コメディ・ライト小説(新)
- Enjoy Club 2章 第5話『僕らの仲間は』(2) ( No.358 )
- 日時: 2017/08/31 23:09
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: TaIXzkpU)
「なぁハル、扇とお園は無事なんだよなぁ」
「僕が知りたいよ、それは。影晴は何も言ってなかったし」
「あぁ~なんでこんな焦らされなきゃいけねぇんだッ」
迅がいらだちを抑えられずに、髪をかきむしる。それを横目で見、春妃は苦笑を漏らした。
――……この状況にいて、いつも通りいられるの、逆にすごいや……
自分は緊張やら不安やらが入り混じって、とうていいつものペースとは言えない状況なのに。彼の、自分のペースを保てるところが今は少しうらやましい。
春妃と迅は今、影晴のいる屋敷を歩いている。一時間ほど前に、影晴から召集の電話があったからだ。ただでさえ春妃にとっては久方ぶりの面会。加えて今歩いている廊下は不気味なほどに薄暗く、肌寒い空気に包まれている。人気もない。春妃は体の脇でこぶしを握り、ごくりと生唾を飲んだ。
しばらく歩くと、どこまでも続いていきそうな長い廊下に終わりが見えた。正面に、大きな扉が見える。
「あそこだぜッ」
待ちに待ったと言わんばかりの声音でそう言い、急に歩を速めた迅の腕を、春妃は慌てて引き留めた。そのまま勢いで扉をも開けてしまいそうだったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。一応心の準備っていうものが……」
「そんなこと言ってられるかよッ。早く扇とお園がどこに行ったか聞きてぇんだよッ」
「わかってる! わかってるからちょっと落ち着けって」
らしくもなく語気を強める春妃を見て、迅はようやく耳を傾けてくれたようだ。不満そうに口をとがらせながらも、足は止めている。彼の腕を強くつかんだまま、春妃は床に視線を落とした。手が小刻みに震えるのを止められなかった。
影晴に会えば、本当に扇らの居場所がわかるのだろうか。
迅の視線を感じる。自分の中の嫌な予感をかき消そうと唇をかんだ時、迅が突然力強い声音で言った。
「万が一、万が一だぞッ、扇とお園に何かあったらオレ様が影晴のやつをぶっとばしてやる」
顔をあげて迅を見る。彼の双眸に迷いはない。春妃が声も出せずにその目を見ていると、彼は「それからッ」と続けて春妃から目をそらした。
「それから、万が一E・Cにいられなくなったとしても、今までと変わらねぇッ。ハルはオレ様の相棒だッ」
「相棒って……」
ふっとつい笑い声が漏れる。
「なっ、笑うことねぇだろッ!?」
むくれた顔でこちらを振り返る迅。それを見てふふっと小さな肩を震わせて笑うと、春妃は穏やかな表情で彼を見た。
「そうだね。いこっか、相棒」
「……お、おぅッ」
この先にどんな道が待っていようとも、自分たちの絆が無くなるわけではない。
ふたりは力強く歩を進め、そして――
春妃がゆっくりと、扉に手をかけた。