コメディ・ライト小説(新)

1-2 ( No.2 )
日時: 2017/09/21 10:31
名前: 塩糖 (ID: zi/NirI0)

「その日彼は一般人であった」-2


 友人に少し引かれながらも、そのマスクを手にすることができ、ちょっと得をした気分な帰り道。
 無論マスクはもらった紙袋に入れている。流石にそのまま持ち帰るほどの度胸はない。勢いでもらったというのもあるが、そもそもこんなものを持っていたら一発で変な奴確定である。親に見せたら大笑いされること間違いなしだ。

(それに、貰う代わりに掃除の量増やされて疲れた……)

 その後、保管方法を説明するといわれ奥に案内され、そのついでと言わんばかりになぜか掃除の延長が言い渡された。非常に不服であったが、一度手にしたものを手放すのも惜しく、しょうがないと受け入れた。
 そして、帰る際に電源を入れた携帯――未だガラパゴス――に入っていた「今日はてんぷらだけどめんつゆが切れちゃったから買ってきて」というメールに従った。しかし態々買ってこずとも出汁の元と醤油を合わせれば済む話ではないだろうか。
 とにかく、その買い物を済ませたために既に日が暮れ始めていた。めんつゆと一緒につい買ってしまった、総菜のコロッケを頬張りながら赤く染まった道を歩く。

(そういえば、学校に最近通り魔が出たとか言うニュースが……まぁ、ま、まだ太陽が完全に沈んでないし)

 ふと、地元のテレビでやっていたニュースを思い出す。確か、夜道を歩いていた男子高校生が突然、顔を隠した者に刃物で切り付けらたとか。男子高校生が慌てて逃げてたから、そこまでの傷はおわなかったそうだ。
 小学校はそれを受けて集団下校、しかしうちの中学では気をつけるように言われただけだった。
 他人事のように受け止めていたが、今こうして普段よりも遅い時間帯に帰るとなると、少々怖い気分になってきた。
 なんだか心配になって、たびたび後ろを見ては誰もいないことに安堵と恐怖を覚える。

(そっか今……一人、か)

 改めて状況を把握して、背筋がぞくっとする感覚を覚える。元々怖いものは苦手で、ホラーゲームなどもってのほかの自分にとっては耐えがたいものがある。
 コロッケもいつの間か食べ終えて、手持無沙汰になってしまった恐怖をごまかすため、頭の中でどうでもいいことを考える。

(この間近所の犬が真四角カットとかになってたな……。あ、あと庭で母さんが育て始めたナントカとかいう植物、ネコにほじくり返されてた)

 ――コツリ、と自分以外の足音が聞こえた。
ろくにごまかせなかった思考を投げ捨て、音がした方向を注視する。
 自分の前方、進むべき道の途中にある分かれ道。直角で曲がったその先に誰がいるのかは、高いコンクリート塀のせいで認識できない。
 また音が聞こえた、今度は先ほどよりも小さく、それでいて位置は曲がり角の付近に近づいている様だ。あの角の裏に、誰かが潜んでいるのか……、と想像して息をのむ。

(道を、変えよう)

 もしかしたら普通の人がいるだけかもしれないが、既に恐怖に屈したこの体はそれ以上前に進むことを拒むのだ。だから、回れ右をして遠回りになるかもしれないが人通りが多い場所を行こう。
 足音を立てずに、後ろを向く。先ほどから確認していたこともあり、誰一人としていない住宅地の道。暗くなってきたことで、街灯が付くかどうか迷い点滅していた。
 全速力で走ろうか、いや仮に本物ならば刺激をしないように……そう迷いながらも一歩、歩いてきた道へ踏み出す。

(……ついて、来た?)

 足音が、曲がり角から出てきたのを聞いた。それは、こちらに向かい近づいてきている。
 心臓が跳ね上がる、続いて手も当てず歩分かるほどに激しく鼓動した。もはや刺激することなど気になどしていられるかと、歩みを早くする。
 それに合わせて、更に相手の地面を蹴る間隔が短くなる。完全に、こちらを追っていた。
 コロッケをを挟んでいた油まみれの紙を雑にポケットにしまい込んで、マスクが入った紙袋を握りしめる。
 もはや、軽く走る程度にまで加速しても、振り払えない。後ろを向くことを避けて、とうとう前傾姿勢になって走り出そうとした時であった。


「――もしもし、そこのアナタ」

 固まる、金縛りを受けたように、全身に力が入らずその場で釘打ちされたように止まる。
 男の声だ、それも若く……不気味。声の主は俺が止まった後も数歩、こちらに近づく。恐らく距離は、腕を伸ばせば届く程度。少し切らした息を整えて、もう一度こちらに声を発する。

「すいませんが、少しこちらに顔を向けていただけませんか」

 既に頭の中で、後ろの人物は通り魔であると確定させた。後ろを向いた瞬間に刺すつもりであろうか、それとも何か趣向があってそれを見定めるためか。とにかく、絶体絶命なのだともう一度息をのむ。
 逃げるにも、男性ならば逃げきれないかもしれない。ならば、鞄か何かを投げつけてその隙に……。
 数秒ほどの沈黙が流れた後、覚悟を決めた。そう思って俺は、恐怖にのまれたまま、勢いよく後ろを向く。



 ――そして、眉をひそめた。

「お前かよ!」
「なんだ、君か」

 そこにいたのは、自身のクラスメイトである人間。彼もまたこちらを認識して、期待外れだと言わんばかりに肩を落とした。



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