コメディ・ライト小説(新)
- Re: 【オリキャラ募集中】砂の英雄【3-4更新】 ( No.24 )
- 日時: 2018/05/20 00:53
- 名前: 塩糖 (ID: 2rTFGput)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1040
第二話「異能と能無し」5/6
面識があったわけではない、けれど口が自然に動いた。まるで、旧知の仲の人物を雑踏の中で見つけたような声色で。
その異様さに気が付いたのは、周りの人間の視線がすべて佐藤に集中した後だった。
佐藤側の二人は驚き……奇妙にも一番その立場であるはずの少年は少し首をかしげるばかりであった。
「……もしかして、以前何処かで会いしましたか? 申し訳ないですけど記憶に……」
「――いや? うん、会ったこと……はない、はずだ」
ドッペルという呼び名を、彼は否定しない。つまりは正解だと述べていた。
それに対し、一番混乱しているのは佐藤だった。
何度も何度も脳のタンスを引いたり戻したりした後に、漸く先ほど見た記憶と何か関係があったのだろうと気がつけた。
同時に、崩れ落ちかけた夢がふとよみがえりその色を取り戻す。
(そうだ、ペストの記憶……こいつは確かにそこにいた!)
だがしかし、どうして彼を見るとこんなにも懐かしさを感じるのか……哀しく、怒りが沸いてくるのかがわからない。肺よりも奥に存在する何かが、キュウと締まるのを感じる。
そもそも、記憶の中ではペストの先輩のように振舞っていた彼が何故ここに。
纏まらぬ思考に添えるよう、彼の声が流れた。
--なんで、今……
「……まぁいいか。さて」
彼の声に焦りがあった。自嘲するものでも、感動に打ち震える物でもなく、困惑することで生まれた独り言のような物。
その間にも、佐藤への興味をなくした少年は半田の方に顔を向ける。
「パンチョ―さん、今日は君の保護のためにやってきました」
「――保護、だと?」
その一言が、半田の怒りを頂点へと導いた。
元より、自分の舎弟が怪我を負ったということで悪感情はあったが、その状況を作り出した人物が何も気にせず言ってのけたのだから、それは当然の事だった。
これからどんな御託を並べようが関係ない、叩きのめすのみ。半田はその考えを持って全身に力を巡らし、コンクリートの床を蹴った。
一直線に少年の元へと走り、大きく右腕を振り上げる。
「――虚構の騎士たちよ」
その一言で、少年――ドッペルの周りにいた兵士たち九人が動き出す。
一糸乱れず、ただ半田を止めるべく、顔色一つ変えずに動く様は見る者に恐怖を与えた。
だが、それがどうした。
番長という位は伊達ではない。幾多もの戦いをくりぬけた猛者の証。直ぐに兵士達の同一の動きに穴があることに気が付き、攻撃をいなしてみせる。
徐々に反撃を狙える様になってきた彼の動きを見て、塩崎は安堵の声を出した。
「一時はどうなるかと思いましたが、あれなら大丈夫そうですかね」
--……だと思うか?
「ペスト? 何が言いたいんだよ」
--すぐ分かるさ、ほら
その声とほぼ同時に、彼の体重を乗せた拳が一人の兵士の顔へと通り……撃ち抜いた。
精巧な人間の顔に大穴が開く。
ガラスが割れるような音と共に、その兵士は体ごと砕け散り消え失せる。
一瞬それに半田含め三人は驚くが、これで数は減ったという事実は彼らに更に有利になったと思い込ませた。
「お、いくら動きが雑とはいえ一つ倒しましたか。
――じゃあ、もっと増やしましょう」
それに対しドッペルは少し表情を変えたが、ただそれだけだった。
造作もなく、彼の周りには十一の兵士が並び立つ。これで兵士の数は十九、対してこちらは怪我人含めても四。圧倒的な差である。
流石に十九は相手できない、と半田は慌てて飛び退き距離を取った。
「なんだと……!?」
--虚構の王、自分と同じ身体能力の兵士たちを作り出し使役する能力。最大使役数は二十、倒しても倒してノ―タイムで補充される……きりがない
(はぁ!? そんなのどうやって倒すんだ!?)
「あれ、もうおしまいですか。大人しく着いてきてくれる気になった、ならうれしいんですけど……バンチョーさん」
彼に尋ねるその声色は最初の時とまったく変わっていない。それが能天気さではなく実力差からくる余裕だというのは誰にだって理解出来た。
問いに対し、半田は何も返さない。
「……」
彼は少しもドッペル達から視線を逸らさずじりじりと下がり続け、途中で舎弟を拾いながらも佐藤たちの元まで戻ってくる。
乾いた空気が流れる廃墟の中に、一時の静粛が訪れたが長くは続かない。
半田が動きが終わると、じっと待っていたドッペルは語り始めた。
「では、話を聞いてくれる準備をしてくれたということにして……僕たちについてお話させていただきますね」
「僕たち……その悪趣味な分身たちのことか?」
「いいえ、僕の属する組織――プロトについです」
(なんだ、この気持ち……?)
--……
佐藤の心の中のざわめきが更に大きくなる。
同時に、未だ彼の手に握りしめられていた仮面が少し揺れた気がした。
プロト、という単語が何度も何度も頭の中で反響する。
明らかにおかしい。
「Peacefully,Reassure,Offer,Tissue……平和、安心を提供できる組織。それがプロト、主に救助が必要な人の捜索、保護を目標にしています」
--三分で思いついたような単語の羅列だな
「平和、安心? うちの奴らやっといて随分と馬鹿言うじゃねぇか」
「そうですね。それに僕もそんな名前は聞いたことがありませんが……」
塩崎は自分の知識を総動員し探るが、そんな活動をしている団体など聞いたこともない。
いや、ドッペルの言葉だけを並べればいるかもしれないが……少なくともこうして殴り込みをかけてくる時点で矛盾を起こしている。
「あぁ、表に出てないのは仕方がないんです。なにせ救助、支援が必要な人とはすなわち……能力者! 社会でその存在すら認知されていない人たちの事を指していますから」
そう言って、ドッペルは半田に手を差し伸べた。ここまでの事をしておいて、彼がその手を取ると思っているのだろうか。
それとも、戦力の差を確認し投降しろという意思の表れなのか。
数瞬ばかり、半田の脳内で議論がなされ、直ぐに結論が出された。
どちらにせよ、半田には確かめるべきことがあった。ちらりと佐藤たちの方を見た後、神妙な顔をしてドッペルに向き直る。
「こちらには既に多くの能力者が在籍しています。みんないい人たちばかりで、寂しい思いなんてさせませんよ」
「……一つ聞かせろ」
「なんです? 」
「お前に今、大人しく着いて行けば……こいつらのことは見逃してくれんのか」
佐藤たちは彼の発言に瞠目した。
事実上の敗北宣言、勝ち続けてきた男が潔くそれをしたこと。そして自分たちの身を守るための彼の優しさ。
荒くれ者どもを率いトップに立った男だからこそ直ぐに出せた言葉であった。
「――駄目に、駄目に決まってるじゃないですか?」
しかしそれは二重、いや何重にも自己の分身を投影し平気な顔をしている彼に通用するわけもない。
精々、彼を少し不機嫌しただけだ。
「まだ、僕たちは外に出るわけにはいかないんです」
矢継ぎ早に彼は言葉を吐く。
「そのためには、目撃者は居てはいけません。能力者以外は皆平等に、口無しになっていただきます」
そこに慈悲はないとドッペルは軽く右手を挙げ、ゆっくりと動き出す兵士たちの後ろにつく。
けどどうしてか、半田達に諭す訳でもなく、どこか自分に対し言い聞かせているようにも佐藤には思えた。
「下で伸びている者も、何の用かは知りませんが不運にもここに居合わせてしまった君たちも
――皆、死んでもらいます」
舎弟はその生の終わりを予期し、震える。
探偵はいかにこの窮地を脱するか、視界に入る物全てに対し思考を巡らす。
番長は一糸報う、或いは生存者を増やす方法を探す。
……凡人は、ドッペルの声に対し走る混沌とした感情にどう向き合うべきか、分からないでいた。
恐らくはペストが語らない過去の何かが関係しているのだろうが、何があればこんな気持ちを抱くのかが全く理解できない。
憎い、愚かしい、懐かしい、憐れ、許せない、そして──。
(……!)
時間にして数秒、思考にて一歩、彼はその道を歩くのを止めて……俯瞰してみることにした。
理解できない、どうしようもない。きっと今考えても、碌な考えは出ない。諦めに似たようなものだが、それが佐藤雄太にとっての最善策だった。
多くの感情が入り混じる中、一つだけ自分の感情だと分かるものを見つけた。
そして、ペストの感情の中で見過ごせない物もあった。
ならどうするべきか、決まった。
態と遅く瞬きをして、思考を切り替えると彼に話しかけた。
(ペスト)
--……俺の感情が伝わってるのは悪い。けど俺の事は語れ――
(そっちも気になったけどさ……さっきの続き、できるか)
後戻りが出来ないように、彼はペストの返事を待たず仮面をつけた。
視界はまた青く染まり、どこか別の世界に飛び移ったような高揚感を覚える。
顔が見えなくなることが、いつもセーブしがちな彼を少しだが変えたのだ。
「……えっと君、どうしたんですか急にお面なんかつけて」
--……確かに強くはなるが、アンタの体を維持したままじゃ相手を砂に飲み込むわけにはいかないぞ。この前はアンタの意思を表に出す必要はなかったから取り込んだんであって、それは駄目なんだろ?
(ああやっぱりそうなのか)
--そうだ、悪いがここは……半田に囮になってもらって離脱。直ぐに家族と一緒に警察所でもどこでも事を隠し切れない場所に逃げた方がいい
(……全員で逃げるってのは?)
深呼吸を幾度と繰り返す。新鮮でも何でもない、埃が多い空気だが……マスク越しだと味わい深いものだった。
ペストの声に必死さが混ざっていた。しかしやはり……佐藤の思考は揺るがない。ゆっくりゆっくり、自分の選択の愚かしさを理解しつつも突き進む。
--無理だな、少なくともそこと下の階にいる不良たちはまともに走れない。半田も部下を置いてくとは思えない
(じゃあ、逃げない。それかアイツらが追ってこれない程度にダメージを与えてからだ)
--だから無理だ。 いいかジンジャーボーイ、それは勇気じゃあない……蛮勇って言うんだ
「佐藤、ドッペルとかいう野郎の狙いはこっちだ。お前が無理をする必要はない」
半田は佐藤が能力者だということは聞かされているし、たった今能力者の恐ろしさを体感したばかり。けれど佐藤一人が参戦した所で勝てる戦いではない、そう判断していた。
その力は生きるために使え、暗に彼は告げる。
佐藤と彼の仲は親友、友達とすら言えないだろう。精々が塩崎に困らせられた者同士、命を懸けて救う関係かと言われれば、多くの人間には疑問符が浮かぶ。
そんなことは佐藤は分かっている。
でも見捨てれば、きっと後悔するだろう。そう理解もしていた。
見過ごせなかったペストの感情が、それを後押しする。
ドッペルにはこんなことを、
(……させたくない、そうだろ?)
--っ、だがドッペルには勝てない。取り返しが付く範囲の中で砂の怪物を使いこなしても、いずれは数の差で埋め尽くされる
「佐藤くん、勝算は……いえ、止めておきます。今はただ、非合理と合理の天秤に打ち勝った君を称賛しておきます」
きっとここで残って死ねば、誰かが佐藤の事を愚かな少年と言い捨てる。
ではここで逃げて、罪悪感で一生自分で自分を呪い続けること、どちらがいいだろうか。
簡単なことだ、ここで残って、生き残ればいい。
散々ペストが不可能だと言うことを、佐藤は目標にした。
以前なら彼はそんなことを言い出しただろうか、と言えばきっとしない。
何かをずっと後悔しているペストが居るから、そうはならないように反発する佐藤の負けず嫌いが作用する。
冷酷に現実を取る彼の言葉とは裏腹に、何かに期待する感情がその綺麗事を支える。
言葉に、状況に酔うように彼は言ってのけた。
(砂の怪物って名前が駄目なんだろ。もっと格好いい、逆境だって跳ね返すような名前なら問題ない)
--──はっ、わかったわかった、俺の負けだ。
根負けしたよ、と言うペストの声は少しだけ、肩の力が抜けたモノになった気がした。
--……万に一つ勝ち目がないなら億に一つの可能性を信じるよ
ようやく、心臓の付近から力が湧き出てくる。きっとそれはさっきよりも強力に、急速に。
砂が体のいたる所から吹き出し体全体、或いは体内を覆っていき、余分に出てしまうものはその場に零れ落ちる。
そうして数秒と掛からず、凡人の姿は怪物としての異形へ変容する。
白く足まで伸びた髪、相も変わらず目玉や口、喉も崩れている。仮面でこそ隠してはいるが、それ以外の腕や足も生成されては零れ落ちる砂が不気味さを醸し出す。
「っ、君は……なんなんですか一体!」
ここまで来て、漸くドッペルは彼が能力者だと気が付いた。
一瞬弱気になった心を押し殺し、誰かの言葉で奮い立たせる。
そうして彼は叫んだ。よくわからない寸劇紛いを見せられた。どんな能力者でも、虚構の王の力があれば問題がない。早く仕事をさせろ。そんな気持ちが彼を支配する。
質問に対しての答えは、随分と昔から決まっていた気がした。
「――縺吶↑縺ョ縲√∴縺?f縺?□≪砂の、英雄だ≫」
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