コメディ・ライト小説(新)
- Re: 砂の英雄【3-1更新 2/13】 ( No.21 )
- 日時: 2018/03/19 23:56
- 名前: 塩糖 (ID: D.48ZWS.)
第二話「異能と能無し」2/6
「と、いう訳だ。人体実験なんぞで能力の変質を図る者もいたが、結局解明できない力になんて手を出すべきじゃあない。成功率99パーセント、創作じゃまず失敗だわな。
――以上だ」
頭のに響く声をそのまま口に出す、ペストの操り人形になったようだと不満たらたらの顔で佐藤はようやっと伝言を終える。
登校途中ずっと喋っていたためか、少々喉の渇きを感じるので冷水機にでも向かいたい気分だろう。
「ほうほう、人体実験……? もう少しお聞かせ願いたいところですが、教室についてしまいましたね。続きはまた昼休みに」
「……昼ぐらいはのんびりしたいんだけど」
--なに、どうせここしばらくはのんびりできないだろうさ
どうせ拒否したところで給食の時間になれば勝手に机を寄せてくるのだろう。いっそのこと便所飯なるものでも……と考えた時塩崎がトイレの壁をよじ登っている姿が想像できて思考を停止した。
そして、平穏を望む佐藤に対しペストは上手くいかないだろうと零す。
「なんだそれ、どういう――ってうわっ!」
「佐藤!」
「塩崎くんも!」
「おやおクラスの皆さん、集まって何をされているので」
「んなの決まってんじゃんか、例の通り魔のことだよ!」
教室のドアを開ければ、皆一斉に視線を向けてくる。そして目的の人物だと察すると我も我もと人が寄ってくる。どうやらみな通り魔事件について被害者の佐藤、そして「捕まえたということ」になっている塩崎に話を聞きたいようだ。
当然、塩崎のポンコツぶりはクラスのものも何となく把握している。だから何かがあったということは分かるのだろうが、それでもまさか塩崎が捕縛に一切かかわってないなんて予想はつかないだろうなと佐藤は一人思う。
「怪我は大丈夫なのか? というかなにがあったんだ」
「ほんとに犯人を捕まえたの、塩崎くんのことだからまた関係ない人なんじゃ……」
「今のところ一番人気は憶間が雄太を囮にして結局逃げられた。大穴は雄太がやられて憶間
が覚醒して捕まえた、っていうのなんだが。一口宿題一個な」
「本人に聞いたら賭けになんないじゃん」
--……はは、中々に愉快な光景だな
(呆れてんのか?)
--いや、むしろ楽しんでるのさ。いい日常だなって
「……」
ペストはやはり、過去に何かつらい経験をしていたのだろう。それも能力が原因で、平和だった日常を失ったのだ。だからこそ、彼は能力を遠ざけようとし、それを諦めた今でも佐藤を導こうとしている。
何があったんだ、と聞けばきっとはぐらかすだけだというのに……何かまぶしいものを見るたびに彼はぼろが出る。心の声とは裏腹に、彼は今ひどく弱っているのかもしれない。佐藤はそう感じた。
「残念ながら、守秘義務がありまして語ることは出ません。ですが、通り魔はしっかりと捕まえましたのでご安心を!」
「その言葉が安心できないんだぞー。佐藤! お前はどうなんだ?」
--ほら、聞かれてるぞ?
「え、あぁ俺? えっと内緒ってやつじゃ……駄目か。とりあえずはっきり言えるのは犯人はもう捕まってしっかり警察に引き渡されてるよ」
「ならよかったー、うち妹居るからさー」
また思考をカットし、クラスメイトとの会話に専念する。どうせペストは昼夜問わず一緒なのだ、今考えなくても明日、あるいは明後日……少なくともそんな直ぐに別れは来ないはずだ。
騒ぐ教室の中で、突如として人気者になった感覚に戸惑うも、佐藤はなんとかいつも通りを務めることにしたのであった。
ちなみに、塩崎は装うこともなく自然体であった。
◇
鐘の音が鳴る。4限目が終わったことを知らせ、生徒たちにつかの間の休息が訪れた瞬間だ。学生ごときいつでも暇だろう、などというやっかみは拒絶するものとする。
みな慌ただしく給食着に着替えたり机の移動を始めたりしている中、案の定ではあったが塩崎は机を佐藤に寄せてきていた。
どうせ授業など上の空、能力とはいかようなものなのかをずっと考えていたのだろう。
「さて今日は白身魚のフライらしいですが……才ある者は特定のものが食べられない、なんてことはあるのでしょうか?」
--個人によるな、魚と会話できる奴は刺身は拷問だ、なんて言ってたが
「ないとさ」
--だいぶはしょったな
授業の準備時間などは他のクラスからもどんどん人が来ていたが、流石にずっと守秘義務で通したためかあまり佐藤たちに聞いてこなくなっていた。
むしろ今こそ集まり、塩崎が能力についての質問ができないようにしてくれれば楽なのだが……空気を読んでいるのか誰も寄ってこない。
そして塩崎は才ある者、などと言葉を濁してはいるが能力者のことであろう。空気の読み方が微妙にずれている男だ。
「……それでは一体どうすれば見分けることができるのですか?」
「え、そういえば……」
塩崎の何の気もない質問に、佐藤も首をかしげる。確かに見た目に特徴があるわけでもない、そんな人間をどうやって能力者と特定するのだろうか。
漫画などでは特殊な痣でもあるのだろうが、生憎佐藤はそんなものは体のどこにも見当たらない。
--簡単な質問だな
(なんだよ、もったいぶらずに早く教えろよ)
--だから、簡単なんだよ。存在しない。
(……は?)
--能力が使えるかどうか、ただそれだけだ。だから探す奴は噂とかを参考にして、能力者っぽいかなー?って奴に接触してくるって訳だ
「……手探りだと」
「なんと」
驚愕すぎる情報に二人して目を丸くする。流石になんらかの目星は付けられる程度の何かがあると思っていたのだ。聞いて、足で探し、見て確かめるとはまるで探偵のようだが……塩崎が仮に探そうとすればきっと実働担当をいつの間にか佐藤がやることになるのだろう。
しかし、能力が使えるかどうかなんてそれこそ本人にしかわからないことだろうに……探す人間はよく人を間違えているのではないかとさえ思う。
(ん、待てよそもそも探す人なんているのか?)
--……いるぞ、今回の事件だって探偵の協力で情報操作できなけりゃソイツがジンジャーボーイの元に来てたな
(本当かよ……というかジンジャーボーイはやめろって)
--生姜はお嫌いかい?
(ジンジャーがどうこうじゃない、普通に佐藤でいいだろ)
--砂糖づけの生姜は美味いらしいぞ、別にいいじゃないか
「……何か私に秘密で会話されているようですが、そろそろ給食を取りに行きますか。佐藤くんも急がないとおかずが切れ端のみになりますよ」
どうでもいい会話をしながら、昼を過ぎていく。結局のところ、佐藤の呼び方はジンジャーボーイのまま。そして白身魚のフライは切れ端の寄せ集め。
きっとそれは、どうしようもないほどに平和であった。いつの日か、そんな平和がペストにも戻れば……。
--いいや、俺は遠慮するよ。
そんな思いを、彼はやんわりと拒否の意を示した。
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