コメディ・ライト小説(新)

Re: 満月ウサギとクール男子~短編~ ( No.12 )
日時: 2018/03/29 09:49
名前: 雪原みっきい (ID: 9Urj1l4Z)

第十章 涼音
麗矢は今、急いで校内中を駆け回っている。麗矢の大切な存在、利月の危機を感じたから―――――。
「どこだ・・・!どこにいる・・・」
麗矢は息を切らしては走るを繰り返していた。校内を探してもいなかった。そして、校庭を駆けていたその時、
『麗矢ーッ!!助けてーっ!!!』
と、利月の声がした。麗矢はあわてて声のした方に向かった。声の出どころは体育倉庫だった。



そのころ体育倉庫では、美菜の仲間、美羽と玲子がカミソリで利月の耳の毛を剃っていた。その剃り方が乱暴だったため、利月の耳からは血がにじんでいたり、出ていたりしていた。
「何でこんなことっ・・・きゃあっ!」
美羽と玲子は狂った笑みを浮かべ、利月の声を無視して耳を傷つけ続けた。利月の鮮血は髪の毛をつたり服と床に滴り落ちていた。利月は心の中でこう思っていた。
(麗矢・・・来て・・・)
と。その思いが届いたのか、
『利月、大丈夫か!?おいっ、返事しろ!』
とドアの外で麗矢の声がした。利月は返事をしようとした。
「うん、大丈・・・んぐっ!?」
だが、その返事は美菜にかき消された。美菜は利月の口をガムテープでとめた。そして麗矢に向かってこう言った。
「利月はさっきまでここにいたけど、もうあっちの方行っちゃったよ?」
と、嘘の言葉を。美菜の言葉で利月の希望はことごとく打ち砕かれた。麗矢もこれを信じ込み、
「そうか。ありがとう。」
と、違う方向へかけて行った。美菜たちは利月にこう言い放した。
「あ~あ。見つかっちゃった。私たちがやったと思われたくないから、ここ出るねー。」
と。利月は最後の光だと思い、美菜に、
「じゃ、じゃあ、私も―」
と言った。しかし、美菜はこの言葉も
「はあ?誰がお前みたいなクソ女をこっから出すっつーんだよ。バーカ!」
とかき消した。美菜たちは高笑いしながら体育倉庫から出て行った。それだけならまだ出られる希望はあったが、美菜は体育倉庫の扉に何重も思いカギをかけた。これでは出ることは100%無理だ。利月は最後に神様に祈ろうとした。
(神様、私は幸せではありませんでした。でも、この命を授けてくださったこと、心から感謝いたします)
利月は神様を恨みもせず、ましてや感謝した。ああ、これで死ぬんだ・・・と思いながら。


「利月、先に帰ったのか。」
麗矢は不信感を抱いていたが、家に帰らなくては両親に大目玉をくらうと思い、家へと駆けた。


「えっ、利月は帰ってない・・・?」
麗矢は両親にそう言われ、かばんが手から滑り落ちた。
「ええ、そうよ。え?もしかして、おいてきちゃったの?」
麗矢はやっと気が付いた。美菜が嘘をついていたことに。麗矢は自分の情けなさを悔やんだ。だがそんな暇はない。早くしなければ利月が死んでしまうかもしれないのだから。

―午後5時を指した針と、せわしなく動く秒針。刻一刻と迫っていた。

麗矢は急いで体育倉庫へと向かった。麗矢は、利月を死なせまいと走っていた。麗矢は全速力で走って走って走った。
「待ってろ、利月。」


利月はそのころ、ずっと祈っていた。眠くなりながら、うとうとしながら。それでも、寝ては駄目だと自分に言い聞かせ、必死に起きていた。そんな時、誰かがドアをドンドンとたたく声がした。利月は麗矢だと思って一生懸命唸った。
「あっれぇ。クソ女、まだ生きてたんだ~。さっさと死ねばいいのに。じゃ。」
美菜たちだった。また高笑いしているのがはっきり聞こえた。
(あんたたちに言われなくても、さっさと死ぬよ)
利月は心でそう言っていた。


麗矢は体育倉庫に向かう途中、美菜たちに出会った。麗矢は我を忘れ、怒り任せに美菜を突き飛ばした。
「お前ら・・・よくも、よくも利月を傷つけ、俺をだましやがったな!お前のことは死んでも恨み続ける!」
美菜は突き飛ばされてぶつかったところをさすりながら、こうつぶやいた。
「こんなこと、しなきゃよかった・・・」


またドンドンと体育倉庫のドアをたたく音がした。利月は返事をしなかった。希望も光も心から消えていた。でも、麗矢だけは消えなかった。短い間だったが、麗矢との思い出がたくさんあったからだ。よく考えてみれば、麗矢には助けてもらわれてばっかりだなと思いながら、思い出をよみがえらせて、脳内で再生していた。
「利月、大丈夫か!?今あけるからな!」
利月は奇跡が起こったと思った。麗矢が助けに来てくれたからだ。麗矢は一つずつ鍵を外していき、扉を開けた。麗矢は見るも無残な姿になった利月を目の当たりにした。それはとても残酷だった。麗矢は美菜がやっぱり許せないと思った。そして、丁寧に大縄をほどき、利月を抱きしめた。利月は麗矢の予想外の行動に驚いた。
「本当に・・・本当に無事でよかった・・・」
麗矢は涙をこぼしながら、そういった。
「そんな・・・それより、服が汚れちゃう―」
「そんなのいいんだ。お前が生きてりゃあ、それで。」


夕日がさす体育倉庫、二人の姿は絵になった―。


                                     ~END~