コメディ・ライト小説(新)
- Re: 砂の英雄【2-4更新 10/17】 ( No.14 )
- 日時: 2017/12/04 23:54
- 名前: 塩糖 (ID: quLGBrBH)
- 参照: http://引っ越し完了しました
「鉄をも呑む砂」-5
塩崎はいつだって持論は崩さない。誰かに言われた、そんなこと変わるような人間であれば大手を振って協力しただろう。
つまり、だ。普段はオカルトチックなものは信じない彼がそういう、それほどに強力な何かを見たのだ。
「私が発見した時、間違いなく彼女の腕は異形と化していました。佐藤くん、君はアニメなどは見ますか、……見るかい?
まぁ、私も全然ですが……とにかく、浅黒く決して女性とは思えないほどの太さを持った腕でした。
最初見たときはコスプレの一種かと思ったんですが、次第に年相応であろうモノへと戻っていきました……いえ、戻るという表現すら正しくないのかもしれませんね。なにせ、その年相応の姿とやらも本当に彼女のモノか怪しいのですから」
「…………」
「おや、どうかしましたか? すっかり青ざめているようですが」
荒唐無稽、そう言い張りたいものであるがはねのける理由もない。それにこいつは勘違いこそすれど、ここで嘘をつくような奴ではない。
だから、つまり、俺はそんな化け物に襲われた、というのが現実になるわけで。
背筋の一つも冷やさないと、思考の熱の放出が追い付かない、そんな脳内ジョーク一つ飛ばすほかなかった。
しかしそれ以外に気になることが一つ、ふと浮かんだのでぶつけようか。手を軽く上げて質問しようとするも、それは彼の手で遮られた。
「おっと、私の推理がここから始まります。故に佐藤くんは少し黙っていてください」
「んー……まぁ、いいか。分かったよ、こうなったらとことん聞くよ」
今日の彼は何故か迫真、どこか纏う雰囲気が違うように思える。そんな彼の推理であるならば聞いてもよいか、一先ずうかんだものを飲み込んだ。
「そう、その姿勢が大事ですよ佐藤くん」
彼はその対応を見てか満足そうに口元を緩ませ、今度はベッドに深く腰掛ける。その際、彼のポケットから何を取り出し近くのクズカゴに捨てた。
見た限り開封済みの封筒であったが、大事なものではないのだろうか。 そういえば以前、彼が事件解決につながる重要なメモをゴミだと思い、破り捨てたことがあった。
彼の目がズレた際に回収しておこう、心に決める。
ともかく、今は話を聞こう……。
「さて、ではまず肝心の犯人ついてですが――!?」
急に意識が、飛んだ――。
◇
欠けた夢が流れる、一人称のような、しかしどこか浮いて俯瞰しているような、不思議な感覚だ。
『昨夜、群馬県○○市の閑静な住宅街で倒れていた女性についてですが、先ほど息を引き取ったそうです。被害者は……』
電気屋のガラスケース、そこに置かれたテレビの前で呆然と立ち尽くしていた。
もうとうに太陽は顔を出しており、そろそろ「彼」は場所を変える必要がある。
流石にこの格好は目立つ、血で染まった衣服は指でつつきながらこれからどこにいくべきか考えていた。
「……口を開け、舌を回せ、思考と会話すれば少しはましになる」
気休めだろう。
誰もいないところに向かった喋る血まみれの男、ただの通報案件だ。
が、そうでもしなければ気が狂いそうになる。
「家はどうだ、一旦戻って衣服だけでも」
(子供が殺人犯ということを知らせるだけだ。ベストな選択肢は、こちらも死んだという風にして事件の風化を祈るのみだ。
風化してどうするのか? ……少なくとも逃亡生活が少しは楽になるだろう)
仮面についた汚れを袖口で落とす。
流石にそろそろ仮面は外した方が、そう考えたのか一瞬外そうとしてやめた。
「じゃあ、どこに身を隠す? 気を抜けばまた『アレ』になる。人の中は、厳禁だ……そこに隠せるのは人だけ。いっそ化け物の群れでもあればいいんだけど」
(近くの山はどうだ、小さいけど化け物一人隠せるだろう)
「……駄目だ、行方不明者が出ればいち早く調べられる」
「――おや、逃走経路でも探っているので?」
聴覚に意識を分けなかったせいで、誰かに見つかった。顔も見ず、反対側へと大きく跳躍した。
そのまま近くの民家の屋根に飛び乗って走り抜けた。
「……犯人はオリンピックに出るようなアスリート……?」
残された人間は、あまりのことに驚きながらもその顔にはどこか喜色が見えた。
結局、その後に化け物がとった手段。それは少しでも事件の地から離れようとすることであった。
だがそれは、県境を超えようとしたところで起きた接触によって中止となった。
彼は、化け物たちの中に紛れ込んだ。
次は、間違えない――、聞きなれた声が響いた。
◇
突如として眼が覚めた。何の夢を見たかは、よく覚えていなかった。
最悪な気分だ、片目の瞼がやたら重く感じつつもあたりを佐藤雄太は確認する。
「(確か塩崎との話中に……? 薬の副作用かなにか、かな)……塩崎?」
だが、彼を探してもどこにも見当たらない。流石に帰ってしまったか、そう判断して窓の外を見やる。
既に日が沈み、カーテンが半分ほど閉められている。
気を利かせてくれたのだろうか、カーテンのおかげで夕日の光が顔に当たらないようになっていた。
「佐藤さーん、体調はどうですか?」
「あ、はい……あれ? 先生?」
コツコツと足音を立てて誰がやってきたかと思えば、今朝がた見た女医さん。
はて、彼女は夜勤明けで帰ったはずでは。そう佐藤が疑問に思うと彼女は気が付いたようだ。
その手に持っていたビニール袋を少し持ち上げ、こちらに笑顔を見せる。
「はは、私は医者ですが……お見舞いというものですよ。同僚から少々状態を聞きましてね。ほらこれ、お饅頭……好きですか?」
「あ、どうもありがとうございます……」
受け取ったビニール袋に手を入れてみれば白いお饅頭。気を利かせて態々持ってきてくれたとは、この女医さんには頭が下がらない。
勧められるがままに佐藤は一口、久々の甘味に思わず顔を綻ばせる。
「ふふ、いい顔しますね。聞いた話では精神的に不安定と聞きましたが、時間的問題でしょう、安心しました」
「そう、ですか? そう言われるとこっちもなんだか安心できます」
「……ところで、少し話をしません?」
「? 大丈夫ですけど……」
なんだろうか、佐藤が首をかしげている隙に女医は病室の扉を閉め、鍵をかける。
一瞬その動作に気をとられた後、誰にも聞かれたくないことなのだろうかと独りでに納得する。
カーテンが閉まっていない方の窓辺に寄りかかれば、まだ若い彼女が背後の夕日で照らされる。
彼女の容姿も整っており、見惚れるような場面であるなと何故か冷静に分析していた。
「あ、別にそんな重大な話じゃありませんよ? 単に世間話の一つとして、コイバナでもしようかなと」
「へ、コイバナ……ですか。(気を使ってくれてるなあ)とは言っても俺、全然そういうの」
「そうなんだ? 最近の中高生なら浮いた話の十や二十でてくるものじゃないんだ~? ほら佐藤さんも好きな子とかいないの?」
「んー、いやあんまりまだそういう感情は」
「じゃあ好みのタイプとかはある?」
「そう、ですね……ショートカット?」
しばらく、他愛もない会話が続いた。特に考えたことはなかった女性の好みを話して、それについてのツッコミを受けたりして、まあまあ楽しい会話のはずだ。
けどなぜだろう、心の奥底で何かが叫んでいる気がして素直に楽しめない。
そんな心境のまま、佐藤は問を一つ。ただの話の流れで思いついたもので特に意味はない。
「じゃあ逆に、どんな男性が好きとかってありますか?」
「……」
それを聞いた途端、女医が無表情でこちらを見つめる。
反応を見て佐藤は己が何か失言したのかと焦り、訂正する。
「あ! 別に嫌なら言わなくても――」
『――おや佐藤くん、起きたんですね』
ベッドの下から声が聞こえた。それに二人ともに呆気とられ、少しした後に佐藤がのぞくとそこには携帯が一つ。
佐藤のもので、画面を見るに通話状態である。
(相手は……塩崎? しかもこの通話時間、もしかしてあの時からずっと続いて……)
「……知り合い?」
「えぇ、一応。ちょっとすいません、直ぐ切りますので」
『――やはりつれないですねぇ……あぁ、えぇ。佐藤くんは元気なようですよ?』
「待て、お前誰と会話してる?」
『――?君のご両親ですが、少し病院の周りをうろついていたら偶然ばったりと』
そのまま帰っていてほしかった、携帯を握りしめながら佐藤は呟く。
何か変なことを吹き込まれる間にさっさとだ、探偵は迅速を尊んでいてほしいものだ。
女医さんを少し伺いながら……、と少し目をやると彼女が少しこちらに近づいてきてるような気がした。
佐藤は、会話が気になっているのだろうか、そう考えて意図的に気が付かなかったふりをする。
『――なにせ君とはうまく会話できませんでしたから、こうして電話でですね?しかし……えぇ、はい。今は普通に会話できていますよ? 大丈夫ですね、先生もそこまで心配せず……え、変わりたい? 別にいいですが』
どうやら誰かと変わるようだ、流れ的には父か母か……いや。
(先生? 担任か塾の……)
『――もしもし、佐藤雄太さん? 今朝がたぶりですね、体調の方はどうですか?』
「ッ!?」
汗が噴き出る、声、しゃべり方……そこから判断するに携帯の先にいる相手は、女医である。
慌てて病室、こちらにいるはずの女医を見れば、更に彼女は近づいていて、手を伸ばせば届くほどの距離に立っていた。
その顔は微笑んでいて、いやどこか不自然だ。
「……せ、先生?」
携帯を離して話しかけてみても、彼女は何も言わずにこちらを見つめていた。
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ノイズが再び、頭の中に響いた。
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