コメディ・ライト小説(新)
- Re: 砂の英雄【3-2更新 3/6】 ( No.22 )
- 日時: 2018/03/22 23:14
- 名前: 塩糖 (ID: D.48ZWS.)
第二話「異能と能無し」3/6
夕暮れにはまだ早い、けれど日は落ち始めている。そんな微妙な時間帯。
代り映えのない帰り道。事件のことを心配されたり、あるいは興味を持った者が同行しようとしたが、佐藤はそれを振り払って一人になった。
煩わしい、そんな感情がぐるぐると渦を巻く。面白そうだからという感情がもろに出ていた人物に対しては少々きつい言い方をしてしまったかもしれない。
佐藤からすれば、通り魔の事件は終わったこと。そんなに何度も何度も言われるのが嫌だった。
何せ彼は生きている、ならば過去にとらわれるよりかは今を生き抜くことが重要なのだ。
「――そう、今を見据える事こそが真実につながる一歩です。わかってきましたね佐藤君」
「……お前は何もわかってないだろ。というか何がしたいんだよ……」
--寄り道加速度最高速、正門出て二秒で捕まるとは
ペストの呆れたような声が頭に響く。
今を生きるからと言ったって、塩崎の突発的なことに巻き込まれるのはもっとごめんなのに。佐藤はため息一つ吐いて道端にあった小石を蹴飛ばすが、小石そのまま排水溝に入ってしまった。何かに負けた様な気分になる。
「で、今回はなんなんだよ。また変な事件でも見つけてきたのか?」
「……ふふ、実はペストさんの仰っていた能力者に心当たりがあるので会いに行こうかと。そして君は能力についての説明するために着いて来てもらっています」
--ほう、随分と早いな?
(また塩崎の頓珍漢推理じゃないか? ちょっと前は容疑者に目星がついたなんて言って全く関係のない人物のところ連れていかれたぞ)
今にはじまったことではない。彼が自信満々に推理を披露するときは九割外れ、一割は犯人が勝手に自供して終わるのだ。
ならば期待するだけ無駄だというもの……と言っても彼の場合はその近くに正解が転がっている可能性もあるのでほっとくと重要な情報を見逃したりもするのだ。
--……まぁ、案外ありうるかもしれないじゃないか。どうせ今日はただ家に帰るだけなんだ、母親に友達と寄り道するとでも伝えておきな
(もう送ったよ。うちの親、やたら塩崎を信頼してるからな。コイツと一緒にいるって言えば問題ない)
--そりゃ手早いことだ
「ほら佐藤君、こっちですよ?」
塩崎の先導で一同は進む。公道、私道入り混じるルート。時には狭き塀と塀の間すらも通り抜けようとする彼を止め、近くのコンビニに立ち寄り道を聞くなどして三十数分。二人は漸く目的地へとたどり着いたのであった。道中は猫のとの死闘もあり、決して楽な道のりではなかった。
……塩崎が道を間違えて覚えていなければもっと早く着いただろう。
「ほら、この建物に尋ね人はいらっしゃいます」
「……なぁ塩崎、ここって」
塩崎が自信満々に指さしたのは灰色のビル。四階建てのそれはどう見てもまともではない外観である。
一部のコンクリートが崩れ、鉄筋が丸出しになっている部分がある。そもそも窓がない。ツタが巻き付いているような場所もあり、手入れなんて全くされていないことが分かる。
人が住んでいる訳がない、いるとしたら鳩や鼠くらいのものだろう。
建物の周りの敷地は雑草が生い茂り、崩れたコンクリートブロックが転がっていたりゴミが落ちていたりと荒れ放題だ。
--廃墟だな
「廃墟だろ」
自然と口に出した言葉と脳内の言葉が重なる。奇妙なハーモニーを奏でた後、佐藤はなんとなくだが塩崎が目をつけていた人物に予想がついた。
こんな場所にいる塩崎の知り合いと言えば一人しかいない。学ランに意地でも袖を通さず羽織っていた男のことをふと思い浮かべる。
「……まさか、半田か?」
「おっ、流石に勘づきましたか」
--ん、半田……って
(半田一勝、番長って呼ばれてる奴だよ)
当たりのようで、塩崎は得意げに顔を緩ませた。同時に、佐藤もなるほどと納得する。
珍しく塩崎の推理が正しいかもしれないと驚きつつ、佐藤はペストに説明をする。
半田一生。佐藤と同い年でありながらも、周辺の不良たちを配下にし頂点に立つの男の名前だ。
ワックスによって固められた黒髪が形作るのは時代錯誤なモヒカンではない。彼の鋭い眼光を際立たせるためのオールバック。
年上のヤンキー、それどころかヤクザとやりあって勝利したなんて噂すら流れる彼ならば、能力者と言われてもなんら不思議ではない。
何より佐藤は、もしやと思う現象を一度目にしていた。当時はそんなこともあるか、と流したが今にして思えば能力による現象で間違いないだろう。
--……そりゃもう当たりじゃないか
「(そうだな)……っておい!」
「何しているんですか、さっさと中に入りますよ?」
いつの間にやら、塩崎は「立ち入り禁止」の紙が下がっているロープを跨ぎ、さっさと中に入っていこうとしていた。
せめて一言言ってから行動を開始してほしい、佐藤も少々躊躇したのちに建物の中に入っていこうとする。
だが一瞬、体の動きが止まった。
--……ん?
(ど、どうした?)
--――いや悪い、気のせいだった
どうやらペストが何かに気を取られたらしく、疑問の声を出した。しかしペストに体の制御権はないはずなので、たった今体が止まったのは佐藤自身によるものだろう。
そのままキョロキョロと辺りを見渡すも誰もおらず、何だったのだろうと首を傾げる。その後に、佐藤は塩崎を追うため廃墟へと姿を消した。
「……」
――その様子を少年は、遠くから眺めていた。
◇
その日の月は、欠けていた気がする。
所々が薄れてしまっている夢が流れる。そこはいったいどんな場所だったのか、その日の天気はどうだったとか、さほど重要ではない物は真っ先に削れたのか、酷くあやふやになっていた。
『じゃあ***くん、初めての任務ですがそんなに気負うことはありません。僕の能力があればきっとすぐ終わりますよ』
彼はそう言って、緊張する俺の肩を叩いた。それに対して俺は……答えようにも口が動かない。どうやら明晰夢というタイプではないようだ。
いつの間にか腕を上げて、問題ないとでも言いたげに肩を回した。
『これは頼もしい。では、作戦を確認しましょうか。目的は対象についてきてもらうこと、その際抵抗があれば……少々手荒いことになります。まぁ、致し方ないことです』
『あぁ! けど大丈夫だよ、アイツも説明すれば分かってくれ……る』
ようやく口が動いた、暴力的なことを容認するこの口。それは、暴力が振るわれないことを信じているから……そんな感情が体に走った後に言葉が詰まる。
何故、何故暴力的なことが起きないとこの体は確信していたのか、それが不思議で不思議でしょうがない。そもそも自分は対象人物とは知り合いではないはずだ、それだというのに何で……、
『――**トくん、行きましょう』
『え、あぁ……』
思考が止められる、同時に急かされる。
そうだ、行かなければならない。遂行しなくてはならない。
その為に自分はここにいるのだ、その為に彼はこうして導いてくれるのだ。報いなければならない。
これは贖罪だ、命を奪ったものは他の命のために動かなくてはならない。待て、そもそもこの行動がどうして他の命の為になるんだっけ。
『じゃ、じゃあ先に俺が踏み込んで説得。でいいんだよな ドッペル ?』
『えぇ、期待してますよ ペストくん 』
コードネームを呼び合い、二人はゆっくりと闇の中溶け込んでいく。
どうして、人を説得するのにこんな暗い時間に行く必要があるんだ。そう思ってもやはり言葉にはできなかった。
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