コメディ・ライト小説(新)
- Re: 砂の英雄【3-3更新 3/19】 ( No.23 )
- 日時: 2018/04/18 21:25
- 名前: 塩糖 (ID: dDbzX.2k)
第二話「異能と能無し」4/6
耳鳴りが聞こえる。
頭痛がする。
背中に、硬いものが当たっている感触がする。
「──とう君、佐藤君。 生きてますか?」
「……ぁれ、おれ何して」
「目ぇ覚めたか、随分と早えな」
目を開けても、未だくらくらし眩暈を起こす視界。佐藤はいつの間にか自分がコンクリートに寝ていたことに気が付き、ゆっくりと上半身を起こす。
天井はむき出しのコンクリート。壁の塗装は既にはがれており、遠くの方ではこぼれた落ちたコンクリートの破片が見える。
同時に、「何かを見ていた気がする」という記憶が薄れていくのを感じ、それを必死で止めた。
確証なんてなかったがきっと、失ってはいけないものだ。例え一片すらも逃してなるものか、そんな気持ちがあった。
そうしながらも、なぜ自分が寝ていたのかと考える。確か、半田に会いに行こうとして……まずは彼の舎弟らに絡まれたのだ。
一階部分と二階部分をつなぐ、階段を昇ろうとして捕まったはずだ。
『おい、てめえらいったい何の用だ!?』
『まさかとは思うがカチコミって訳じゃねえだろうな……!』
『おぉ、相変わらず半田君の周りは時代が一昔違う気がしますよ。見事に絶滅危惧種なヤンキーです』
『なんで塩崎は挑発してるんだよ……』
マスクに金属バット、金髪に染めた髪に学ランと赤Tシャツ。模範解答が過ぎる不良らに対して……塩崎が無駄に気に障るようなことを言っていたことをよく覚えている。
とりあえず半田と一度会ったことがあって、今回は少し話したいことがあるのでやってきたということを伝える。
しかし、彼らはそれを良しとしない。そもそも一般生徒の見た目である佐藤と塩崎だが、塩崎などは「中学生探偵」なんて肩書が有名になっているものだから警戒されたのだろう。
『そんなにあの人に会いに行きたきゃまず俺達を倒して見せろや!』
『そうだそうだ!』
『おっと、私は荒事は苦手なので……佐藤君、助手としての活躍を期待しますよ?』
『はぁ!? ま、待てお前らも露骨に狙いをこっちにするんじゃ……』
そうだ、二人をけしかけられ……そこから佐藤の記憶はやけに曖昧になっている。恐らくは成す術もなくやられてしまったのだろうか。
いや、それも少し違う気がした。頭の中でペストがちょうどいい機会だとか言いながら、指示を佐藤に飛ばしてきた覚えがある。
--武器を持つ相手の時は大抵が腕に意識が集中してる。一撃貰う覚悟で胴体に一撃入れな、その後は武器を持つ腕を掴んで連打だ
--最高の重さ込めた一撃よりも、そこそこの重さの連打がいい
--無手の距離を意識しな、常に動き続けて距離の利を保つんだ
--焦りが一番の敵だ、どんな奴相手でも平常心保てる奴が勝つ
--……ああ違う、違うな悪い。武器を持つ手を掴んだからその手を攻撃して武器奪って投げちまえ。態々制圧する必要はなかったな
何故か最後は訂正が入ったが、それなりに参考にはなった。
……実を言えば全然ペストの理想とする動きを再現することは出来なかったが、それでもなんとか二人の攻撃を避けきり武器を奪取することに成功した。
相手が本気だとは思えなかったが、そこまでやれば上出来だろう。
『て、てめぇっ!』
では何故佐藤は気を失っていたのだろうか。やはりそこが思い出せ……た。
確か、バットを取られた焦りで不良二人がとうとう本気になりかけたところで……建物が揺れたのだ。
『――何やってんだおめぇら!!』
咆哮。
空気がざわめき、一瞬にして体が止まる感覚があったことをよく覚えている。佐藤だけではない、対峙していた不良たちすらもだ。塩崎は視界内に居なかったのでわからなかったが、恐らくは固まっていただろう。
数秒して硬直がほどけた後そちらを向くとそこには、佐藤たちが探していた人物がいた。
ガタイが違う。身長は佐藤と同じくらいのはずなのに、鍛え引き締まった体から湧き出すオーラが彼を一回りも二回りも大きく見せている。
両肩に掛かり揺れるオーバーサイズの学ランと、その下には無地の白シャツ。
事の全て見通す聡明さとは違う。目の前の現実すらも竦ませて仕舞う様な粗暴さ、そして配下たちを抑え決して反逆などさせぬようなカリスマ性をも感じさせる目。
『おぉ、あちらから来てくれましたね。お久しぶりでしょうか──半田君』
『……あぁ、てめぇか似非探偵野郎。そっちは佐藤……一体どういう用だ?』
何度も会っているというのに中々慣れぬ彼の圧。
それに圧されていた佐藤に質問が飛んできた。とにかくさっさと舎弟たちの警戒を解いてほしいので、彼は説明をしようとする。
その時だった。
『相変わらずすごい迫力だな半田……え、えっと今日は――』
--上だっ!!
『えっ』
偶々老朽化していた天井の一部が半田の咆哮の余波で崩れ、佐藤の頭上に降ってきたのは。
ペストの言葉も虚しく破片は頭に当たり、佐藤の意識をしばらく奪う結果となった。
「あー、ようやく思い出せた……」
--……そうだな、流石に多重人格で更に記憶喪失なんて滅茶苦茶なことにならなくてよかったよ
半田がそのあと運んでくれたらしく、どうやらここは廃墟の中でも三階部分。一番広く損傷も少ないフロアだそうで、舎弟たちも今はまた一階部分で門番を再開しているそうだ。
そんなことを聞かされ意識が完全に覚醒した頃に、ペストの声が響いた。確かにややこしすぎて扱いきれないだろう。
まだ足元がふらふらとするが、それでも佐藤は立ち上がれる程度には回復した。それを見て、半田は感心した様子。
「相変わらず頑丈だな、普通なら病院送りなもんだが……これが似非探偵の言う奴か?」
「えぇ、能力保持者は身体能力の上昇、回復能力が一般人より高いそうで。
……あぁ佐藤君、君が寝ている間に事情はある程度説明しましたから」
「能力ねぇ……俺にはピンとこないがな」
近くの積み重なったコンクリートブロックに座り込み、半田は怪訝な顔をする。直ぐに信じてもらうのは難しいのだろうか。
だが佐藤はとりあえず彼が能力者だと思った理由を説明することにした。塩崎の様子を見るに、そこは語っていないようだったので。
「いや、半田はむしろ能力をよく使ってると思うだけど……ほら、さっきもやったやつ」
「?」
「だから、うおぉぉー! って感じの、声張り上げる奴! あれ最初はビビッて体固まってる、とかそういうもんだと思って納得してたけど……やっぱりなんか違うっていうか」
建物さえも震わせた咆哮、それを受けた者たちは竦む……というよりも文字通り「止まる」と言った方が現象としては正しかった。
特に、佐藤の記憶で印象深いのは犯人確保の際だ。まだ中学生になったばかりの頃、既に番長として君臨していた彼が巻き込まれた事件。
そこに颯爽と塩崎が現れ、数々のかき乱しと佐藤のフォローにより犯人指名の場までもっていくことが出来た。
「私の推理に恐れをなし、指名される前に逃げ出そうとした犯人。彼を君の大声ですっかり動けなくしたことをしっかりと覚えています。当時の人たちは腰を抜かしたとか言っていましたが、私にはそれがどうしても疑問でした」
「――あれ確か、お前まったくの別人を指名しようとしてたよな……?」
「ブラフです。しかし止める時間は先ほどの事を考えるにバラつきがあります。そこから推察するに半田君、君は……相手を声で威圧し、それに恐れる程に対象の動きを止める能力があるのです!」
人差し指を突き出し、犯人はお前だとでも言いたげなポーズをとって見せた塩崎。相変わらず何でここまで自信満々にポーズを取れるんだと佐藤は眉を顰める。
--……多分そうだろうな、塩崎の推理は今回間違っていないだろう
(それに関しては賛成だけどさ)
「……ンなこと言われてもな、そもそも能力なんて本当にあるのか? 佐藤が丈夫なのは認めるが」
「ならばっ」
そう言って、塩崎は佐藤のほうに視線を誘導し彼の行動を待つ。
つまりは、そういうことだろう。能力を見せろということなのだろう。まったく、人の気も知らないでと佐藤の口からため息が出た。
--安心しなって、仮面を取り出してくれたら制御するよ。砂の怪物の力をご所望なんだろ?
(……そういやペストのじゃなくて、俺自身の能力はどんなんなんだ?)
--……あー悪い、俺が心住み着いてるせいで砂の怪物に統合されてる。相性が良すぎるってのも考え物だな。ダブルアビリティ、なんてのは不可能だ
「(まぁ、別に欲しかったわけでもないしそれはいいや)じゃあ、いくぞ」
驚愕すぎる事実を聞かされたが、別に無ければそれでいい。そんな風に結論づけて、彼は持ってきていた巾着袋からペストマスクを取り出す。
その仮面を半田は奇妙なものを見る目で見るが、佐藤自身は一応格好いい代物だと思っているので気にしないフリをする。
仮面でゆっくりと顔を隠せば、レンズ越しの薄く青み掛かった世界が見える。
それと同時に、心臓の付近から血管を通るように何かが廻る感覚がする。
次第にそれは体の内側から外側へと噴き出して……
「──半田さん、襲撃です!!」
それは下から上がってきた舎弟の言葉で止まった。
後ろから大声を出された事で慌て、咄嗟に仮面も外してしまう。そうして舎弟の方を見れば、息を切らす彼が口元から血を流していることが見て取れた。
佐藤が対峙した時はそんな傷は負わせていないので、その後のものだということが分かる。
まさか不良たちの抗争か、突然の事に佐藤が慌てていると半田がその肩を抑え一歩前に出た。
そのまま膝に手をつき呼吸をしている舎弟に近づいていく。
「どこのだ」
「分かりません、けど一人でやって来て……急に増えて」
「あぁ? 増援が来たってことか?」
「違うんです……! とにかく増えて」
「──こういうことですよ、バンチョウさん」
聞き覚えがある声がした。
舎弟がやってきた階段から、一人の男が昇ってくる。その所作一つ一つがどうしてか、欠けた記憶に重なる。
黒く短く切りそろえられた清潔感のある髪。整のったルックスは塩崎の自然なものとも違う、何故か不自然さと完璧の両方を感じるおかしなもの。
だが奇妙なことはそれだけでは終わらない。
少年は一人ではない。「少年」が列を成し、ぞろぞろと階段から一人、また一人と上がってくるではないか。
十の少年のうち、たった一人が声を出す。顔に喜色を浮かべているが、やはり不気味さがぬぐえない。
「……初めまして皆さん、僕の名前は」
「──ドッペル?」
そんな不気味な彼の名を、佐藤は口にした。
*****
前話 「異能と能無し」-3 >>22
次話 「異能と能無し」-5 >>24