コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 2章 第5話『僕らの仲間は』(3) ( No.366 )
日時: 2019/07/09 23:56
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: U7ARsfaj)

 両開きの重い扉を開くと、大きな広間が視界に広がった。そして真っ先に目に飛び込んできたのが、正面、部屋の一番奥に腰かけるスーツ姿の男だった。――すぐにわかる。あれが、影晴だ。
 扉を開けた態勢のまま立ちすくむ春妃の横を、なんの躊躇ちゅうちょもなく相棒が通り過ぎた。

「扇とお園はどこにいるんすかッ!!」
「ちょ、ばか、迅!」

 春妃は慌てて迅の腕をつかむ。挨拶も無しにあまりにも挑発的な物言いだった。
 対してゆったりと椅子に腰かけている影晴は、何を言うでもなく、静かに腰を上げた。それを凝視したまま、春妃は彼から目が離せなかった。

 すらりとした長身。右目を覆う真っ白な包帯と、それを隠すように長く伸びた黒髪。引き結ばれた薄い唇。初めて会った時のことなど、昔すぎてはっきりと覚えているわけではないが、それでも、彼が当時とほとんど変わらない姿であることだけはわかる。記憶の片隅に残る彼の姿と、不自然なほど一致している。
 ごくりと、生唾を飲み込んだ。

「ハル、痛ぇ」

 迅が顔をしかめて掴まれた右腕を揺らす。春妃は無言で右手の力を抜いた。

「春妃、久しぶりだね」

 ゆっくりと近づいてきた影晴は、目の前に立つと口元に穏やかな笑みを浮かべた。その隻眼から目を離せないまま、春妃はぎこちなくうなずいた。

「お、ひさしぶりです」
「はは、緊張しているね。それもそうだろう。ずいぶん前に、初めて会って以来だからね」

 そう言って影晴は、静かに春妃の栗色の頭に手を置いた。

「大きくなった」

 凪いだ声で、そんなことを言う。どう反応すればいいのか戸惑い、春妃はやっと影晴から視線を外した。

 影晴は、謎に満ちた人物だった。能力者として生まれ周りから受け止めてもらえずに過ごしてきた自分たちを、当然のように見つけて受け入れてくれた人だった。それだけではない。能力を堂々と使える場まで、用意してくれている。
 なぜ? どうしてそんなことをする? そんなことができる? 今自分に向けられている父親のように見守る眼を、どこまで信用すればいい?

 目を伏せ身を固くする春妃とは対照的に、影晴を真っ直ぐに睨みつけているのが、迅だった。影晴はようやくそちらに目を向け、包帯に覆われていない左の眉を下げた。

「扇と園香はE・Cを離れてしまった。……本当に残念だ」

 迅が目を瞬く。

「離れてしまったって、じゃあ普通に脱退させたってことっすか?」
「あぁ、2人からは事情も聴いた。やむを得ないだろう。やっぱり君たちも、2人が脱退することは聞いていたようだね」
「でッ、でもお園は――」

 おそらく『遥声』のことを話そうとしたのだろう迅を、春妃は目で制止した。それを見た影晴が、す……と目を細めたように見えて、冷や汗が背中を伝う。影晴が口を開くより前に、春妃は固い声で彼に問いかけた。

「じゃあリーダーたちは脱退した後、どこに行ったんですか?」

 果たして影晴は、静かに首を横に振った。春妃の胸に失望と疑念が広がっていく。

「そこまでは2人からは何も聞いていないよ。その様子だと、春妃たちも聞いていないようだね」
「聞いてないどころか、連絡もとれねぇよッ」

 そう乱暴に言い放ち床を蹴る迅。それを眉を下げ見つめる影晴。絶対に何かがおかしい、影晴は何かを隠している。そう思っても、得体のしれない影晴に不用意にことばを投げるのもためらわれて、春妃は何も言えなかった。

 やがて影晴は、再び口元に凪いだ笑みを浮かべた。

「扇と園香の2人が抜けた穴は相当大きいだろう。しばらくは、任務も簡単なものにするよ。いずれ新しい能力者が現れたらすぐ君たちに紹介するから、それまでは2人で頑張ってほしい」

 その目は決して笑っておらず、有無を言わさぬ力があり、春妃と迅は腑に落ちない思いを抱えながらも力なくうなずくことしかできなかった。