コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第2章 第6話『揺らぎ』(1) ( No.390 )
日時: 2019/09/22 02:17
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: E616B4Au)

 きゅっと、頭の高い位置で茶髪を結う。ゴムでとめた後に、上から黒地に水玉模様のシュシュ。ちょっと顔を横に向けて留め位置を確認すると、私――友賀亜弓は、鏡に向かって「よしっ」と小さくつぶやいた。

 今日は体育祭。外は、開催を迷う余地もないほどの晴天だ。いつもは制服で学校に向かうが、今日は朝から体操着である。首筋をかすめる慣れない気配をむずがゆく思いながら、私はかばんを肩にかけ、濃い青色のジャージを手に取った。それを見た母親が、眉をひそめた。

「亜弓、あんたジャージなんて持っていくの? 暑いわよ?」

 私も思わず眉を下げる。

「走るときは着ないですけど、応援席のときは着てないと日焼けがすごいってみんなが言ってたのです」

 そりゃあ暑いのはわかっている。今も、持っているそばから汗をかいている。
 母親が、「えー」と言いながら頬に手を当てている。暑かったら無理には着ないからと言って、私はそのまま玄関に向かった。そんな私の背中に、再び声が飛んでくる。

「今日、お父さんと葵と一緒に見に行くからね」

 「えっ」と濁点の付きそうな勢いでつぶやいて、私は勢いよく後ろを振り返った。

「葵も!? なんでですか!?」
「さぁ? おもしろそうだからって言ってたわよ」
「え~、来なくていいのです~」

 生意気な弟がにやりと笑っている姿がはっきりと目に浮かぶ。目に見えて意気消沈している私に苦笑しながら、母親がひらりと手を振った。

「気を付けてね」
「はいです~。行ってくるのです~」

 私は焼くような日差しを覚悟しながら、ドアを開いた。