コメディ・ライト小説(新)
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.151 )
- 日時: 2018/02/18 05:07
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 4mXaqJWJ)
89話「消えない不安」
私が案内されたのは、二階の一室だった。事務所のリビングと同じくらいの広さはある、広々とした部屋だ。
直径一メートル程度のテーブルが一つ、背もたれのついた小さめの椅子が三つ。ちょこんと置いてある。そして、壁にはモニターが十個ほど設置されている。やや大きめのものが一つ、他はすべて小さめだ。
「おや、もう着いたのかい?意外と早かったねぇ」
そこにいたのは——吹蓮だった。
宰次はさらりと「道が空いてましてな」と返す。彼の顔には驚きなど微塵もなく、それどころか微笑みが浮かんでいる。警戒している様子はない。ということは、彼は吹蓮と知り合いなのだろう。
鞄は没収され、携帯電話は手元にない。仮にエリミナーレが助けに来てくれるとしても、まだずっと先だろう。
これから私はどうなるのだろう。そう考えていると、急激に不安が込み上げてくる。不安と戦い続けるのは嫌なので、私は考えることを止めた。
「沙羅さん、こちらへどうぞ」
宰次の口調は優しく丁寧だ。しかし、行動は真逆である。私がもたついていると、彼は私の体を無理矢理引っ張り、力ずくで椅子に座らせる。かなり乱暴だった。
「しばらく大人しくしておいてもらえますかな?すぐに美味しい物を持ってきますから」
美味しい物、なんて呑気に言っている場合ではない。聞きたいことが山のようにある。だが宰次は、私が問いを述べる前に、そそくさと出ていってしまった。
吹蓮と二人きりになる。
「……どうしてここに吹蓮さんが」
私は椅子に座ったまま、勇気を出して吹蓮に目をやる。視線が合った。これ以上はないほど、ばっちりと。目が合い、彼女はほんの一瞬口元に笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻る。
「畠山宰次に呼び出されてねぇ」
しわがれた低い声だった。
「吹蓮さんにエリミナーレ殲滅を依頼した人。それは宰次さんなんですか?」
「……そうだねぇ。その通り、だよ」
「今日は答えてくれるんですね。昨日は言わなかったのに」
吹蓮がいつ何を仕掛けてくるかは予想できない。まだ知られていない術を使ってくる可能性もある。だから私は、こうして言葉を交わす間も、常に警戒を怠らないように心がけていた。私は素人だ、警戒していても無意味かもしれない。だが、油断しているよりはましなはずである。
「天月さんだけには言ってもいいらしくてねぇ」
「どうして私だけ……」
「なんでも、父親にお世話になっているかららしいよ。あたしゃよく知らんがね」
私だって知らない。
新日本銀行に勤めている平凡な社会人である父が、宰次と一体どのような関係だというのか。考えれば考えるほど分からなくなり、頭が混乱する。
……ひとまず、考えるのは止めよう。
そうこうしているうちに、宰次が部屋に戻ってきた。その手には、ドーナツのイラストが描かれた箱。中年男性である彼には似合わない、非常にポップな色合いの箱である。
「ドーナツです。沙羅さんはどれがお好きですかな?色々ありますよ。ふふ」
彼は箱をテーブルに置き、速やかに開けた。
箱の中には色とりどりのドーナツ。茶に黒、黄や緑や水色——まるでお花畑のようである。とにかく色鮮やかで美味しそうだ。
お腹が空いてきているからか、食らいつきたい衝動が込み上げる。目の前にある甘いふかふかを食べれば、捕らわれているストレスもいくらか軽減されることだろう。
「沙羅さん、どれでもお好きな物をどうぞ」
宰次は微笑みつつドーナツを勧めてきた。
私は恐る恐る箱に手を伸ばし、黄色いドーナツを掴む。手に取ると、ますます美味しそうに見える。かぶり付きたくて仕方ない。けれど私は我慢して、先に尋ねる。
「もしかして、毒入りとかですか?」
すると宰次は、まさか、というように呆れ笑いした。首を左右に動かしている。
嘘かもしれない。本当は毒入りという可能性も十分にある。
けれども——そうだったらそうだったで、その時は諦めることにした。空腹時にドーナツを目にしながら食べずに我慢するなど、どう考えても不可能だ。甘いものやドーナツが極めて好きなわけではない。だが、今は無性に食べたい気分だ。食べてしまおう。
私は思いきってドーナツを口にした。舌に蜜の味が触れる。それから一気に口腔内が甘く染まった。脳が疲れているせいか、普段よりも甘さを強く感じる。美味しい。こんな風に語彙が乏しくなるほど良い味だ。
「お味はいかがですかな?」
「美味しいです」
純粋に美味しいと思った。これはもう、それ以外答えようがない。
「ふふ。お気に召したのなら何よりですな」
もしこれに毒が入っていて、これを食べたことによって死ぬなら、それで構わない。今はそんな風に思える。もちろん死にたくはないが。
「けばけばしい色だが、本当に美味しいならあたしも食べてみたいねぇ」
吹蓮もドーナツに興味を持っているようだ。おかしな術を使う人間離れした彼女だが、やはり心は人間だということか。
「では沙羅さん」
ドーナツを頬張り癒やされていると、宰次が口を開いた。
「美味しいドーナツを楽しみつつ、仲間が殺られるところをご鑑賞なさって下さいな」
静かでありながら鋭い彼の言葉によって、一気に現実へ引き戻された。甘い幸福に浸っている場合ではない、と思い出す。
「やっぱり、殺るつもりなんですか?」
「ふふ。それはもちろん」
彼の目は本気だった。
私はもうしばらく生きていられることだろう。しかし、敢えて生かされているのかもしれない。存在価値がなくなった瞬間始末されるということも大いに考えられる。
そんなことだから、不安はやはり消えない。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.152 )
- 日時: 2018/02/19 16:18
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: zT2VMAiJ)
90話「あり得ぬ幻」
この部屋に来てからどのくらいの時間が経っただろうか。
近くには敵がいる。それに対して、味方は一人もいない。そのような厳しい状況に置かれているせいか、一分一秒がいつになく長く感じられる。一寸先は闇、ではないが、数秒後に何が起こっているか分からない。ほんの数秒後、私が無事かどうかもはっきりしない。そんな状況下では、どうしても時の流れを遅く感じてしまうものである。
室内に時計はない。私は腕時計をしていないので、時間を確認することは不可能だ。日頃はちっとも気にならないのだが、視界の範囲内に時を計るものがないというのは、どうも落ち着かない。心が波立ってしまう。
私は黄色いドーナツをじっくり味わいつつ完食した。口の中はまだ甘い。舌や頬がとろけそうなくらいに。
——そして、ちょうど私が最後の一口を飲み込んだ時。
唐突に男性が現れた。車で縄を扱っていた男性とは、似ているが違う人である。
「宰次さん!エリミナーレの武田が一人で現れました!」
まさか武田が一人で来るとは。
予想外のことに戸惑いつつも、私は徐々に元気を出す。助かるかもしれない、という希望が見えてきた。小さくとも淡くとも、希望は希望。
どうやら、諦めるにはまだ早そうだ。
「一人?」
「はい。彼一人です」
「単身で突っ込んでくるとは……ふふ、面白いですな」
宰次の口角が片側だけ持ち上がる。
「まずは、彼らを使って、例の部屋まで誘導して。まずは一人目、そこで僕が叩き潰してやりますな」
「分かりました。例の部屋へ誘導します」
男性は軽く礼をして、速やかに部屋を出ていく。宰次は吹蓮に「見張りは頼みますな」とだけ言い、男性に続いて部屋から去った。
またしても吹蓮と二人きりになってしまう。何も仕掛けてきていない時でも、吹蓮のただならぬオーラには圧倒される。肺を圧迫されるような、得体の知れない感覚に襲われるのである。
その瞬間、壁に張り付いたモニターがすべてついた。防犯カメラのような映像が映しだされる。
「ここからが見物だねぇ」
愉快そうな声で述べる吹蓮。
「見物?どういう意味ですか」
「いやいや、それはお楽しみ。今言ってしまったら楽しみが減ってしまうからねぇ……」
希望と共に込み上げる不安。それは、私が傷つけられるよりも、ずっと怖いこと。
けれど、こんなくらいでくよくよしているわけにはいかない。
戦闘能力は皆無で、体も頑丈でないし、特別な才能もほとんどない。けれど、せめて心だけは強くあろうと思う。弱くても情けなくても、それでもエリミナーレの一員なのだから。
それから数分。
一番大きなモニターから、対峙する武田と宰次の映像が流れてくる。
『武田くん。一人で来るとは、さすがに驚きましたな。そこまで無鉄砲な男とは思っていなかったもので』
『何とでも言え。私は沙羅を取り返しに来ただけだ』
武田が宰次に対し敬語でないことに気づき、少し驚いた。敵と認定したということだろうか。
『よく一人でここまでたどり着けたものですな。瑞穂の弟子というだけのことはある』
『今は関係のないことだ』
『瑞穂の話は嫌ですかな?ふふ。では止めておくこととしましょう』
飄々とした態度で話す宰次と、真剣な低い声を放つ武田。二人の様子は対照的だ。
次は武田の方から切り出す。
『約束通り来ただろう。すぐに沙羅を返せ』
命令口調の、強い言い方だ。
声色こそ静かだが、彼の奥底に燃えるものがあることに、私はすぐに気がついた。
『残念ながら、それは不可能ですな』
宰次はキッパリと返す。
物腰は柔らかいのにたまにはっきりと物を言うところが、宰次の不思議さを高めている。もっとも、このはっきりした方が宰次の本性なのだろうが。
『渡す気はない、ということか。ならば力ずくで取り返すまでだ』
『いや。それは違いますな』
返ってきた発言に、眉をひそめ怪訝な顔をする武田。
『沙羅さんはね、もうこの世におられないのですよ』
私は思わず「ええっ」と漏らしてしまった。
いきなりなんという恐ろしいことを言い出すのか。私は間違いなく生きているのに。勝手に亡くなったことにしないでほしい。
『……嘘を言うな』
武田は静かな表情を保ちながら述べる。宰次の発言は嘘——それには武田も気づいているようだ。
『嘘偽りはありません。なんなら証拠を見せて差し上げますが?』
『本当に証拠があるなら見せてみるといい』
『見せなくては納得してもらえぬようですな。……では仕方ない』
宰次が指をパチンと鳴らす。すると、二人の屈強そうな男性が現れた。その手には風呂敷に包まれた何か。中身は一体何なのだろう。
私の物で彼らが持っているのは、鞄くらいしかない。鞄では私が死んだ証拠にはならないはずだ。
『武田くん。これを見れば、さすがに、沙羅さんの死を受け入れるしかないですな。ふふ』
愉快そうに笑う宰次。
それにしても、生きていないことにされるのは複雑な心境だ。直接害が及ぶわけではないのだが、どうも嬉しくはない。
屈強そうな男性は、ゆっくりと風呂敷を広げる。その中には——何も入っていなかった。拍子抜けだ、まさか空だなんて。
しかし武田は、目を見開き、愕然としていた。
『っ!馬鹿な!』
顔は強張り、声は震えている。かなり動揺しているのが容易く分かる状態だ。
彼は一体何を見たというのか。
「何もないのに……」
モニターを凝視しながら半ば無意識に呟いていた。状況がまったく理解できないのである。
すると、それを聞いていた吹蓮が、口を動かす。
「天月さんの首が見えるようになっているんだよ。あたしの術でねぇ」
く、首!?
人を何だと思っているのだろう……。
「どうしてそんなことを……」
「畠山宰次に頼まれたからだよ」
「頼まれたからって、そんな残酷なこと!酷いです!」
すると吹蓮は、こちらをギロリと睨み、「世の中そういうものだよ」と言ってきた。あまりに冷ややかな声だったので、背筋が凍りつく。小心者の私は何も言い返せない。
モニターに視線を戻す。
愕然として固まっている武田と、そんな彼の顔をニヤニヤしながら覗き込む宰次が、しっかりと映っている。図書館の書庫での時と同じように、宰次は武田へ接近していた。
『信じてくれましたかな?武田くん。これは間違いなく、沙羅さんでしょう?』
『……いや、あり得ない。こんなことはあり得ない!』
嫌らしい笑みを浮かべつつ接近している宰次を、武田は強く突き飛ばす。そして、重心を下げる。
『こんな残酷な嘘をつくとは……許せん!』
武田は鋭く叫んだ。
今までに見たことがないくらい、激しく荒々しい声だ。
『ふふ、強がりは要りませんな。本当は分かっているのでしょう?』
突き飛ばされたにもかかわらず、宰次はニヤニヤ笑っている。挑発するような笑みである。
『沙羅さんはもういないということを。……ふふ』
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.153 )
- 日時: 2018/02/21 05:28
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: OSKsdtHY)
91話「激突は嵐のように」
モニター越しに見える武田は、いつになく恐ろしい表情をしていた。目の前にいる者を——いや、この世そのものを、憎しみ恨むような、そんな表情だ。
それに加え、全身からは、目にするだけでゾッとするような雰囲気が溢れ出ている。
『やる気は満々のようですな。まぁその方がいい。やる気になってもらえる方が、気兼ねなく倒せま——』
言い終わるより早く、ドンッ、と低音が鳴った。
素早く宰次に接近した武田が蹴りを放ったのだ。もちろん宰次は反応し、腕で器用に防いでいる。半ば受け流すような防ぎ方なのでダメージはないだろう。しかし、その顔から余裕の笑みは消えていた。
『防いだか』
ぽそりと呟き、一旦距離をとる武田。
声の調子こそ静かだが、その表情はまだ恐ろしいものをまとっている。本当に宰次を殺すつもりなのではないか。そんな風に思ってしまうような凄まじい迫力は、画面越しでも存分に伝わってくる。
武田が人間離れした顔つきをしているのを見ると、不安になるとともに少し辛い。なぜか胸が締めつけられるような感覚に襲われる。彼が人間らしからぬ表情をしているからかもしれない。
ぎこちなくも暖かな、日溜まりのような微笑み。あれを二度と見られないのではないかと思うと、切なさが込み上げてくる。
『このくらい防げますよ、当然ですな。ただ、僕は野蛮な戦いがあまり好きでないのでね』
先ほど風呂敷を持ってきた屈強そうな男性二人に、武田と戦うよう命じる宰次。屈強そうな男性は宰次の命に従い、その体を武田の方へと向ける。
開戦前夜のような静けさ。
まるでその場にいるかのように、生々しく感じられる。
「……武田さん」
私は思わず、小さく漏らしていた。
込み上げる不安のせいだろうか、何か声を発していないと落ち着かない。自然に声が出ていたのは、恐らくそのせいだと思われる。無意識に心を落ち着かせようとしていたのだろう。
「どうか傷つかないで……」
祈るように呟く。
端から見れば私はおかしな人かもしれない。痛々しい、と馬鹿にされ笑われてもおかしくないことをしている。その自覚はある。だが、今は他人の目など気にならない。武田の無事の方が重要だから。
武田は強い。いつだって彼は強かった。一度戦いに踏み込めば決して逃げることはなかったし、怪我をしても一日も経てばけろりとしていた。ちょっとやそっとでは死にそうにない。
——だが、そんな彼だからこそ心配なのだ。力尽きるまで戦い続けそうだから。
「いよいよ始まったねぇ」
吹蓮の愉快そうな声が耳に入り、私は正気に戻った。不安について考えるあまり現実から意識が離れてしまっていたようだ。
「天月さんは幸せだねぇ。大切な人の最期の戦いを、こんな贅沢に眺められるんだからねぇ」
「最期なんて言わないで下さい!そんな不吉なこと!」
なぜだろう。今は吹蓮への恐怖を感じない。それもあってか、日頃より強い調子で言葉を放つことができた。
言い終わってから「やってしまった」と少しばかり焦る。だが、吹蓮は怒っていなかった。むしろ、どこか楽しそうな顔つきをしている。「今の彼が勝てるとは思えないがねぇ……」などと言いながら。
私はすぐにモニターへ視線を戻す。そこには、武田が二人の男性と戦う様子が、鮮明に映っていた。
男性たちは拳銃を持っていたらしく、その銃口を武田に向けている。しかしそんなものに恐れを抱く武田ではない。
武田は片方の男性に接近する。いきなり近づかれたことに動揺する男性。その隙を武田は見逃さない。男性の手首をガッと掴み、発砲する暇も与えず放り投げた。そして、その体が地面に落ちる瞬間に蹴り飛ばす。武田の蹴りは相変わらず鋭かった。
まずは一人。さらりと仕留めた武田は、もう片方の男性へ視線を向けつつ、自分への合図のように呟く。
『次』
刃のような視線を向けられた男性は、屈強そうな容姿に似合わず青い顔をしていた。身長はそれなりに高く、体つきもしっかりしていて、顔面は勇ましい。そんな厳つい男性だけに、青ざめているのがよく目立つ。
しかし、彼が青くなるのも分からないことはない。仲間が目の前で軽く倒されたのだから。
『くっ、来るなっ!』
青い顔をした男性は、化け物を見るような目で武田を見ながら、何度も発砲する。だがまったく命中しない。弾丸は的外れなところに飛んでいくばかりだ。
冷静さを失った人間など、もはや武田の敵ではない。
武田は男性の手首を捻り、慣れた手つきで拳銃をもぎ取る。そして、背負い投げのように男性を投げた。柔道なんかで時折見かけるような綺麗な決まり方ではない。しかし、それゆえに痛そうでもあった。
突如投げられた男性は、次の攻撃を恐れてか、よろけながらも急いで立ち上がる。
直後、そんな男性の腹に武田のお得意である回し蹴りがきまる。見た感じ屈強そうだが、実際に屈強ではないらしく、男性は激しく咳き込む。その顔面に、武田の蹴りがさらに入った。
顔面に強い衝撃を受け、男性は失神する。
「やった!」
モニターで様子を見ていた私は、思わず小さくガッツポーズをした。吹蓮が近くにいることをうっかり忘れていたから、こんなことができたのだろう。だが……少し恥ずかしい。
『やりますな、武田くん。ふふ』
『沙羅は返してもらう』
『返すのは無理ですな。残念ながら、沙羅さんはもう存在しませんので』
ニヤニヤしながら武田に歩み寄っていく宰次は非常に不気味だ。
そもそも宰次はミステリアスすぎる。笑っていたかと思えば突然真顔になったり、離れていたかと思えば近づいてきたり。思考パターンがまったく理解できない。
『それにしても、今日は迫力が違いますな。大切な人を失ったから……ですかな?』
『失ってなどいない!』
下から顔を覗き込まれた武田は、一歩後ろへ下がり、鋭く叫んだ。
『それはあくまで希望、でしょう?いい加減現実を認め』
『あり得ない!沙羅がいなくなるわけがないだろう!』
武田は宰次がすべて言い終わるのを待たない。
『怖いから、と真実から目を逸らすのはよくありませんな。ふふ。証拠も見せたでしょう』
『あんなもの、たちの悪い冗談に決まっている!』
武田は、なにもかもを振り払うように叫び、宰次の襟を掴む。先ほどまでの冷静さはない。珍しくかなり感情的になっている。
対する宰次は、不思議なくらい落ち着いた顔。
『あんなもの、嘘だ!』
『そうかもしれませんな。ただ、いずれにせよ……』
一旦そこで言葉を切り、口角をニヤリと上げる宰次。
『取り乱すのはいけませんな』
——刹那。
パァン、という乾いた破裂音が空気を揺らす。
『……っ』
武田は掴んでいた宰次を離し、よろけるように数歩下がった。膝を半分くらい曲げ、左足の付け根辺りを手で押さえている。
『撃った……のか』
顔をしかめ唇を微かに震わせながらも、声を発する武田。
『その通り。利口ですな』
宰次の手にはいつの間にか拳銃が持たれていた。
まったく気づかなかった……。
『利口な武田くんの方が好みなのでね。目を覚ましてくれて良かった』
痛みに耐えているのだろう。武田は中腰のまま、歯を食い縛りじっとしている。声こそ出さないものの、顔は苦痛に歪み、息は荒れていた。
そんな武田の眉間に銃口を突きつける宰次。
『では、そのまま利口にしていてもらえますかな?……ご安心を。苦しませずに終わらせてあげますからな。ふふ』
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.154 )
- 日時: 2018/02/22 04:25
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: sjVsaouH)
92話「よく分からないけど、分かったよ」
「武田さんっ……」
私は彼の名を呼んだ。届くわけがないのに。無意味であることは分かっているのに——。
眉間に銃口を突きつけられた武田は、慌てることなくゆっくりと顔を上げる。そして、切り刻むような鋭い眼差しを宰次へと向けた。
『そんなもので脅せると思うか』
『まさか。武田くんを止められるとは思っていませんよ。ただ、隙を作ることくらいはできるやもしれませんな』
言い終わるや否や、彼は空いている方の手で武田の右手首を掴む。素人の目には捉えられないような速度だった。武田でも対応できない速度とは、なかなかである。
宰次はそのまま、掴んだ手首をねじ曲げた。本来曲がらぬ方向へと、ぐいぐい捻る。
『何を……』
『足の次は手。それが相場でしょう?ふふ』
ふふ、という笑い方が余裕ありげで嫌らしい。
『最後くらい素直であっていただきたいものですな』
『断る』
『では仕方ありませんな』
宰次は手を手首から腕へと移す。そして、肘をあらぬ方向に曲げた。軋むような痛々しい音が小さく聞こえる。あまり聞きたくない音だ。
武田は肩から腕を動かし、振り解こうと試みる。だが、宰次の握力は案外強いらしく、びくともしない。
直前と変わったことといえば、宰次の顔に不愉快の色が混じったことくらいだろうか。
『無駄な抵抗をする愚か者は、好きではありませんよ』
面白くなさそうに言いながら、武田の背に膝を突き立てる宰次。
『……っ』
武田は目を細め、掠れた息のような声を漏らす。彼にしてはきつそうだ。
宰次は、身長はさほど高くなく、力もたいして強くなさそうだ。だからこそ、少しの力でダメージを与えられる膝を選んだのだろう。
エリナの膝蹴りほどの威力はないだろうが、それでも不安は拭えない。心配だ。
「いいねぇ。面白いねぇ。ここからどうなることやら」
武田の身を案じる私のすぐ横で、吹蓮が愉快そうに笑い出す。人が不安と戦っている時に……!と、少々腹が立った。けれども、その苛立ちを吹蓮に直接ぶつけるほどの勇気はない。
「私はいつまでここにいなくてはならないのですか?」
苛立ちは飲み込み、気持ちを切り替えて吹蓮に尋ねてみる。彼女なら宰次から何か聞いているに違いない。
「そんなこと、あたしに聞いて信用できるのかい」
「分かりません。でも、貴女の言い方によっては信じられるかも……」
「おかしな娘だねぇ、天月さんは」
言いながら吹蓮はこちらに手をかざした。
事務所のリビングでの光景が鮮明に蘇る。まずい、と思う——が時既に遅し。衝撃波のようなものに体が突き飛ばされる。
今まで体感したことのないような速度で体が吹き飛ばされていく。そして、扉近くの壁に激突した。
「……あ」
それ以上声を発することはできなかった。
背中全体に走る激しい痛み。それのせいで何も考えられない。考えようとしても、痛みにすべてを掻き消されてしまう。
床に座り込んだまま身を縮め、ただひたすら痛みに耐える。今の私にできるのはそれしかない。
「天月さんはすぐに油断するから可愛いねぇ」
吹蓮がこちらへ迫ってくる。
逃げないと。そう思うが動けない。駄目だ、このままでは何をされるか。だが、私の力では吹蓮には敵わない。
混乱して涙が込み上げてきた。
そのうちに吹蓮に首を掴まれる。彼女はもう片方の手を、私の頬へあてがう。
「よくもうちの娘たちを傷つけてくれたね。仕返しにアンタの顔も傷物に……」
諦めかけた——刹那。
扉が勢いよくバァンと開いた。視界の端に人影が入る。
「「沙羅ちゃん!」」
私の名を呼ぶ声は、よく聞いたことのある声だった。いつも近くで聞いていた声。
そう、レイとナギの声だ。
部屋へ入ってきた二人の姿を目にし、吹蓮のしわだらけの顔が驚きに満ちていく。彼女はゴミをポイ捨てするかのように、私を地面に落とした。
「沙羅ちゃん!大丈夫!?」
青い髪を揺らしながらレイが速やかにこちらへ来る。私を見つめる彼女の瞳は、不安げに揺れていた。
「れ、レイさん……」
「怪我は!?」
「あ、ありません……」
凄まじい勢いに少々圧倒されながらも、必要最低限の言葉を返す。
その間、ナギは拳銃の銃口を、吹蓮へ向けていた。引き金に指をかけている。いつでも撃てるという状態になっているようだ。
「良かった。本当に良かった。無事でいてくれてありがとう」
「あ、いえ……」
捕まったのは私だ。私はまたみんなに迷惑をかけてしまった。それなのにレイは「ありがとう」なんて言う。意味がよく分からない。
「それじゃあ沙羅ちゃん。こんなところはもう出よう」
「は、はい。……あ!でも武田さんが……」
私としたことが忘れかけていた。しかし、一度思い出すと気になってくる。
「大丈夫。武田のところにはエリナさんが行ってるから」
それを聞き、ほっとした。
けれど、それと同時にほんの少し胸が痛くなる。
エリナに助けてもらったら、武田は彼女をより慕うようになるかもしれない。無力で護らなければならない私より、助けてくれて頼りになるエリナを選ぶかもしれない……と思うからだ。
この期に及んでそんなことを考えている私は馬鹿だ。でも、考えてしまうものはどうしようもない。脳に湧いてくるものは消しようがないのである。
……だが、今は止めよう。こんなことで悶々としている暇はない。
「沙羅ちゃん、何か言いたいことがあるの?」
レイは私の心を察したように尋ねてきた。
「……武田さんに、会いたくて……」
「武田に?」
「お礼と、私が生きてるということを、直接伝えたいんです」
恐らくエリナが伝えていることだろうが、もしかしたら伝わっていないかもしれない。それに、武田も、私を見て確かめる方が良いだろう。
「だから……武田さんのところへ行きたいです……」
言いたいことを正確に伝えるには言葉が足りていないかもしれない。私は肝心な時に上手く話せなくなる。だから今も、「結局何が言いたいの?」と首を傾げられるかもしれない。
そう思っていたが、レイは強く頷いてくれた。
「よく分からないけど、分かったよ。沙羅ちゃんは武田に会いたいんだね」
歯切れのよいさっぱりとした口調で言いながら、ニコッと笑いかけてくれるレイ。
私は今まで、この笑みに何度も救われてきた。男性的な凛々しい顔に笑みが浮かぶと、良い意味でギャップがあり、非常に魅力的に感じられる。見る者の心の雲を晴らす、そんな不思議な眩しい笑みだ。
「よっし。じゃ、行こうか」
彼女がこちらへ差し出す手を、私は勇気を出して掴む。
武田のように大きな手ではないけれど、彼女の手は、私をいつも明るみへと連れていってくれる。だから、彼女の手も嫌いじゃない。
「ナギ!後は任せるよ!」
吹蓮へ拳銃を向けているナギに、レイは強く言った。ナギは頷く。
「レイちゃんのためなら一人でも頑張るっす!」
「よろしく頼むよ!」
レイに手を引かれ駆け出す。彼女は足が速いので、私ではついていくのに必死だ。時折地面から浮きそうになったりした。だが怖くはない。
——武田に会える。
そう思うだけで、視界が一気に晴れるような感覚がした。先ほどの壁に激突した背中の痛みは、今はなぜか感じない。希望が一時的に消してくれたのかもしれない。
——早く会いたい。
その一心で、私は駆けた。レイに手を引かれ、ただひたすらに走り続ける。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.155 )
- 日時: 2018/02/23 20:28
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: jWLR8WQp)
93話「休まる暇もなく」
吹蓮はナギに任せた。心配もあるが、ナギはやる時はやる人だ。だからきっと大丈夫だろう。そう信じている。
そして私は、レイに手を引かれながら廊下を走り続けた。
これほどの距離を走るのはいつ以来だろう。大学時代は体育系の授業がなかった。だから、恐らく高校三年の頃以来だと思う。それを思うと、数年はまともに走っていないことになる。
私はずっと運動が苦手だった。特に苦手なのは球技だが、走ることも得意ではない。持久走ともなれば、呼吸が乱れて乱れて、辛かった思い出しかない。
だが、不思議なことに、今は苦しさを感じない。結構な距離を走ってきたはずだが、呼吸の乱れもかなり少なめだ。
それから数分くらい経っただろうか、レイが足を止めた。至って普通の部屋の前だ。しかし、扉は外れて倒れていた。
入り口付近にはモルテリアが立っている。
「モル!様子は?」
「……エリナ、いる……」
「分かった。ありがとう」
「……うん」
モルテリアとほんの少し言葉を交わした後、レイはこちらに顔を向ける。真剣な眼差しで私を見つめ、落ち着いた声色で言う。
「沙羅ちゃん。くれぐれも気をつけてね。あたしも極力フォローするけど、何があるか分からないから」
私は危険な場所へ自ら飛び込もうとしているのだ。改めて感じる。だが、これは私の選んだ道。私が行くべき道だ。
室内へと足を進める。
そこには、黒光りした鞭を構えるエリナと、地面に倒れ込んでいる武田の姿があった。エリナはほんの一瞬だけ私に目をやり、「来ちゃったのね」と呆れたように言う。
「武田さんっ!」
私は地面に倒れ込んだ武田へと駆け寄る。室内には宰次もいるが、私が見ているのは武田だけだ。
「大丈夫ですか!武田さん!」
大きめの声をかけると、彼は顔を持ち上げた。驚いたように目を見開いている。
「……沙羅?」
信じられないものを見たかのように漏らす武田。その瞳を見れば、動揺していることは容易く分かる。かなり驚いているようだ。
「生きていたか……」
武田はほっとしたらしく、安堵の溜め息を漏らす。表情がほんの少しだけ柔らかくなった。
「はい。武田さん、意識は確かですか?」
「あぁ、問題ない。……っ」
彼はゆっくりと上半身を起こす。しかし、その途中で、床についていた右腕がかくんと曲がってしまう。
そんな彼の上半身を、私は反射的に支えていた。
「無理しないで。ちゃんと支えますから」
「すまない……」
申し訳なさそうな顔をして謝る武田。なんだか凄く罪悪感がある。
「いえ。そもそも私のせいなので、武田さんは悪くありません」
武田の右腕は脱力している。僅かに触れただけでも彼は痛そうに顔をしかめる。想像していたより重傷なのかもしれない。
その時、エリナの鋭い指示が飛んできた。
「沙羅!武田を連れて撤退しなさい!」
私は慌てて「は、はい」と返事をする。慌てていたのもあってか、凄く中途半端な大きさの声になってしまったが、特に指摘はされなかった。
「武田さん、立てます?」
「あぁ。立てる」
「ゆっくりで大丈夫ですよ、慌てなくて構いませんから。あまり無理はしないで下さいね」
「そうか。感謝する」
武田は上半身を縦にし、それからゆっくり腰を上げる。
周囲に体重をかけられる物がないのは少々不便だ。一応私はいるが、私一人では彼を安定して支えられない。
だが、だからといって誰かに甘えるわけにはいかない。彼がこんな風になったのは私のせいなのだから、多少無理してでも頑張らなくては。
私は手を持ち支える。武田はそれによってなんとか立ち上がれた。しかし、スムーズに動けそうにはない。
慣れないことに困っていると、レイが速やかに寄ってきてくれた。彼女は真剣な面持ちで「手伝うよ」と声をかけ、慣れた様子で武田の体を支えた。私のぎこちなく下手な支え方のせいで動きにくそうにしていた武田だが、レイのしっかりとした支え方なら動き出せそうなようだ。
何事も技術が大切、ということか。
「沙羅ちゃんも一緒に来てくれる?」
「あっ。はい」
レイがいれば安心だ。彼女は強くて親切で、なんだって解決してくれる。私が頑張らなくても、彼女がいれば上手くいく。
……でもそれは、私は要らないと言われているみたいで……少し悲しい。
いや、考えすぎか。今日は精神が不安定なのだろう。だからこんな細かいことまで気にしてしまうのだ。きっと、ただそれだけ。
「自ら来ておいて逃げようとは、実に自己中心的ですな!さすがは京極エリナのエリミナーレ!」
宰次が唐突に言った。大きな声で、しかも演技のような大袈裟な言い方だ。それに対し口を開くのはエリナ。
「失礼ね。私たちは沙羅を取り返しに来ただけよ」
その間もレイは武田をせっせと運んでいく。ゆっくりだが確実に進んでいる。
エリナは片手を腰に当て、僅かに顎を上げる。いかにも気が強そうな格好で、宰次に向けて言葉を放つ。
「貴方と話すために来たわけじゃない。だからこれにて帰らせていただくわ」
「自己中心的と言われるのを実は気にしてられるのですかな?」
「相変わらずうるさい男ね」
エリナは眉を寄せ、嫌悪感を露わにする。あからさまだ。大人とは思えぬ分かりやすさである。李湖の時は耐えていたのに、今は微塵も隠そうとしていない。
そんなエリナの顔つきを目にした宰次は、ふふ、と見下したような笑みをこぼす。
「おや、嫌われておりますな。一体なぜに」
「当然じゃない!」
エリナは突如鋭く叫んだ。怒りに満ちた凄まじい形相で。
しかし、すぐに静かな表情に戻る。
「瑞穂のこと、忘れたとは言わせないわよ」
呟くように告げる彼女は、直前とは真逆の静かな顔だ。
この変わり様、情緒不安定という言葉が似合いそうである。少なくとも普通の精神状態ではない。宰次という人間の存在が彼女をこんな風にさせているのだとしたら恐ろしいことだ。
「瑞穂のこと?一体何の話ですかな?ふふ」
「……今日はいいわ。いずれその時は来るでしょうから」
笑みを浮かべる宰次とどこか暗い顔つきのエリナ。二人の間に漂う空気はかなり歪なものだ。書庫で武田と宰次の間に漂っていた空気と同じである。その不自然さといえば、無関係な者が見ても不自然だと感じるだろう、と思うくらいだ。
だが、書庫での時とは違い、理由は薄々分かっている。
エリナは恐らく、瑞穂の死の原因が宰次にあると考えているのだろう。決定的な証拠がないから、今はまだはっきりと言うことはできない。そんなところだろうか。
「ま、そう仰るのなら、それで構いませんよ」
宰次は一呼吸おいて続ける。
「裏切り者の沙羅さんを連れて、お帰り下さい」
その一言が、場の空気を凍らせた。
エリナはもちろん、レイや武田も、驚き戸惑ったように目を見開く。それと同時に言葉を失っていた。突然「裏切り者」などという話が出たのだ、当然の反応かもしれない。
しかし、一番驚いているのは私だ。
今ここでそんな話題を出してくるとは思っていなかった。しかも私が裏切り者だなんて。頭がまったく追いつかない。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.156 )
- 日時: 2018/02/24 22:18
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: SsOklNqw)
94話「一週間後に」
場が沈黙に包まれた。
驚き、戸惑い、言葉を失う。誰もがそんな状態になっていた。当事者である私ですらも。
深海のような沈黙は一分以上続いた。だが、静寂は時間を異様に長く感じさせるものだ。だから、感覚的には、三十分か一時間くらい経ったかのようだった。
長い沈黙を破り最初に口を開いたのはエリナだった。
「沙羅が裏切り者?何を根拠にそんなことを」
宰次は白髪混じりの髪を時折撫でていた。その動作からは中年の余裕が漂っている。敵対する者を前にしても慌てない落ち着きぶりを、見せつけているかのようだ。
「失礼。正しくは『裏切り者の娘』ですな。沙羅さんの父親はエリミナーレの敵なのですよ」
「沙羅の父親が?何よ、それ。いきなり馬鹿げたことを言い出すのね」
「馬鹿げたことではありません。沙羅さんの父親は資金提供という形でエリミナーレの敵に協力しておられる。ふふ、ご存じでしたかな?」
そこへレイが「ちょっと待って下さい」と割って入る。彼女は武田を支えた体勢のまま、はっきりと続ける。
「そのエリミナーレの敵というのは、貴方のことですよね」
はっきりとした声色で言われた宰次は、ほんの僅かに眉を上げた。
「ほぅ。なぜそう思われるのですかな?」
「吹蓮にエリミナーレ殲滅を依頼したのは貴方なのでしょう。そうでなければ、吹蓮がここにいる理由が分かりませんから。エリミナーレ殲滅を依頼したのは貴方。つまり、貴方は我々の敵です」
「実にアバウトで分かりづらいですな。さすがの僕も理解に時間がかかりましたよ。ただ、間違いではない」
呆れ顔になりつつも宰次は笑みを消さなかった。口元に怪しい笑みを湛えたまま、彼は言う。
「その方が仰る通り、沙羅さんの父親が協力したエリミナーレの敵とは、僕のことです」
咄嗟に鞭を構え、戦闘体勢に入るエリナ。
しかし宰次は、「少し待っていただきたいものですな」と、今にも攻撃しそうなエリナを制止する。戦う気はなさそうだ。
彼の思考はまったく読めない。エリミナーレ殲滅などとえげつないことを言っているかと思えば、戦わないような態度をとったりもするのだから、常人には理解不能だ。見れば見るほど、知れば知るほど、よく分からなくなっていく。
「一つ、提案が」
「……何かしら」
エリナは宰次に、警戒心剥き出しの鋭い視線を向けている。茶色い瞳は蛍光灯の光を受けて赤く輝いていた。まるで彼の本心を見抜こうと試みているかのように。
「本当はここで貴女たちを潰してしまうつもりでいたのですが……やはり一週間後にしませんかな?」
いきなり勝手なことを言い出す宰次。エリナのことを自己中心的と言っていたが、結局のところ彼も同じではないか。
「ぶつかりあうならお互い準備万端でぶつかりあう方がいい。そう思いましてな」
「随分いい人ぶるのね。今まで散々狡いことばかりしてきたくせに」
「そうですな……ただ」
宰次はゆっくりとエリナに歩み寄る。そして、彼女の顔に、顔を近づけた。エリナとは背の高さが近いため、武田の時とは違い、真正面から顔面を近づける形となっている。
「それはそちらも同じでしょう?」
言葉を詰まらせるエリナ。
そんな彼女を見て、宰次は、目を細めながらニヤリと口角を持ち上げる。いかにも裏のありそうな笑みだ。
「僕への復讐を密かに企んでいたことは知っていますよ。ふふ……」
彼は意味深な言葉を発しつつ、エリナの肩をぽんと叩く。エリナは「触るんじゃないわよ」と速やかにその手を払った。手を払われた宰次は、「中年は損ですな」と漏らしつつ、ゆったりとした足取りで歩き出す。
扉の方へと近づいてくる宰次を警戒するレイ。しかし彼は、レイらには目もくれず、そそくさと部屋から出ていく。
不気味なほどあっさりしている。
「では、一週間後にこの場所で。待っていますよ。今から楽しみですな」
散々風雨を起こし、突如去っていく、台風のような気まぐれな人だと思った。彼はかなり変わっている。もしかしたら、私が平凡なだけかもしれないが。
こうして、私たちはその場に残された。まるで、大きな嵐が過ぎた後の荒れた世界に、ぽつんと取り残されたかのようだ。
言動に翻弄され、心を掻き乱され、最終的には置いていかれる——何もかも宰次の思うつぼだったのかもしれない。もっとも、彼に狙いを直接尋ねることはできないので、本当のところは分からないのだが。
宰次に置いていかれたエリナは、難しい顔をして、暫しその場から動かなかった。だが少しだけ理解できる気がする。今の彼女の心境は、恐らくかなり複雑なものだろうから。
「……あっ!」
レイが唐突に声をあげた。支えていた武田が倒れ込みかけたのである。レイの素早い対応のおかげで転けずに済んだものの、かなり危ない状況だった。
「いきなりどうしたの?」
「なんでもない」
「転けそうになるなんて普通じゃないよ。何かあるんでしょ?はっきり言ってくれる?」
「いや……」
武田がなかなか答えないことに対し苛立ったレイは鋭く放つ。
「本当のことを言って!」
こんなきつい言い方はレイらしくない。ナギ以外にきつい言い方をするなんて不自然だ。
「待って下さい、レイさん」
刺々しい空気になりそうだったので、勇気を出して口を挟んでみた。
「沙羅ちゃん?」
戸惑った顔でこちらを見るレイ。
「武田さんは足を撃たれています。だから、立っているのが辛いのかもしれません」
「足を?」
レイは驚いたように武田へ目をやり、「そうなの?」と確認する。武田は少々気まずそうに、小さく「実は」と答えた。
ほんの少しだが空気が和らぐ。刺々しさがなくなり、私は密かに安堵した。エリミナーレ内で喧嘩なんて嫌だ。
「なら早く言ってよ」
「あんな形で出ていってしまったのでな……言いづらかったんだ。はっきり伝わずすまない」
「ま、いいよ。あれはあたしも言いすぎだったし」
そんな温かな言葉を交わす二人。
私がいない間に何かあったのだろうか?気になるので、ぜひ教えてほしい。
そんな風に思っていると、まるで私の思考を読んだかのように、レイが言った。
「なんか気を使わせてごめんね、沙羅ちゃん。ちょっと事務所で喧嘩みたいな感じになっちゃってね」
「珍しいですね」
「沙羅ちゃんが連れていかれたって聞いて、びっくりして、つい一方的に武田を責めてしまったんだ」
なんだろう、凄く罪悪感。
私のせいで二人が喧嘩した。無関係だとはどうも思えない。私が捕まらなかったら、二人が喧嘩することはなかったのだから。
なので一応頭を下げる。その場にいなかったから無関係、ということではないと思うからだ。
「迷惑かけてすみません」
取り敢えずでも謝っておく方がすっきりする。
するとレイは「謝らないで」と言ってくれた。凛々しい顔には、ほんの少し笑みが戻っている。やっといつものレイに戻ったような感じがした。
そこへ、エリナがやって来た。非常に淡々とした足取りだ。
「帰りましょう。いつまでもここにいては、時間の無駄だわ」
エリナの顔は大人びていて美しい。年齢など少しも感じさせない、魅力的な容姿をしている。
けれども、その表情はどこか暗かった。茶色い瞳にはいつものような自信の光はなく、どこか悲しげな色を湛えている。遠いところを見つめるような目つきは、彼女らしくない。
「……エリナさん」
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.157 )
- 日時: 2018/02/26 21:31
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 3z0HolQZ)
95話「愛しい寝顔は無防備」
裏口から建物を出ると、付近にエリミナーレの車が停まっていた。レイが運転してここまで来たらしい。運転席にはレイ、助手席にはエリナが座る。武田と私、それからモルテリアは、後部座席へ乗り込む。珍しい席順だ。
みんなが席についた頃に、ナギが建物から駆けて出てきた。吹蓮を一人で食い止めてくれていた彼だが、目立った怪我はないようである。
しかし、ここで問題が発生した。ナギの座れる席がないのだ。後部座席には既に三人。しかもそのうち一人は武田なので、これ以上座れるはずもない。
「ちょ、俺の席ないんすか!?今日はガチで頑張ったのに!?」
ナギはショックを受けた顔で騒ぐ。
「仕方ないわ、ナギ。貴方は電車で帰りなさい」
「エリナさん、さすがにそれは酷くないっすか!?」
一人電車で帰れ、というのは少し可哀想な気もする。
「あ。じゃあさ、俺、エリナさんの膝に乗るっすわ!」
「くだらない冗談を言うんじゃないわよ」
「……すいません。電車で帰ります」
とぼとぼと歩き出すナギ。可哀想で仕方ないが、私にはどうかしてあげることはできないので、黙って背中を見送った。
「そろそろ出ますね」
「えぇ。頼んだわ、レイ」
「お任せ下さい!」
そんな短いやり取りがあり、車は走り出した。
発車して少しした時、隣に座っているモルテリアが、私の肩をトントンと叩いてきた。何事かと思いそちらを向く。すると彼女は小さな声で言ってくる。
「……ごめん、なさい……」
「え?」
いきなり謝られた私は、一瞬、何の話か理解できなかった。しかし、続けて「護るの……できなかった……」と言ったので、それでようやく理解できた。
「悪いのは私です。モルさんのせいなんかじゃありません」
当たり前のことだ。モルテリアに責任はない。
私が宰次に捕まったのは、私が無力だったせいである。無力なくせに油断している部分があったから、あんなにも簡単に捕まってしまったのだ。
「許して……くれる?」
翡翠のような瞳は潤んでいる。こんな瞳に見つめられて「許さない」と答えられる者がいるのだろうか。いるとすれば、人の心のない者に違いない。
「許すも何も、モルさんは悪くないですよ」
「許して……くれる?」
話がループした。
モルテリアはたまにこういう時があって不思議だ。いつもではないところが余計に不思議さを高めている。
「はい。もちろんです」
すると、丸みを帯びた顔に浮かぶ表情が、ぱあっと晴れる。
「嬉しい……!」
彼女が明るい顔になると、なぜか私も明るい気持ちになった。
それから私は武田へ視線を戻す。
彼は背もたれにもたれかかり、うつらうつらしていた。眠りかけている。戦いが終わり、気が緩んだのかもしれない。今なら私でも仕留められるのではないか——そう思うくらい、無防備な顔つきをしている。
完全に油断したような寝顔はどこか愛らしい。
私は彼の手にそっと触れてみた。今なら気づかれないかも、と思って。
「……どうした」
武田は細く目を開ける。
気づかれないかも、なんて甘かったようだ。一瞬で気づかれてしまった。もっとも、気づかれて困ることはないのだが。
「あっ、いえ」
「一体どうしたんだ」
怪訝な顔で首を傾げる武田。
せっかくよくリラックスしていたのに、用もなく目を覚まさせてしまった。悪いことをしたな、と若干後悔する。
「何か用があるならはっきりと言ってくれ」
さりげなく圧力をかけてくる。何もない、なんて言えない空気だ。
「あ、いえ……武田さん可愛いなって」
何か言おうと頑張った結果、つい本音が漏れてしまった。
言ってから「やってしまった!」と思う。しかし、一度発した言葉は取り消せない。言葉とはそういうものだ。
車内が驚きに包まれる。
「え、あ、いや、これは……」
冷や汗が頬を伝う。血の気が一気に引いていく。
年上の男性に対していきなり「可愛い」と言うなど、失礼極まりない。怒られて当然だ。それに嫌われたかもしれない。
そんな風に焦っていたのだが。
「頭を殴られでもしたのか?」
武田は心配そうな面持ちで尋ねてきた。
予想外の問いに、私は一瞬固まってしまう。暫し言葉を失った。
「脳へのダメージはすぐに症状が出ないこともあると聞く。検査を受けた方がいいのではないだろうか」
「……え?」
「私はひとまず病院行きだ。ついでといっては失礼だが、お前も一緒に行くといい」
彼は私の手を握り返してくる。
「ちょっと待って下さい。私は別に、殴られたわけじゃ……」
「ん?違うのか」
「違います!」
「あぁ、そうか。勘違いしてすまない」
殴られたから武田が可愛く見えるわけではない。彼の寝顔は本当に愛らしかったのだ。こんなことを言えば頭がおかしいと思われそうだが、私がそう感じたのは事実である。
「では、沙羅が私を可愛いと思ったのは、事実なのだな。そういう解釈で構わないか?」
武田は恥ずかしげもなく冷静に確認してくる。
私が彼の無防備な寝顔を可愛いと思ったのは事実だ。この際否定はしない。今更否定したり言い訳しても無意味だから。発言には責任を持つ。
だが、改めてはっきり言われると、正直かなり恥ずかしい。顔が赤くなっていないか心配だ。
「は、はい。……すみません」
私は控えめにそう答えた。
「私のこと、嫌いになりましたか……?」
逃げたくなる衝動を抑え、勇気を振り絞って問う。すると武田は、首を左右に動かした。
「いや、そんなことはない。私もお前を可愛いと思っている。だからお互い様だ」
「えっ。そうなの!?」
驚いて会話に参加してきたのは運転中のレイ。
「そうだ。沙羅は小さくて可愛いので癒やされる。動物と暮らしている者の気持ちが、少しずつだが分かってきた」
「それちょっと違う気がするけどねー」
武田のややずれた発言を耳にして、レイは呆れた表情になっていた。
確かに、人間である私と愛玩用の動物では、あらゆる面において大きな差がある。だが私からすれば些細なことだ。どちらでもいい。可愛いと言ってもらえたことが嬉しくて仕方ない。
武田が可愛いと言ってくれた。私はそれを、じっくり噛み締めながら、心の中で何度も反芻した。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.158 )
- 日時: 2018/02/27 11:15
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 8topAA5d)
96話「見えぬ明日へと歩み行く」
武田を病院前で降ろす。
掛かり付け医と知り合いであるエリナが武田に付き添うことになった。医師を知っている方が話が早い、という理由である。確かにその通りだと思う。嫌な気持ちにはならなかった。
それから私たちは事務所へ帰る。
一人電車で帰ったナギはというと、私たちが帰った時には既に事務所内にいた。ソファに座り、巨大シニオンが個性的な李湖と何やら話している。
「ただいまー」
レイの声を聞き、素早く顔を彼女へ向けるナギ。非常に素早い動作だ。
「レイちゃん!お帰りっ!」
「ただいま。ナギ、お疲れ様」
「いやー、照れるっすわ。たいしたことしてないけど、褒められたらやっぱ嬉しいっすね」
穏やかな空気であることを感じ、私は密かに安堵した。
仲間内で揉めたり、重苦しい空気になったりするのは、嫌なものだ。エリミナーレには穏やかで温かい空気の方が似合う。これは間違いない。
「ちゃんと行けたんですかぁー?」
李湖が唐突に口を開いた。
ファンデーションがべったりと塗られた顔は今日も厚ぼったい。グロスで異様な艶が出た唇、頭上の巨大なシニオン。
相変わらずな見た目だが、体調は悪化していないようで、少し安心した。彼女のことは別段好きではないが、逆に恨みがあるわけでもない。だから、元気であってくれれば一番良い。
「行けたよ。情報ありがとう」
レイは李湖に、あっさりとした調子でお礼を述べる。すると李湖は偉そうにふんぞり返り、「感謝して下さいねぇ」などと言う。随分大きな態度だ。何とも言えない容姿と相まって、少しばかり鬱陶しい感じである。
「あの場所を教えてもらえて助かったよ。おかげで沙羅ちゃんを助けられたからね」
「場所を教えてあげた親切な李湖に、感謝して下さいねー」
「もちろん感謝してるよ。ありがとう」
ストレートにお礼を言われると、李湖は戸惑ったように言葉を詰まらせていた。まさか本当にお礼を言われるとは思いもしなかったのだろう。
それにしても、こんな形で李湖が活躍するとは、分からないものだ。
その夜、午後七時くらいに、武田とエリナは帰ってきた。もう少し早く帰ってくるものと思っていたので、何かあったのかと心配していたが、何もなかったようだ。
みんなが揃っているところへ合流した武田は報告する。
「一応全治二週間らしいが、特に大きな問題はなさそうだ」
その顔はどこか嬉しそうであった。
軽傷であっても負傷したことに変わりはない。だから、今は嬉しそうな顔をする場面ではないと思う。
しかし、歓喜の声があがる。
「元気……良いこと……」
「大事なくて良かったよ」
「さすがっすね!モテない男ほど生命力は強いって言——」
「ナギ!それは余計!」
くだらない発言をしたナギは、レイから厳しい注意を受けていた。
それにしても、モテない男ほど生命力は強いって……。どこからそんな理論が発生したのか謎である。
なんだかんだで仲良しなレイとナギをぼんやり眺めていると、武田が声をかけてきた。
「沙羅は聞こえなかったか?」
「え、私ですか」
「あぁ。念のためもう一度言おう。掛かり付け医に診てもらったのだが、たいした傷ではなかったようでな。一応全治二週間と言われた」
先ほどと同じことを再び話す武田は、生き生きとした表情をしている。
「それは良かったです。けど、痛みくらいはあるのでは?」
「確かに、痛みがまったくないことはない。だが軽いものだ。右肘と左足がほんの少し動かしにくい程度で、たいしたことはない」
武田はたいしたことはないと繰り返し主張する。しかし、それは彼が怪我に慣れているからだと思う。肘や足を動かしにくい程度の痛みはあるのだとすれば、軽いとは言い難い。
「武田さんがこんなことになったのは、私のせいです。……何と言えばいいものか。軽めでまだしも良かったですけど、でも……」
発する言葉を迷っていると、武田が唐突に「待て」と言った。いきなりだったので驚き、私はゆっくりと彼へ視線を向ける。彼の瞳も私を捉えていた。
「私が怪我をしたのは沙羅のせいではない。宰次のせいだ」
「でも原因を作ったのは私で……」
「いや、宰次だ。沙羅を拐ったあいつが悪い」
武田は譲らない。どうしてこうも頑固なのか。日頃は私の意見も聞いてくれるのに、こんな時に限って聞こうとしない。
まぁ確かに、考えようによってはそうとも取れるが。しかし、そう容易く「宰次が悪いよね!」とは言えないのも、また事実である。
「そうですよね、エリナさん」
エリナに同意を求める武田。敢えて関係のないエリナに話を振るというのは、恐らく昔からの癖なのだろう。
「えぇ、そうとも言えるわね。宰次は存在が悪だわ」
エリナの発言は少々極端な気もする。しかし、過去に色々あったことを考えれば、極端になるのは仕方ないようにも思えた。
エリナの返答を聞くや否や、すぐにこちらへ視線を戻す武田。
「沙羅は何も気にするな。すぐに治……あっ」
彼はいつものように屈もうとしたが、突如痛みを感じたらしく、前向けに転倒しそうになる。このまま倒れてきたら、私も巻き込まれてしまう——そう思い、咄嗟に彼の体を支えた。
彼は少し気まずそうに「すまない」と謝る。
「武田さん。やっぱり、少し休んだ方がいいですよ。せめてどこかに座るとか」
「そうか。それもそうだな」
武田は納得したように頷いた。
私は彼をソファの方へ連れていき、座らせる。既に座っていた李湖は、逃げるようにその場を離れた。
ちょうどそのタイミングで、エリナが告げる。
「とにかく、今日はここまでとしましょう。宰次の件は明日から取りかかるわ」
彼女は始終、疲弊したような暗い瞳をしていた。普段通りのように振る舞っているものの、明らかに疲れた顔だ。宰次が去った直後よりかは元気になっているように見えるが、それでも普段通りとはいかない。
彼女はエリミナーレのリーダー。だから、しっかりしていてもらわなくては、エリミナーレ自体が駄目になってしまう。宰次と対峙し精神的に疲労しているのは仕方ないが、少々心配である。
明日どうなっているかは予想がつかない。これからどうなっていくのか、私には分かりようがない。ただ、それでも進み続けるしかないのだ。
漠然とした不安を抱きながら、私はこの日を終えた。