コメディ・ライト小説(新)

2-3 ( No.11 )
日時: 2017/10/18 15:17
名前: 塩糖 (ID: zi/NirI0)


「鉄をも呑む砂」-3


――今日の天気です、本日は午前は晴れますが、午後からは一部地域では崩れる模様で

(どうせ今日は外でないし問題ないか)

 あまり有益ではない情報を手に入れ、次によくわからないマスコットが英語で会話する番組が流れる。
 どうせこの時間帯は若い子は見ないのだからもう少し高年齢向けに変えてもよさそうなものだ。盆栽の紹介なんてあったら少し興味を持ったかもしれない。
 チャンネルを変えれば、料理番組だ。料理なんて生まれてこの方したことがないので今一その面白さが伝わらない。

--こういうのも全て知識だ、蓄えておくと……いややっぱいいや
「なんだよ、言いよどむくらいなら最初から……え?」

 誰かの声が聞こえてもテレビから目を離さずに答えると、その男の声は立ち消える。
 そこで漸く、自分が今誰と話していたのだ、そんな疑問を覚えて辺りを見回してみるが、誰もいない病室があるだけだ。幻聴だったのだろうか、奇妙なことだと目を丸くした。

(って、もうこんな時間か。)

 病室の扉がノックされて、看護師さんが食事を持ってきてくれた。メニューは……お粥、消化器官は傷つけられてないらしいのだが、大事をとってのこの食事。
 流動食ではなかったことを安堵するべきか、それでも朝がお粥というのはなんとも味気がない。というか味がない。せめてもう少し塩っけがほしい。

(……パン、いやせめてもう少し固形のものが食べたい)

 あまり楽しくない食事が終われば、次は体調のチェックである。血圧を測定したり、体温を測ったり……それが終わればまた昼食の時間まで暇である。
 ベッドの上で退屈していると、テーブルの上に置いておいた携帯が揺れた。

「……ん、メールか」

 マナーモードにしていた携帯をふと見れば、父親から「母が心配しすぎて体調を崩した(笑)」とのことで来るのが遅れるらしい。ちなみに今のがメールの題名で、本文は空だった。
 俺も含めてだが、慌て者の家系だなと小さく笑った。

(スマホ渡されたらショートしそうだよなうち……文明の利器への適応力が低すぎるな)

 それからしばらく手をぶらぶらさせたり、仮面を布で拭いてみたりしていると、警察の方々がやってきた。
 まず俺の体を気遣う発言をしたのちに、事件について詳しく聞きたいようだが少し言葉を濁していた。

「そんなに回り道しなくても大丈夫ですよ、あまり気にしてないですから……」

 ならばと、こちらから話してみようと思い、健康さを見せるためにもベッドから立ち上がる。上半身を起こす際にピリッとした痛みがまた走るが、もはや無視して冷たい病室の床に降り立つ。
 そういえば院内用の靴を買ってもらってなかった。まあ、それはどうでもいい。

「それじゃあ、まずおれ、いや私は」
「――話しやすい方で大丈夫ですよ?」

 つい、年上の人に対してタメになってしまいそうなのを抑えると、警察の人が今度はその気遣いを遠慮した。けどタメで話すとこっちが嫌な気分になるので直したまま話すこととした。
 話す、思い出しながら、脚色の一つもないように気を付けながら、身振り手振りを交えつつ語る。

「――それで、私は近所の○○でめんつゆを買いまして……あぁこれは大体◆時頃で」

 学校からの帰り道で、親からのお使いを頼まれて帰りが少し遅くなり……エセ探偵のことはどうでもいいので省く、それで家までもう少しという場所まで来たことを思い出す。
 そんな時、俺は電柱の地近くに置いてあった段ボールを見つけて……。

「――いや、もう大丈夫です……無理をなさらず」

 それ以上を話そうとして、何故か言葉が詰まってしまう。おかしいなと首をかしげて何度も言うべきことを吐き出そうとしていると、とうとう警察の人から止められてしまった。
 違う、無理なんてしていない……もう過ぎたことなのだ。夜は恐かっが、もう昼前で、怖くなんてないはずなんだ。
 そう言い訳をして、口にしようとしてもただ気持ち悪さがこみあげて、別のものが出てきそうになる。

「――っと……?」

 ついに体の力が抜けて、倒れるに近いような体勢でベッドへ背中を預ける。慌てた警察の人が看護師を呼びに行ってしまった……、おかしい。
 もう一人がこっちの脈を確かめて、落ち着くように促す。違う、俺は恐れてなんていない。
 空いた手でぺストマスクを抱えて、息を整えて、天井をじっと見る。
 腹部の痛みが何倍にも膨れ上がったので、つい苦悶の声を上げた。

「佐藤さん! さと――」

 肩をたたかれて、何度も名前が呼ばれる。だが、意識が薄れゆく中ではそれは無意味だ。
 警察の人から見てそれは、きっと俺が危惧していた通りの、精神を病んだ患者であっただろう。
 そう気が付くのは、十数分ほどした後であった……。


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