コメディ・ライト小説(新)
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.230 )
- 日時: 2018/04/28 18:14
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: hjs3.iQ/)
エピローグ
二○四七年、四月。
木漏れ日が穏やかに降り注ぐ中、私は、六宮駅へと向かっていた。
道を歩きながらふと考える。
今からちょうど一年前、買ったばかりの紺のスーツを着て、久々に六宮駅へ降り立った時のことを。あの日の私の胸は希望に満ちていた。足取りも弾んでいたことだろう。
エリミナーレの事務所へ来たその日から色々なことがあって。拐われたり、巻き込まれたり、拐われたり……いや、こういっては迷惑しかかけていないみたいだが、とにかく色々な体験をした。
苦労もいっぱいあったけれど、今私は、この道を選んで良かったと思っている。
それは紛れもない事実だ。
やがて着いたのは、待ち合わせ場所である、六宮駅の百貨店の二階にある喫茶店。私が初めてレイに会った場所である。
昨年の四月には新入りとしてそこへ行った私だったが、今年は違う。昨年のレイのような立場で、エリミナーレを代表して行くのだ。
つまり、今日の私の言動がエリミナーレのイメージを決めると言っても過言ではないということ。
かっこ悪いところは絶対に見せられない。しっかりしなくては。
そんな風に改めて気合いを入れ、心の声で自身を鼓舞していると、唐突に背後から声が聞こえてくる。
「あの、もしかしてエリミナーレの方ですか?」
若さのある男声に振り返ると、そこには、初々しい少年が立っていた。
短く真っ黒な髪は、しっとりしつつも清潔そのもの。そして、目を凝らしてよく見ると、比較的整った可愛らしい顔つきをしている。いかにも新品らしいスーツはサイズがあっておらず、心なしかズボンが長めだ。
「あっ、はい」
……いきなり声が裏返ってしまった。
なんという失態。
エリミナーレのかっこよさを見せつけなくてはならないのに、早速やらかしてしまった。
しかし、この程度で挫けるわけにはいかない。頭を抱えたい衝動に駆られながらも、平静を装い言葉を発する。
「確か……斯波くんでしたね」
「はい!」
「お会いできて嬉しいです。少しお茶でもしましょうか」
かっこ悪いことをやらかしてしまわないよう細心の注意を払いつつ会話する。
「あっ、はい!よろしくお願いします!」
「いえいえ、こちらこそ。エリミナーレの詳しいことについては、後ほどお話しますね」
「ありがとうございます!」
まだぎこちなさのある初々しい彼と喫茶店へ入り、エリミナーレについての説明を行う。一年前レイが私にしてくれたように。
分かりやすく簡潔に話すのは難しいが、十分練習してきたので問題ないはずだ。
「会計も済ませましたし、そろそろ事務所へ向かいましょうか。美味しかったですね、桜パフェ」
「はい!」
「それじゃあ……」
喫茶店から出かけた時——視界に武田の姿が入った。
来るとは聞いていなかったので驚きだ。
「武田さん!どうして?」
「可愛い妻を迎えにきた。何かあったら困るからな」
まったく。過保護にもほどがある。
せっかくエリミナーレメンバーらしいかっこいいところを見せていたのに、これでは台無しではないか。
「えっと、貴方は……」
「武田だ」
「よ、よろしくお願いします……えっと、お二人は……」
新入りの彼は戸惑った顔をしている。しかしそんなことはお構い無しに、武田ははっきりと言う。
「夫婦だ」
堂々とした言い方だ。
「籍を入れ、式も挙げた。だから沙羅に手を出すなよ」
「あぁもう、武田さん!そういうのは止めて下さい!」
「いや、しかし……沙羅に手を出されては困」
「今言うことじゃないです!」
すると武田はしゅんとして身を縮める。
彼は新入りが見ているところでも、ありのままだった。かっこよく見せようと気張っていた私とは大違いだ。
人は自然体でいる方がずっと魅力的なのかもしれない。いつもと何も変わらない武田を見ているとそう感じたから、私もかっこつけるのは止めることにした。
「それでは事務所へ案内しますね、斯波くん」
少しくらい情けなくても気にしない。情けなさも含めて私という人間を理解してもらえば良いのだから。
無理しない、飾らない、ありのままの笑みを浮かべる。
未来への希望を込めて、今こそ言おう。
「ようこそ、エリミナーレへ」