コメディ・ライト小説(新)
- Re: 初恋は夕陽色。 ( No.14 )
- 日時: 2017/10/10 12:43
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
第5話:体験。
この一日、休み時間は私と皆川の話題で持ちきりだった。男女から質問攻めされて冷やかされてそのたびに私が凄んで。そして落ち着いたと思ったら懲りずに冷やかしてきて…。どっと疲れた1日だった。
それなのに、また部活がある。今日は1年生の体験。普段の部活より甘いからラッキーだけど。
――体育館には1年生が十数人いた。私はとりあえずその1年生たちに頭を下げてから部活の準備に取りかかる。
「今日は1年生に試合を見てもらうから!チームは私が勝手に分けたから、それで1年生に試合見せてあげてー!」
顧問の明るい声に私たちははい、と返事しチームに分かれる。
「あ、同じチームね。よろしく、琉香さん」
分かれた後に声を掛けてくれたのは九条鞠亜――通称、鞠。彼女は一言で表すならお嬢様だ。見た目も話し方も性格も。お嬢様って勝手な偏見で運動出来なさそうって思うかもしれないけれど、彼女の上手さはこのバスケ部の中でもトップを誇るくらい。
「よろしく、鞠…」
こういういかにも女子っぽい子に、心の中で嫉妬してしまうのを直したい…。
○*
「「「よろしくお願いします!!」」」
1年生が体育座りで見守る中、5対5の真剣勝負が始まった。ジャンプボールの結果、私たちの方から攻撃が始まる。私より数㎝背の高い先輩が放ったボールを私が受け取ってゴール付近まで走った。
私が得意とするのはシュートだ。とりあえず今のこの色々な人に囲まれた状況では入るはずもなく、後ろにいた鞠にボールを渡す。同時に「もう一度ボールまわして」と人差し指で合図をする。ちなみにこれは私が皆に言った、私たちのチームにしか分からない合図だ。
相手チームの警戒が鞠の方へ映っている間にシュートポイントへ行く。リングの正面に行ったら気付かれるかもしれないから真横へ。実は正面より真横の方が私はよく決められる。
「琉香さんっ!」
鞠がそう叫びながらワンバウンドでパスを送ってくれた。丁度私に対する警戒がだいぶ薄れたときに。鞠が名前を呼んだことで一気に2人くらいが私の方に走ってくるが、パスしたボールが私に届く方が速かった。
私は軽くジャンプしてバックボードめがけてシュートを放つ。上手い具合に斜めに当たり、そのままボールは吸い込まれるようにゴールへと入っていった。
「よし!」
――私が叫んだその時、隣のコートでプレーしている…皆川と視線があったような気がした。
- Re: 初恋は夕陽色。 ( No.15 )
- 日時: 2017/10/14 22:53
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
第6話:気になり始めて。
「皆川、もしかして私のこと見てた?」
「―――えっ!!?」
あ、この驚きよう。単純にからかってみただけだけれど、確信持って良いんだよね…。
帰り道、突然そう言った私も何だか可笑しいけれど皆川の分かりやすい驚き方も可笑しい。
「……ごめん、集中できなかった?」
「いやそうじゃないから」
「……?」
変なところで鈍感な彼に呆れていると。
「琉香ちゃーん!たち!待ってー!」
ついでに付けられたような「たち」という言葉に皆川がずっこけそうになったのはさておき。この声はかなだ。……と、背の高い男の子が一緒。
「ふはぁ~…付き合ってるっていうの、本当なんだねぇ~」
「……別に、私の勝手でしょ…」
夕陽でよく分からなかったが近くまで来ると一緒にいた男の子は――瀬戸樹だ。班が同じの。
かなは私のことでいじりを掛けてくるんだけれど、十分かなと瀬戸も……。
正直こういうところでかなにはため息をつきたくなるところがある。
「てか樹、美術部って今日休みじゃなかったっけ?」
「……居残り」
「なんで?」
「数学のテスト」
瀬戸は無口というか、言葉を最後まで言わないというか。おそらく「数学のテストで分からなかったところを先生に聞きに行っていた」などの説明のはずなのに、たったの8文字で済ませるという燃費が良さそうで案外悪そうな子。
これはこれで個性的で、話すのは難しいけれど見ているのは面白い。
「啓太は?」
「俺に聞くな」
特にこの、性格が正反対な二人を見ているのが。
人の感じ方はそれぞれで、かなは別の方向を向いているし皆川も瀬戸も面白い会話をしようと思っているわけではない。なのに面白く感じるのは私の感性が周りと違うからだろうか。
「啓太くんの入ってるバレー部って強豪だからねー…練習長引いてるんだと思うよ?」
啓太くん、という言葉を聞いて瀬戸の眉がピクリと動いたような気がした。全く悪気なくかなは男子を名前で呼ぶものだから、時々瀬戸が可哀想になることがある…。
「……樹くん?」
「………」
「かな…瀬戸にも色々あるのよ、察してあげて」
「えー……?」
かなは全く分かっていない様子だ。人の恋バナより自分の恋バナに気を配ったらいいのにといつも思う。かなも瀬戸も、お互いが可哀想だから。
まあ面白いからそっとしておく私もだめだと思うんだけれど。
「……皆川!今日違う道で帰ろ」
「え?なんで―――」
「察せぇ!」
かなと瀬戸を二人きりにさせたいという思いもあるけれど、ただ単に皆川と帰ってみたいという気持ちもある。修学旅行のことについて話そうかな――。
- Re: 初恋は夕陽色。 ( No.16 )
- 日時: 2017/10/14 22:52
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
※かなsideです。
第7話:あまりにも伝わらなさすぎて。
「……微笑ましいねぇ」
私は呟く。琉香ちゃんがよく分からないけれど「察せぇ!」と叫んで翔くんを引っ張っていった様子を見て。付き合いたてのカップルってピュアでいいよね…。
翔くんは完全に琉香ちゃんに惚れている。琉香ちゃんも何だの言いながら満更でもないようだ。別に嫌そうな顔をしているわけでもないし、絶対あれは気になり始めている。琉香ちゃんは二つ返事でokしてみた、何となく気になったから……と言ってたけれど、これで気になり始めたことは確信が持てた。
「……」
「樹くん冷たいなぁ…。あれを見たらにやける以外に何もできないよ~」
「………」
樹くんに恋バナは全く通じない。面白いほど。
普通にやけたり冷やかしたりするはずなのに……。これだけ動じないのは何かの才能だと思う。
「……お前は吉沢が俺らを2人にさせてくれた意味が分からないのか?」
「へ?琉香ちゃんがなに?」
「……別にいい」
何だかよく分からないけれど樹くんは鼻をふんっと鳴らしてそれっきり何も喋ってくれなかった。彼のことは嫌いな訳じゃないし、良い友達と思って居るんだけど……たまに何を考えているのか分からない。琉香ちゃんにもよく言われるけれど私が鈍感だからだろうか…。けれど鈍感と言っても、そんなもの直しようもないし。
しばらくの沈黙に耐えきれなくなって、私から口を開く。
「ねぇ、樹くんって好きな人居るー?」
「……なんで」
「別に?樹くんの恋バナって聞かないからさぁ、今聞いておいた方が得でしょ?」
私がそう言うと癪に障ったのか――「ない」と2文字だけ言った後で急に歩くスピードを速めた。何かやばいこと言っちゃったかな。彼は機嫌が悪いと話しかけただけで怒られるから、私は彼の背中を見送った――。
「――なんで分からないんだよ…」
彼が角を曲がるときにそう言ったとも知らずに。