コメディ・ライト小説(新)

2-8 ( No.17 )
日時: 2018/05/20 01:29
名前: 塩糖 (ID: 2rTFGput)

「鉄をも呑む砂」-8


 現実世界に戻って佐藤が一番にしたことと言えば、自身の腕に取り込みかけていた女性を解放することであった。
 しかし、砂になっている自分の腕を操作の仕方がわからず、とりあえずぶんぶんと腕を振る荒っぽい方法とってしまう。その勢いで床に崩れ落ちた女、どうやら意識がない。

「縺翫?√♀縺?縲?襍キ縺阪m窶ヲ窶ヲ縺セ縺輔°豁サ繧薙〒≪お、おい! 起きろ……まさか死んで≫」
--いや、生きてるよ
「縺昴≧縺ェ縺ョ? 窶ヲ窶ヲ縺」縺ヲ縲√%縺ョ螢ー≪そうなの? ……って、この声≫」
--どうも、心の中から語り掛けてる。それと喋れないのは当たり前、なにせ発声器官がぼろぼろに崩れてる

 肩を何度か揺さぶっていると、頭の中に声が響き慌てて辺りを見回す佐藤。しかしどうやら、声の主は先ほどまで会話していた怪物のようである。そう判断すると目つきが少し、悪くなった。
 それと同時に、自分がこの世のものとは思えない声を発していることに気が付き、改めて自分が異形のモノになったことを思い知った。
 その後、確かに女性は呼吸していることを確認し、安堵するとともにベッドに腰かける。
 その間ずっと、仮面をつけているため視界が悪くてしょうがない。
 ……目の辺りも崩れているらしいので、仮面を外したところで改善するかは不明だが。

--まあなんとかなるだろ
「(不便すぎる)縺ァ縲√%繧後°繧峨←縺?☆繧九°窶ヲ窶ヲ≪で、これからどうするか……≫」
--早急に対処しないと、電話が切れて不審に思った両親やあの探偵ボーイもやってくるぞ? 駄目もとで女の体を吸収し証拠隠滅を図ることを提案する
「蜊エ荳銀?ヲ窶ヲ縺昴≧縺?繧医↑縲∽ココ縺梧擂繧九s縺?縺九i莉翫?縺?■縺ォ縺ェ繧薙→縺九@縺ェ縺阪c縲ゅ∴縺医→縲∵オ∫浹縺ォ莠コ荳?莠コ髫?縺吶?縺ッ髮」縺励>縺苓・イ縺」縺ヲ縺阪◆縺薙→縺ッ譏弱°縺吶→縺励※縲∬?蜉帙?髫?縺励※窶ヲ窶ヲ≪却下……そうだよな、人が来るんだから今のうちになんとかしなきゃ。ええと、流石に人一人隠すのは難しいし襲ってきたことは明かすとして、能力は隠して……≫」
--ついでに肩にできた穴も隠さないとな。いや完全に溶かしきる前でよかった、溶かすのをやめて変身前の体に全部戻しておいた。だから今変身を解けば、砂で埋めた所がなくなって元通りに血がドバドバでるぞ♪
「繧薙↑讌ス縺励£縺ォ險?繧上↑縺?〒縺上l繧九°≪そんな楽しげに言わないでくれるか≫」
--あぁそうだ、一々口に出さなくても心で考えれば会話は可能だぞ
(あぁ、こうか?)
--そうそー

 異常事態だというのに考えが回る、それはきっと悪態をつける話し相手がいるからであろうか。不思議とこの人物との会話は進む。
 とりあえず早急に解決すべきなのは、本体の肩からの出血、そしてこの女の処理である。

(じゃあ如何にも相打ちになったかのような倒れ方をしてみよう、皆が来たら変身を解いて……危ないけどここ病院だしなんとかなるだろ、応答は気絶したフリをしてやりすごす)
--いいね、入院中に襲われた中学生が果敢にも戦い、通り魔と相打つ。連日ニュースは大騒ぎだ、きっとお前は今の報道以上に詮索されるだろうさ
(けど、これ以上どうしろって……)
--やるべきことは交渉だ、病院の中に不審者、それも通り魔が入り込んだなんて知られたら一大事だ。お偉いさん呼び出してそれをチラつかせな
(あっちも大事にしたくないから隠せっ、てか)

 とんでもないことを言い出した化け物に思わず、今は融けている目をぎょっとさせる。
 交渉も何も、ただの中学生にそんなことが出来るはずもない。
 だが……そう考えていると佐藤に一つ、あまり使いたくはない手が閃く。

(塩崎、アイツは口の上手さだけはある。あいつを味方に引き込めれば……けど)
--探偵少年はごまかしが嫌いかい?
(いや、それが被害者のためになる、そう受け取ればアイツはそうなるよう行動するはず。だけどそのためには、アイツにだけは真相を教える必要があるだろ)

 全てを知るのは探偵のみ、塩崎が好む状況だ。だが今は最悪が過ぎるというもので、そもそも彼は化け物だのという類は本来信じない気質である。
 そして長年の付き合いである佐藤が言ったとしても「証拠は?」の一言で終わるだろうことを理解している。
 つまり、彼に信じてもらうためには実際に、その目で見てもらうほかない。

--見られたくないのか、怪物としての姿を
(……それも半分、けどもう一つある。お前だって、さっきまでは俺にそうしようとしてたじゃないか)
--あぁ、そういうことか? お優しいことで、探偵が能力者だらけの世界に足を踏み入れさせないように、か
(そうだ、いくらアイツでも流石に危なすぎる。お前みたいな能力を持った奴に憑りつかれたわけでもな……待て? おいおま、アンタ、君……うーん)

 塩崎が能力を知れば、好奇心旺盛な彼のことだ、きっと能力者についても調べ始めるだろう。そうしていくうちに、どうして彼がこの女のような奴に襲われないと言えるのだろうか。
 佐藤は今、砂の体があるからよいとして、塩崎にそんなものはない。佐藤自身、彼がしぶとい人間だというのは知っている。
 知っているが、流石に危険すぎる。
 関わってもいない者を無理やり引きずる訳には、そう考えた佐藤、途中ある疑問が出たので尋ねてみることにした。
 ……が、そもそも彼の名前すら知らなかったことに気が付き、呼び方に四苦八苦する。

(……なぁ、お前の名前はなんていうんだ?)
--そこそこ乱暴な呼び方に落ち着いたな? まぁいい。それで、俺の名前か……そうだな、通りすがりの化け物と自称したことはあったな
(じゃあ化け物って呼ぶぞ)
--流石にそりゃあないだろ。わかったわかった、ペストって呼べ
(今三秒くらいで考えなかったかそれ)

 それは、今着けているマスクが生み出される原因である伝染病だ。到底、人名に使われるものではない。
 こちらも冗談で怪物呼びをしようとしたのに、相手側から提示されると引け目を感じてしまう。
 ついつい、彼が隠したがってる本名の方に気がとられる。呼び名などこの際何でもよいというのに。

--で、わざわざこのペストさんに質問とは一体全体なんなのさ
(結局それでいくのか、ええとまずこの砂の体はお前の能力なのか?)
--ああそうさ、能力名は「イオーガニクス怪物フリーカー」、体全てを砂に溶かすだけじゃなく、何でも吸収していく能力さ。
……今はアンタを取り憑いて、飲み込まないようにしてるからだいぶ制限かかってるが
(いおーが……と、とにかく! じゃあ昨日通り魔を倒したのもお前なんだな? それで、お前が何でか俺に憑りついたのは、これから先変な奴が出てくるかもしれなくて、そのせいで俺が大変な目に合うからだったな?)
--んー、まあ概ねそうだな
(で、なんで変な奴は俺のところに来る可能性が高いんだ)

 化け物改め、ペストのことだ。どうせ碌な意味では無いのだろうと中学1年生は翻訳を放棄した。
 その辺にあったシーツで女をぐるぐる巻きにしながら佐藤は尋ねる。
 その問いに、ペストはしばらく間をおいてから間が抜けた声を出す。そうか、そうであった。まだ面と向かっては伝えていない、むしろ察することができる方がおかしかった。だからこそちゃんと言わねばなるまい。

--……あーそうか? そういうことになるよな、うん。えーとな、驚かずに聞いてくれればいいんだが
(?)
--佐藤雄太、貴方は悲運なことに能力者である
(……は?)
--そして、能力者として目覚めた奴らは惹かれあうようになる。決してこれからの道のりは楽じゃないぞ? 

 呆然としている佐藤を放って、病室の外は少し騒がしくなってきた。
 それに気が付き時間がないことを悟ると、彼はとにかく今はやるしかないと扉に向かうことを選んだ。

--さあこっからが戦いの始まりだ、気合入れなジンジャーボーイ!
(どういう呼び方だそれ……)

 ペストはひどく、楽しそうに叫んだ。


第二話「鉄をも呑む砂」-完

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