立たなくなった銃を下ろし、振り切るようにこちらに視線を戻したのだ。それを見て園香はつい白い歯をのぞかせ笑みを浮かべてしまった。その間も茶髪の男は、ただひっそりとその場にたたずんでいるだけだった。
ふぅ、と小さく扇が息をつく。「まぁ撃たなかったことに関しては別にいい」と前置きをすると、さらりととんでもないことを言った。
「それよりお前、たしか麗牙光陰のメンバーだな?」
「え?」
思わず眉根を寄せ、隣に立つ扇の顔を仰ぐ。彼は鋭い視線を前方に投げたまま、抑えた声で言った。
「前に影晴に呼ばれて迅と屋敷に行ったとき、麗牙光陰として紹介されていたんだ。テレポートの能力を持っているのはリーダーのはずだから、もう片方の茶髪のほうがテレポートなんだろう、きっと」
園香はうなずいて、自分たちと同じE・Cに所属するもう1つのグループ名を口の中で呟く。影晴は自分達2人の後始末を麗牙光陰に頼んだのかと意外に思いながら、ゆっくりとポニーテールの青年に視線を向けた。今は警戒心よりも不審感のほうが圧倒的に勝っていた。青年と目が合う。風がお互いの髪をなびかせる。視界を邪魔する髪を耳にかけながら視線をはずさずにいると、薄闇の中で、彼のあまり血色のよいとは言えない白い肌が浮き立って見えた。そこで不意に、記憶の隅を刺激され、園香はわずかに目を細めた。手を口元に持ってきて、じっと彼の目を見つめ返す。
――その時だった。同じくこちらにはっきりと目を向けていた青年が、何かに気付いたかのように息をのみ、目を見開いてこちらを凝視してきたのだ。その表情を見た途端、園香も天啓のようにひらめきつい声を上げてしまった。それまで2人の様子を首をかしげながら見ていた扇が、驚いたようにまばたきをする。そんな彼を気にする余裕もなく、園香は気付くと青年に向かって一歩踏み出していた。動揺を、隠しきれなかった。
「もしかして、白波くん!?」
声が震える。名前を呼んだ瞬間、目の前にいる彼と記憶の中の彼とがぴたりと一致した。随分と年月がたっていたので、外見は大きく変わっていたが。
そして園香と同じように、いやむしろそれ以上に動揺していたのが、白波だった。しばらくの間呆然とした表情で園香を見、そのうち無事な右手を額にあて、力なく首を横に振り始めたのだ。口の中で何事かを呟いている。まるで何かを否定するかのように。
その様子を見て急に不安を覚え思わず彼のもとに駆けつけようとした園香の手首を、扇が強い力で引いた。ハッとして彼の顔を見上げると、わけがわからないという顔で一言尋ねられた。
「知り合いか?」
一拍悩んでからうなずき、まだ芯の通らない声で言った。
「前にも話したことがあるわよね? 今音信不通になってる中学の時の同級生。その子の――有希若菜の、弟……」
扇が驚いた顔で白波を見る。姉の名を耳にした途端、白波の顔から一気に血の気が引いた。