コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 2章 第5話『僕らの仲間は』(1) ( No.348 )
- 日時: 2014/04/26 23:24
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)
一瞬、思考が止まった。
春妃は携帯電話を耳に当てたままぱちぱちと目を瞬いた。状況のわからない迅が不審げな顔でこちらを見てくるが、それどころではない。数秒の間をおいてようやく「え?」と小さく声を発すると、電話をかけてきた相手がくすくすと笑い声を漏らした。
「春妃とは本当に長い間話していなかったから驚くだろうとは思っていたが、もしかして忘れてしまったかな? 大崎影晴だよ」
笑みまじりの穏やかな声。春妃は、初めて影晴に会った時の彼の声と重ね合わせながら固い声で言った。
「あるじ……ですか?」
正面にいる迅が驚愕に目を見張る。「主」は、月下のリーダーである扇が影晴の面前で使っていた彼の呼称だ。信じられないという気持ちを隠せない春妃に、電話のぬしは変わらず穏やかな声で言った。
「あぁ」
全身が、しびれるような衝撃だった。
月下白狼のリーダーで事あるごとに影晴と対面している扇はともかく、春妃や迅、園香は影晴と対面することなど滅多にない。それこそ初めて彼と会い、E・Cという組織に加わったあの日以来ずっとだ。以前扇と一緒に迅も影晴の屋敷に呼び出されたことがあったが、例外中の例外である。ともかく春妃にとっては影晴と直接話をすることなどありえないことなのだ。
今自分が話しているのは“あの”大崎影晴だと認識した瞬間、春妃の脳裏に様々な光景がよみがえった。影晴を警戒し、彼と一定の距離を保ち続けていた扇。影晴への不信感も露わに反抗し続けていた園香と迅。扇が「影晴にはこれ以上従えない」、「最大限に警戒しなければ」と言っていたことも、園香が「いつか痛い目を見せてやる」と言っていたことも。この人が、今話しているこの人がその張本人なのだ。
春妃は一度強く唇を引き結んだ。影晴からの突然の電話。タイミングからしてこれが、今音信不通になっている扇と園香のことと無関係だとは思えない。E・Cを脱退すると言っていた2人が結局影晴と会ったのかどうかも、会ったとしてその後どうなったのかも一切わからない春妃としては、どうにかして現状を、真実を知りたかった。2人の話題を彼から振ってくれるかそれともこちらから振るべきなのか判断にあぐねつつ、とりあえず「お久しぶりです」と挨拶をし直した春妃に、影晴は相変わらず落ち着いた声音で言った。
「実は春妃、……もちろん迅もだが、君たちに扇と園香のことで伝えておかなければならないことがある。急で申し訳ないが今から2人で私の屋敷に来てくれないか?」
――会ったのだ。
真っ先に春妃はそう思った。扇と園香は影晴に会ったのだ。そして脱退を宣言したのだ。影晴の言葉からそれを察し、春妃は背筋の凍る思いだった。今すぐこの場で、扇らが今どうしているのか尋ねたい気持ちを必死に抑え、春妃は電話口でぎこちなくうなずいた。迅が睨むような目つきで携帯電話を見つめていた。