コメディ・ライト小説(新)

Enjoy Club 第2章 第6話『揺らぎ』(1) ( No.391 )
日時: 2019/09/24 21:44
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: E616B4Au)

 からりと晴れた青空。雲ひとつない澄んだ青を見上げて、視界に入り込んだ白い光に目を細める。空気は乾いているが、ちりちりと痛みさえ感じそうな日差しだ。外にさらした腕はすでにうっすらと汗ばんでいる。いつもはおろしている髪を今日は束ねてきて正解だった。首筋を通る薄い風だけでもありがたい。

 今日は8時に教室集合と言われている。体育祭自体は9時開始なのだが、それまでに全員に割り振られている係の仕事があるのだ。楽な係を選んだので気負うほどではないが、これでは体育祭が始まる前に汗だくになってしまいそうだと、私は白い体操着の襟もとをぱたぱたとあおいだ。

 そろそろ恵玲が来る頃かと携帯電話を開いて時間を確認したとき、右手のほうから足音が聞こえてきた。そちらに視線を向けて、私は思わず目を瞬く。待ち合わせ相手である親友の隣には、金髪の彼の姿があった。ふたりとももちろん体操着姿である。風也はジャージの上着も羽織っているが。

「桜通りで風也くんとばったり会っちゃったぁ」

 そう言ってにっこり満面の笑みを見せたのは恵玲。真っ黒な髪を、耳の下で二つに結っている。なぜ恵玲が桜通りにいるのかも謎だったが、それよりも風也がなぜか驚いたようにこちらをじっと見ていることのほうが気になった。とりあえず「おはようです」と言って目で問いかけると、風也も目を瞬きながら「おはよう」と返し、

「いや、髪……珍しいな」

後ろ髪を手で示した。あぁ、と言って手を打つ。たしかに、今日のようなポニーテールはおろか、いつもの片側だけハーフアップにする髪型以外見せたことがないかもしれない。

「前、津波たちに、体育祭のときポニーテールにしてきてって言われたのです」

 私はそう言って、へらっと笑う。普段と違う髪型のことをあえて指摘されるとなんだか気恥ずかしい。つい彼から視線を外して下を向くと、恵玲が絶妙に鼻にかかった声で言った。

「珍しいだけじゃなくて、他にもいろいろ思ってることがあるんじゃないのぉ、風也くん?」

 小さな唇がきれいに弧を描く。何を言い出すんだ急にと思って恵玲をにらむと、風也も横目で彼女をにらんだ。彼のつり目でにらまれると結構怖いはずなのに、そこはさすがの恵玲、微塵も気にした様子もなく、大きな黒瞳くろめで風也を見返す。そして不意にちろっと赤い舌を出すと、私たちを置いてそのまま学校のほうに歩き始めてしまった。
 ぽかんと口を空けて彼女の後ろ姿を見つめていると、風也がため息をついて隣に並んだ。

「アイツ今日は一段とムカつくな」
「なんか朝からご機嫌ですよね」
「どうせこれから勝負事が待ってるからだろ」

 呆れた声音に、私は小さく笑う。風也も、恵玲の性格をかなりわかってきている。
 ふと、彼の指先が私の結いあげた髪に触れた。距離の近さに目を丸くして固まる私に、風也はちらりと目を向けて一言。

「――可愛い」

 さらに、視線をそらして、「似合う」と。
 ぼっと火がついたように熱くなった頬を両手でおさえる。すると風也がもう一度こちらに目を向け、突然ぷっと吹き出した。

「え、なに……」
「顔、真っ赤」
「え、や、だってそれは……!」
「ちょっとそこ、いちゃついてないで早く行くよ!」

 恵玲のよく通る声が飛んでくる。わたわたとふたりを交互に見ていると、風也が「行くぞ」と言って私の手を引いた。