コメディ・ライト小説(新)
- 【Prologue】 ( No.5 )
- 日時: 2017/10/07 16:22
- 名前: One (ID: KE0ZVzN7)
『──こちら第3部隊。プロトタイプコード11生存確認。直ちに捕らえます』
『第7部隊、プロトタイプコード15を発見。直ちに保護に入ります』
『応援要請。場所は地点コードB。目標はシングル二名』
『同時保護作戦成功、同時に六名捕らえました』
モニターに囲まれた巨大な部屋。ここは司令室。
無数の無線を一度に聞き取り、司令官と思わしき白スーツを着こなした長髪の男が指示を出す。
「第5部隊と第6部隊は地点コードBへ移動、プロトタイプを保護した部隊は保護班到着まで待機せよ。絶対に逃すな。それから──」
息つく間も無く無線が入り込み、指示が途絶える事はなかった。
モニターの前に座りコンピューターを操作している女性達も、早口に何かを呟いていた。
「プロトタイプ15のファイル転送しました」
「保護班を直ちに向かわせます。予測時間約十五分です」
「視覚アシスト展開、同時に脳波同期システムも起動しました」
モニターに映るのは、雨の中黒で統一された防御服を身に付けプロトタイプと呼ばれる謎の人物と戦う映像。
戦っているのは、防衛省の人間達。最新の科学技術により特化した戦闘服と武器で戦っている。
戦っている相手は、保護しなければならない人物達。いや、子供達。
プロトタイプ保護作戦。開始から、一時間が経過していた。
流れが変わったのは、一つの部隊からの無線だった。
『こちら第1部隊。プロトタイプ0と遭遇』
作戦開始から言葉が絶える事のなかった司令室に、初めて静寂が訪れた。
誰もが静まり返る中、司令官だけが言葉を発した。
「了解。直ちに保護せよ。あと──」
司令官の操作により、一番巨大なモニターに第1部隊周辺の景色が映し出された。
木々が茂る山の中、強風により倒れた一本の木を境目に第1部隊とプロトタイプ0は互いに見つめ合っていた。
雨で濡れた印象的な青髪が風に吹かれて奇妙な印象を与え付けているプロトタイプ0をモニター越しに睨みながら、司令官は今までの無機質な声とは違い感情を含ませて一言言った。
「死ぬなよ」
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「隊長──」
「分かってる。全員、覚悟しろ」
雨と風がうるさい中、それでも第1部隊隊長の言葉は響いた。
覚悟しろ。つまり、死ぬ覚悟をしろ。
そう隊長は言っていた。
隊員達の頭の中では、今までの人生が走馬灯の様に流れていた。
家族の事、友の事、そして愛する者の事──。
それぞれ、涙を流していた。後悔か、恐怖か、それとも怒りか。
今から死ぬ。人はこの事実を簡単には受け入れられない。死にたくない。そう思うのが普通の人間なのだから。
手に握る剣は、不安により震えた。最強だと言われている戦闘服は、恐怖で揺れていた。
そんな中、一切の迷いも見せず目の前の少年に斬りかかる男がいた。倒れた木を真っ二つに折れるほどの勢いで蹴り、勢いをつけ青髪の少年に斬りかかった。
軽々しく後方に飛び跳ねられ避けられてしまったが、その行為は決して無意味では無かった。
斬りかかった男、第1部隊隊長である島崎龍斗の一閃は、間違い無く隊員達の不安を斬り捨てた。
「怖いのは分かる。不安なのは分かる。だが、俺達は戦わなければならない。俺達の役目は、国民が笑って暮らせる世の中を過ごせる様にする事だからな」
最早隊員達に迷いは無かった。
家族、友、愛する人。守るべき人達を守る為、彼らは剣を握りなおした。
その剣には震えは無く、彼らの象徴である黒い戦闘服に揺らぎは一切見えなかった。
「死ぬ覚悟で挑め。だが、出来れば死ぬな。生きて──また飲みに行こうぜ」
第1部隊、プロトタイプ0と戦闘開始。
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また、同じ事の繰り返し。
少年は自分を目掛け斬りかかってくる男達を見てそう感じた。
この世界は自分達を悪だと決め付け、排除する事で平和が訪れると思っている。
今までだってそうだった。言う事を聞かなければお仕置きされ、酷い時には殺される友だっていた。
自分達が何をしたと言うのか。何があってこんな仕打ちを受けなければいけないのか。
「……こんな風にしたのはお前らのくせに……」
一瞬。ほんの一瞬で、斬りかかった男達は少年の目の前から消えた。
少年はただ手を振っただけ。その動作だけで、男達は消えた。
監禁され、言われるがままに食い勉強し寝て、それを繰り返す。そして、力を植え付けられ、訓練させられる。
監禁していた人物達は自分達の事を怪物と呼び接した。自分達が生み出したくせにだ。
苦しかった。悔しかった。怖かった。嫌だった。
そんな感情が爆発し、遂に少年達は脱走した。自分達の力で、監禁していた人物達を殺し、逃げてきた。
それなのに。ようやく外の世界に帰ってこれたと思ったら今度は自分達を平和を脅かす驚異として捕まえようとする人物達が現れた。
もうどうしようも無かった。仲間達は次々と倒されていき、捕まっていった。
逃げる為に、見捨てるしか無かった。
生きる為に、助けなかった。
でももう無理だった。これ以上仲間達を見捨てて逃げる事なんて出来ない。この山にいる黒い男達を全員倒して、捕まった仲間達も全員助けて、もう一度みんなで逃げるしか思いつかなかった。
だからこうやって自ら男達の前に姿を現した。
予想通り男達は自分を見て怖がった。殺される。そう思ったに違いない。
でもいきなり斬りかかってきた男は違った。その目には、恐怖なんて無かった。生きようとする希望しか無かった。
分からなくなっていた、自分の中で。
本当に自分達のしていることは正しいのか。それすらも、分からなくなった。
だから今はぶつけようのない気持ちを、目の前にいる《敵》にぶつけるしかない。
「俺達は普通に生きたいだけなのに……!」
少年は、戦う。
◾️◾️◾️◾️◾️
「第1部隊交戦開始!直ちにサポートに入ります!」
「手の空いている部隊も現地に向かわせます!」
司令室は再び言葉が飛び交っていた。
最恐のプロトタイプ0の出現。だが、怖がっていては何も始まらない。
オペレーター達は、仕事を全うしていた。
その時。モニターに、衝撃の映像が映った。
「…………!」
司令官も、驚きを隠せないでいた。
プロトタイプ0が手を振りかざしただけで、第1部隊の半分が消えた。
斬りかかった六人を、一気に消した。いや、殺した。
これがプロトタイプ。これがプロトタイプ0。
防衛省とは違う、別の科学の使い方をして生まれた戦闘兵器。
プロトタイプが研究所から一斉に抜け出した報せは、防衛省にもすぐ伝わった。プロトタイプ開発の研究は、近年新しく出来た科学研究省が一任されているプロジェクトだからだ。
政府は、プロトタイプの保護を科学研究省の次に最新科学を駆使している防衛省に一任した。
プロトタイプ開発は謎に包まれているプロジェクト。防衛省もその全容は把握していない。
だが、作戦を立てる中で気付いた事実が一つある。
プロトタイプを放してはいけない、と。
渡されたデータには、プロトタイプの能力が書かれていた。
どのプロトタイプも恐るべき能力ばかりだった。
だが、最も恐るべきは、プロトタイプ0の能力だった。
「……《元素崩壊》……」
◾️◾️◾️◾️◾️
【防衛省大臣より内閣総理大臣へ報告】
【殆どのプロトタイプを保護する事に成功。しかし、七名のプロトタイプが逃走】
【被害状況が甚大な為作戦続行不可能。直ちに自衛隊を各地に配置して下さい】
【保護作戦の指揮権を返上します。報告は以上です】
◾️◾️◾️◾️◾️
前を見ると、街が広がっていた。
朝日が昇り始め、幻想的な雰囲気を感じさせた。
今まで見れなかった景色。本当はみんなと見たかった景色。
ボロボロになった格好で、青髪の少年・シキは街の景色を眺めながら呟いた。
「どうすれば良いんだよ……俺……」
◾️◾️◾️◾️◾️
第1部隊部隊隊長の島崎龍斗は、傷の手当てを受けながら悔やんでいた。
自分以外、全員死んだ。
助けられなかった。
島崎は、小さな声で、しかし確かに呟いた。
「絶対に仇は取ってやる…………」
◾️◾️◾️◾️◾️
そして物語は幕を開ける。
誰の物語かは分からない。だが、これだけは断言できる。
この物語に、主人公なんていない。
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