コメディ・ライト小説(新)
- 冥使と虚像のプルラリズム 1 追放の烙印 ( No.1 )
- 日時: 2017/09/29 20:44
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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1 追放の烙印
。○
「――それが貴様の答えかァッ!」
黒い炎が、少年の全身を包み込んだ。
それは目の前にいる相手を焼かんと迫ったが、相手はひらりと左に避ける。
するとその後ろにいた女官が炎に包まれ、悲鳴を上げながらも崩れ落ちた。
「ば、化け物ッ!」
「!」
目の前で、侍従が何かを叫びながらも逃げていく。
彼ははっと正気に戻り、黒い炎を消した、が。
手遅れだ。崩れ落ちた女官は全身黒く焼け焦げ、もう生きてはいまいと彼は看破する。
彼の額を、冷や汗が流れ落ちた。改めて状況を認識し、本格的にまずいことになったと理解する。
「……逃げられはしない、か」
人の足音。怒鳴り声。
彼は来る運命を覚悟し、それでも抗わんと背中に手をやった。
そこにあったのは、死神の如き漆黒の大鎌。
彼はそれを手に取り、構えた。
この国で近接攻撃が通用するかは置いておいて。
彼、アルヴェルト・アルティリッツはここ、アルティリッツ科学帝国の第三皇子だ。生まれながらに死霊を操る魔法を持っていたが、科学を信じ魔法を厭うこの国で、魔法は禁忌。死を操る死霊術などもってのほかであり、それを幼い頃からよく知っていた彼は、これまでは決してその技を見せないように意識していた。
しかし。
仲の良い幼馴染がいた。彼女は機械整備士見習いで、皇族の住まう塔には、そのセキュリティーを学びによく訪れていた。赤いリボンの良く似合う、明るく素直な可愛らしい子だった。
だがある日、彼女は不意に死んでしまった。あの子は皇家の者に殺された。凶悪な銃弾の雨を浴びせられて蜂の巣にされて。罪を犯したわけでもないのに、殺されてしまったんだ。
アルヴェルトはその現場を見、先ほどの侍従がその犯人であることを目撃した。
なぜそんな非道をしたのかと彼が侍従に問えば、侍従はこう答えた。
『あの少女は悪魔です。魔法を使ったので、法に則り殺しました』
そう。この国はこんな国。魔法を徹底排除して、魔導士は即、殺される。
しかし少女はあの日、あまりに寒かったので、炎を呼び出して暖を取ろうとしただけらしい。
それだけなのに殺された。そんな小さなことで殺された。
アルヴェルトには、それが許せなかった。
『……貴様は人の心を知らないのか』
小さな怒りを胸に秘めて問いただしたら。
侍従は素知らぬ顔でこう言った。
『魔法を扱う者は問答無用で射殺。私は法に従っただけです』
そのあまりに淡々とした言い分に、ついにアルヴェルトは爆発した。
怒りに誘発されて、抑えきれずに溢れだした、魔性の力。
『――それが貴様の答えかァッ!』
化け物と呼ばれた。
その言葉に、自嘲が漏れる。
――化け物、か。
自分は確かに化け物なのかもしれない、と彼は卑屈に笑った。
目に見ぬものを見、死者を呼び起こし、霊を呼び自在に操る力。この国アルティリッツから新興国家フエルヴェンを挟んで東、魔法の栄えるエルテハイム魔道王国でさえこの力を忌み嫌う。それは闇。それは死。かの国エルテハイムでさえ忌まれるこの力。魔法を毛嫌いするこの国では、「化け物」呼ばわりされても当然の力なのだろう。
そして今、彼は対峙する。銃を構えた沢山の兵に。
その代表らしき男が、彼と無残に焼けただれた女官を見て、言った。
「……アルヴェルト皇子、本当のことだったのですか。あなたが魔法を使い、人を殺したというのは」
「…………」
アルヴェルトは黙したまま答えない。その紫水晶の瞳が、抗う思いを乗せて相手を睨んだ。
代表らしき男は、心底残念そうな顔で、言葉を紡ぐ。
「……抵抗なさるのですか?」
「……ああ。言っておくが、これはオレの復讐でもある。あの子を殺した侍従と、この国へのな……!」
「生憎と殺せとは言われておりませんので、あなたは死ぬよりつらい目に遭うかもしれませんよ? 無駄な抵抗はなさらない方がよろしいかと」
「誰に言っているんだ? オレがみすみす投降するような大人しい奴とでも?」
「……ご覚悟願います」
代表らしき男がそう言って、手をサッと上にあげた瞬間。
銃声。嵐のような銃声が。
塔の一室を埋め尽くし、さしたる抵抗もできずに倒れ、彼は意識を失った。
。○
目覚めた場所は牢だった。アルティリッツの牢である、鍵なんて時代遅れのものは使わず、全て特殊なセキュリティーでロックされている。脱出しようなんて、どう考えても不可能だ。
ちなみに牢は、メインタワーとは違うところにある設備である。よって万が一のことがあった場合、メインタワーは牢を丸ごと爆破するなんて凶悪な真似も、できないことも無い。そのための起爆スイッチが牢の基礎の部分に仕組まれているらしいという話も聞く。
彼は自身の身体を点検する。幸い、身体に痛みはない。特殊な銃で撃たれたのか。意識だけ奪うとは巧妙である。
しかし、今彼がいる場所は牢。それだけは紛れもない事実。
アルヴェルトは、口元に皮肉的な自嘲を浮かべる。
「……話に聞いたことのある牢に、まさか皇子たるオレが、囚われるなんて、な……」
今頃メインタワーでは、彼の処分についての話し合いが行われているのだろう。
そんな様を思い浮かべながらも、彼は現状を再確認した。
床は金属質で冷たく、牢自体、自分の体すらまともに見えないほど暗かった。そこには人々が古より恐れる、完全なる漆黒の闇があった。
初めての経験。囚われて、その奥で真の闇を見る。
これまでの生活が一気に崩れ落ちていく音を、彼は感じた。
――これから、どうなるんだ?
暗い。そして寒い。罪人を死なせないために空調は完璧のはずなのに、その身体は震えるばかり。
――父上、母上。お助け下さい――。
幼い子供のようにうずくまりながらも、震えつつ彼は両親に祈った。
アルヴェルト・アルティリッツは孤独だった。
。○
ピッ。セキュリティーロックを解除する音。あれから何日経っただろう。あの闇の中では、時間感覚すら曖昧になる。
突如差し込んできた久々の光は、彼の眼を灼いた。
音からして、何人かの人間がいるらしい。
「アルヴェルト・アルティリッツ、出なさい」
腕を掴まれ強引に立たされる。よろめいたら、その腕をさらに強く引かれた。
「アルヴェルト・アルティリッツ。話し合いの結果が出ました」
彼が目を瞬かせながら見上げたのは、見知らぬ男。
その服に着いた紋章から、高位の文官だと理解できる。
彼は静かに罪状を告げた。
「貴方はあの女官を貴方の魔法で焼き殺しました。それに長い間、己に魔法があることを隠していましたね。そして魔導士を庇う発言をしました。そう言ったことから――」
下された判決は。
「――貴方は国外追放となり、次にこの国を訪れた場合は問答無用で処刑する、つまり貴方は『追放者』となったのです」
追放者。それはアルティリッツ内でも非常に重い罰。
国籍を剥奪され、もう二度と故郷に帰れない。
しかし。アルヴェルトは覚悟していた。自分が女官を焼き殺した時から。
彼はうなだれ、淡々とその判決を受け入れる。
その様子を見ながらも、文官は無情にも告げた。
「追放者の烙印を」
その言葉。彼は激痛を覚悟し身ををちぢ込ませたが、文官の背後についていた人たちが、彼の腕を強引につかみ、その身体を広げさせた。
上着を強引に脱がされる。上半身裸にさせられ、口に布が詰め込まれた。
これから起こることを彼は知っている。だが、まさか自分が烙印を受ける羽目になるなんて!
内心で神と運命を呪い、それでも抗おうと力を込めた、
瞬間。
「焼け!」
何かが肩に押し付けられる感触。途端、耐えがたい痛みと熱さが彼を襲った。痛みと苦しみのあまり転げ回りたくとも全身をしっかりと抑えつけられて悶えることすらできない。、思わず舌を噛みそうになるが、口に詰め込まれた布がその動作を阻害する。
死ぬよりも辛い目。舌を噛んで死ぬことすらできない。
痛みと苦しみのあまり眩暈がして、世界がぐるぐると回りはじめた。
地獄のような苦しみの中、彼は明確に意識する。
追放者に必ず押される、醜くゆがんだ悪魔の烙印が。今、自分の右肩に押されたのだということを。
痛みに歪む意識の中、彼が最後に考えたのは。
すべての事件の発端となった、殺された幼馴染のことだった――。
。○
国境まで「護送」され、隣国である新興国家フエルヴェンに彼は放り出された。いまだおさまらぬ激痛に、彼の意識は混濁する。
今がいつなのか、ここがどこなのか。あらゆる感覚がおかしくなっていた。
その身体を、優しく抱きあげて横たえる腕が二本。
「二度と戻ってきてはいけないよ」
彼に優しくそう呼びかけたのは、彼が大好きだった、二番目の兄。
その静かで穏やかな声が、悲しげに響く。
「アルティリッツも魔法を受け入れさえすれば、君がこんなに傷付くことも無かったのにね……」
心優しい第二皇子はアルヴェルトの頭を撫でながらもそう嘆くが、今更のことだった。
第二皇子レルフィオンは、アルヴェルトの身体をそっと抱きしめた。レルフィオンの身体からは、優しい匂いがした。
「じゃあね、アル。僕の可愛い弟。君は追放者の烙印を押されたけれど、僕はずっと、君の兄さんでいるから」
その一瞬、混濁していたアルヴェルトの意識が覚醒した。
彼の眼に映ったのは、泣きそうな顔をした大好きな兄。
しかし。何かを喋ろうにしても、呼吸すら困難な身体では話すことなんてもってのほかで。
泣きそうな顔で、レルフィオンは言うのだ。
「僕はずっと、君の兄さんでいるから。たとえもう二度と会えないとしても、そのことを忘れないでね」
大好きだったよ、そう呟いて立ち去ろうとする兄の、服の袖を。
別れたくなかったから。知らず、アルヴェルトはつかんでいた。
「こらこら」
悲しげに笑って、レルフィオンは弟の指を引き離す。
その手に何かを握らせて、今度こそ歩き去る。
「僕は君の、兄さんでいるから」
もう一回、口にして。
アルヴェルトを安心させるように、口にして。
優しい香りを残し、レルフィオンはいなくなった。
ここがどこかもわからないが、背中に草と土を感じる。
ああ、終わったのだ、とアルヴェルトは思った。
そうしてその意識は再び、闇に落ちる――。
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……どこがコメディライトなんでしょうねぇ? 本当は他の板で書くべきなのですが、他の板はルビ機能がないんですもん。仕方がないのです。
3~4話くらいから少し明るくなると思います、たぶん。
- 冥使と虚像のプルラリズム 2 出会い ( No.2 )
- 日時: 2017/09/30 17:44
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
機械音痴なわかめちゃんに代わり、本文は私、流沢藍蓮が更新させていただきます。
ですが、一応言っておきますと。今回はわかめちゃん回です。これから掲載する話の原型はわかめちゃんが書きました。ノートに書かれていたそれを、藍蓮が投稿しただけです。
視点が変わります。
ではでは。
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2 出逢い
。○
漆黒の少年を国境に放りだした人々が去ってからしばらく。意識を失った彼の傍に、たたずむ少女が一人。
帽子を深くかぶった少女は、値踏みするような眼で少年を見下ろした。
「……何だか、やーばいものを見てしまったような気がしますけどもー」
その雰囲気に似合わない言葉は存外大きかったようで、外だというのに良く響いたが、少年が目を覚ます気配はない。昏睡しているようだった。
きっと身体も精神も疲弊しきっているのだろう。
よく診るまでもなくそう判断をした少女は、少年を担ぎあげた。とはいえ体格が違う上に少女自身が非力なので、不格好な持ち方になってはいるが。
そして賑やかな街の方へ歩き出したところで、彼女はふと、気がついた。
「……しまった! 私、家ないんでしたっ!」
。○
幸い、あまり治安のよくないこの国では家主のいない家なんてすぐに見つかる。少女は簡単にそんな家の一つを見つけ、そこに寝泊まりすることにした。
少年を拾ってからベッドに寝かせるまで、半日もかからなかったのではないだろうか。
少年が目を覚ましたのは、それから二日後の昼過ぎのことだった。
計60時間ほど眠っていた少年に、少女は無言で水の入ったコップを押し付ける。
少年は受け取ることには受け取ったが、少女を警戒しているのか、口をつけずに彼女を睨んだ。
その瞳は夜を連想させる、濁った紫をしている。
(何だか、全身で夜を表しているような人ですね)
夜は嫌いだなぁと思いながらも、少女はあらかじめ作っておいたスープを取りに行くため、部屋を出た。
数分も経たずに戻ってきた少女は、少年の手の中のコップが空になっていることに気がついた。
少女は彼に声をかける。
「あ、水飲んだんですね」
「……あんたがオレを殺すつもりなら、眠っているうちに殺していたはずだ。毒など……警戒する意味がない」
「…………」
はじめて交わす会話がだいぶおかしい。少年は警戒心の塊のようだった。
少女は内心で溜め息をついて、持ってきたスープを少年に差し出す。
「では、次にこの栄養という毒が入ったスープを飲みましょうか」
「…………」
冷たい瞳で睨まれたが、少女は気にしない。
「ちなみに炭水化物とかいう毒もありますけれど、食べます?」
「……いらん」
そうは言いつつも、彼はスープを手に取った。
彼は小さく呟いた。
「……生きるためには……食べなきゃ、ならない」
余程の過去があったのだろうか。
水のお代わりを注ぎながらも、少女は少年が食べ終わるのを待った。
。○
「さて、落ち着いたところで状況を説明しましょうか」
少年が二敗目の水を飲んだところで、少女は改めて彼の方に向き直った。
「と言っても、私から説明することって言ったって、たかが知れているんですけど。現在地はですねぇ、アルティリッツの国境付近に存在する、フエルヴェンの名も無き町です。国境にあなたが落ちていたので私が拾いました。以上です」
本当は捨てられる現場も見ていたが、言う必要はあるまいと少女は判断した。
とりあえず、名乗るべきだろうか。
少女は自らの胸に手を当てて、名乗る。
「私はアリウム。アリウム・ガレットと申します」
名乗って彼女は少年の顔を見る。そこには諦めのようなものがあった。
この状況を受け入れてきたようにも感じられた。
「で、あなたのことですけど」
その言葉に、少年は弾かれたように顔を上げる。少女――アリウムはそんな彼を見て首を振った。
「言わなくて結構です。経緯とか興味ないので」
「……そうか」
安堵したように、少年が息をついた。
アリウムは経緯なんてどうでもいいと考えている。
正確には、『変に知ってしまったら同情しなくてはならないのが面倒』なのだが。
非情かもしれないが、こんな悲劇がそこかしこに転がっているこのご時世では、あまりそういったことを詮索しない方が身のためなのだ。無知は罪であるとはよく言うが、知らない方が良いことだってある。
そんなアリウムの心情を知る由もない少年は、少し警戒を解いたようだった。
アリウムはそんな彼を見て思った。
(この人、社会経験少なそうですね。その割には、社会の闇は知っていそうですけれど……)
しかし過去は訊かないといったアリウムでも、名前くらいは知っておきたい。呼び名がわからないのは不便であるから。
アリウムは少年に問うた。
「でも、名前くらいは最低限、教えて下さいな」
「……名前、か」
少年は一瞬、言いよどんだ。
そこで言いよどむのか、とアリウムは内心で眉をひそめた。まあ、過去に何かありそうな人物、というのはわかるが。言いたくないのだろう。しかし呼び名がわからないのは困る。
少年はしばらく考えていたようだが、やがてアリウムの顔をはっきり見て、言った。
「オレの名前はアルヴェルト。……それ以外に、名乗る名はない」
「アルヴェルト。覚えました」
名字は告げられなかったが、アリウムは言及しない。
それよりも、アリウムにはずっと気になっていたことがあったから。
「ところで。その左手、眠っていた時から今に至るまでずっと握っていましたけどどうしました?」
その言葉にはっとして、彼は握りしめていた左手を開いた。
そこにあったのは、円に十字をあしらった、アルティリッツ皇家の紋章。
レルフィオンの胸元に留められていたそれは、まぎれもない皇家の証。
大切なものなのに。立ち去る寸前、彼はアルヴェルトにこれを託した――。
「……詮索はしませんが。あなたは皇家の追放者だったりするんですか?」
「――――ッ!」
正体を言い当てられたことに警戒し、とっさに距離を置こうとしたアルヴェルト。しかし烙印を押された右肩に激痛が走り、そのままベッドから落ち床に倒れ込む。
アリウムはその様を見て、呆れるしかない。
「……取って食おうってわけじゃないんですから、恩人にその反応はないでしょう」
「……寄るな」
「さっきのは見なかったことにします。あなたはただのアルヴェルト。それで結構ですから」
アリウムはそう言って彼に一歩近づこうとしたが、睨まれた。正体が割れた瞬間にこれである。
まるで、手負いの猛獣のようだった。
アリウムは苦笑しながらも彼に言う。
「とりあえず、警戒解いてくれません? 折角拾ったんです、最後まで面倒見てやんなきゃ後味が悪い。私があなたの面倒を見るにはあなたが私を近寄らせてくれなきゃ駄目なんです。わかります?」
「……わかった、任せる」
ようやく観念し、アルヴェルトは警戒を解いた。アリウムはほうっと息をつく。
ようやく警戒を解いてくれたのならば。
まずはするべきことをしよう。
。○
それから一週間。アルヴェルトが大方回復したところで、アリウムは彼に尋ねた。
「ところえあなた、行くあてとかありますか?」
アルヴェルトは即座に首を振る。
「アルティリッツは論外だし、他の国はよく知らない。あんたは?」
「私だって何となく放浪中の身、特にありませんけれど……。そう言えばあなた、機械って使えます?」
その問いに、アルヴェルトは首をかしげる。
「使えないことはないが……。だが、アルティリッツには行けないぞ?」
「アルティリッツじゃありません。ならば、新興国家フエルヴェンの央都、ルートリアに行きませんか? そこで『研究者』登録をすれば将来安泰ですよ」
フエルヴェン。魔法と科学の入り混じった国。余所者に寛容な国。
すべてを失った自分でも、受け入れてくれるだろうか、とアルヴェルトは思う。
「そうそう。ただし『研究者』になるには、これからこれこれを発明したいから研究者になりたいっていう理由が必要ですから、道々考えておいてくださいな。ただし魔科学の発明なので、魔法だけ、もしくは科学だけ、なんて発明は即却下されるものと思って下さい」
「了解。……あんたはなぜ、そんなに詳しいんだ?」
アルヴェルトが問えば。アリウムは胸を張って答えるのだった。
「伊達に各地を放浪しているわけじゃありませんから」
冥使と虚像。似て非なる二人は。
かくして出会い、行動を共にした。
この日からすべての物語が始まる――。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
実質上、ここまでがプロローグです。メインの二人の登場です。
次から若干明るくなるかも……知れません。