コメディ・ライト小説(新)
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.23 )
- 日時: 2018/01/21 16:05
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
*・.。*──第3章 「結城先生と望月」
巴side
私が結城先生と一緒にご飯を食べているという事実を知っているのは、私と先生だけ。
他の生徒には知られていないし、知られてはいけない。
先生は他の生徒(特に女子)から人気も高いし、私が一緒にご飯を食べる関係(そんなにもったいぶって言うほどのことではないけど)だなんて知られたら、どんなことになるか……。
──想像もしたくない。
「朝香、は1人暮らしなのか?」
それなのに、なんで望月は私の気持ちも知らずにあれやこれやと質問をして来るのだろう。
「そう」
「えー!? ……すげぇな。じゃあ全部ご飯とかも自炊か?」
「まぁ、そうなるけど」
「朝香が料理……だめだ、エプロン着けてる姿が上手く想像できない……」
「……何なの?」
一体何が目的で、そんなことを聞いてくるの。
続きの言葉が喉に引っかかって、代わりに出たのは小さなため息だけ。
「悪い。 嫌な気持ちにさせたんなら」
そういうと望月はスっと立ち上がって、廊下を出ていってしまった。
……何だかこれじゃあ次の授業から隣にいられると気まずいじゃない。
今のは望月は悪くない。 本当は望月に悪気がないって分かっていたのに。
けど、だったら私は中学で今みたいに話しかけて欲しかった。
──だったらもっと普通にいられたかもしれない。
過去のことを引きずって話に持ち出すのは良くない。──きっと望月は中学のことを忘れた訳ではない。
だって私がこの教室に入って、「朝香巴です」と名乗ったらはっきりと動揺していたから。
しばらくして望月が席に戻ってきた。
……けれど私は普通に板書をノートに写しているフリをしながら何も考えられてなかった。
ちょうど授業は、結城先生のだったのに。
*
「今日の授業あまり集中してなかっただろ」
「……見てたんですか?」
「ずーっとノート書いてる、フリしてた」
「うー……」
「何があったのか知らないけど、取り返しのつかないことにならないようにな」
「はい」
苦笑する私を見て、少し先生が驚いたように目を見開いた。
やっぱり誰かと食べるご飯は美味しい。
……大家さんの料理が上手いということもあるのだろう。
けれど、それを1人で食べるのと誰かと食べるのは大きく味が変わると思う。
学校と家とで口調や性格が違うのは、先生だけじゃなくて私も同じなんだ。
──私の中にはもう1人私がいる。
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.24 )
- 日時: 2018/02/03 15:18
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
冬真side
……何が、「悪い。 嫌な気持ちにさせたんなら」だよ。
明らかに不機嫌な朝香に、そう言って俺は廊下に出てきた。
それにしても、話そうとして嫌なことを言うなんて逆効果だ。
──話したい。
そう思うたびに、朝香に話しかけるがいい言葉がまるで浮かばない。
次々と話題が浮かぶわけでもないからひょんなことから浮かんだ話題を膨らませることに必死になってしまう。
一人暮らしなんて、そんなに多いわけじゃないのだからあまり触れられたくない部分だったかもしれない。
「あー、もう本当に鈍感だ……」
頭を掻きむしった。
授業の時間が近づいて、ザワザワと騒がしかった教室もパタパタと席に座る音に変わる。
慌てて教室に入る。
……──怒ってる?
たった一言が言えなくて、ただ横目で朝香の顔色をうかがう形になってしまった。
次の授業は結城先生の授業で、「ここはテストに出やすい」とか言っていたけど全く聞いていなかった。
中学の頃から俺が普通に他の人と接する時みたいに朝香にも接していたらこうして今も何の躊躇いもなく、話せたんだろうか。
例えば急に俺が、好きだと言っても朝香は変に驚いたり疑ったりせずに「いいよ」って言ってくれたのだろうか。
──もちろん、そういう場合でも簡単に「いいよ」とはならないかもしれないけど……。
*
授業が終わって、みんなが部活に向かう中を逆に進み、バイト先へと急いでいた。
途中で、去年まで自分が入っていたバスケ部の声が体育館からした。
足を止めて、少しだけ見ようかとも思ったが今は自分と前までチームメイトだった奴らが中心になって活動しているんだ。
顔を合わせたいとは思えないのが正直だ。
俺のバイト先は駅前の古本屋だ。
本の価値とか、そういうのはまだ分からないので本を売りに来た人への対応は基本他の人が行う。
ならば、俺は何をやるのかというと……基本は本を買う人の対応や本の整理。あとは最近漸くどこにどの本があるのかを把握したので、本を探している人への対応だ。
「店長、こんにちは」
「あぁ。 今日もよろしく頼む」
ここを切り盛りしている店長は、40代くらいの「本が好きそう」な男だ。
優しくて、笑うと目尻にできるしわから、温和さを感じる。
バスケしかなかった俺が、部活をやめてからしばらく経った放課後にこの駅前の古本屋に寄ったのが始まりだった。
見渡す限りが本で埋め尽くされており、俺はとにかく衝撃をうけた。
「古くて、あまり知られていない……知る人ぞ知る名作がここにはあるんだ」
店長はあまり本に興味を示していない俺のような客にも、一生懸命色々な言葉をかけてくれた。
……もしかしたら、自分の居場所はここなのかな。
って思ったら、いても立ってもいられず、即決でここで働きたいって店長に伝えた。
必死な俺の顔がおかしかったのか、何に笑っていたのかは分からないけれど店長は「保護者の承諾も必要だから」と俺に告げ、「いつでもおいで」と言ってくれた。
直感で動くと、何が起こるか分からないけど……それでも直感を信じて行動することも必要な時が必ずやってくると思う。
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.25 )
- 日時: 2018/03/08 17:57
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
結城side
「今日の授業あまり集中してなかっただろ」
何気なく口にした言葉だったが、言ってからなにか誤解されただろうか……と心配になった。
慌てているのが伝わらないように、ちらっと朝香の方へ視線をやるがどうやら変に意識していたのは俺だけだったらしい。
「……見てたんですか?」
バツの悪そうな表情を浮かべて、朝香が尋ねてきた。
お陰で俺もそれらしい言葉を見つけられた。
「ずーっとノート書いてる、フリしてた」
「うー……」
変に思われていないだろうか。
いつも大人数を相手に授業をやったり、話したりしているからこうして個人と会話をするのは少し抵抗がある。
深い変な意味ではないが、異性として考えれば尚更だ。
「何があったのか知らないけど、取り返しのつかないことにならないようにな」
ちょっと教師らしいことを言ってみた。
「はい」
苦笑する朝香。
──こんな表情もするんだな、と思いしばらく見つめてしまった。
視線に気づいたのか朝香が戸惑った表情を浮かべたが、俺が軽く首を横に振ると気にしないことにしたのか、箸で一口では多すぎるくらいのご飯の量をとって口に入れた。
こうして見ると、普通に明るい生徒だ。
ふと、まとう雰囲気が暗く重いものになるのは気のせいではにないと思うのだが……。
夕食が終わって、俺も朝香も自分の家へ帰った。
家には誰もいなくてシンとしている。 そんな感覚が嫌でテレビをつけた。今の時間はちょうど番組と番組との境でCMばかり流れている。
*
今日はいつもよりほんの少しだけ早く起きたので、そのまま早めに学校へ来た。
「結城せんせーっ! おはよーございまーす」
朝、学校で挨拶をされて
「うん、おはよう」
そうシンプルに返す。
職員室まで行くと、体育館からバスケ部のドリブルする音や、声が聞こえた。
……と見覚えのある背中が、廊下から体育館通路の境になっている扉のところに立っていた。
「……望月?」
驚いたようにバサッと振り返り、早歩きで教室へと向かっていった。
──ここは気を利かせて、声をかけない方が良かったのか。
悩ましいところではあるが、過去を悔やむのはやめよう。
「あぁ、結城先生おはようございます」
「おはようございます」
「もしかして今そこで、望月くんに会いましたか?」
「えぇ……どうしてそれを?」
不思議に思う俺の気持ちを理解したのか、他クラスの先生は少しだけぎこちない笑顔を浮かべながら、
「毎朝、そうなんです。 私も最初は声をかけたのですが、邪魔してしまったみたいなので今はかけないようにしてます」
「なるほど」
「きっと……今も、少しバスケットボールをやりたいっていう気持ちがあるんだと思います」
望月がバスケの優秀な選手だったというのは聞いている。
担任として、生徒が悩んでいるのに知らないフリをするべきか。
うざい──そう思われるのは承知の上で、声をかけてみようか……。
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.26 )
- 日時: 2018/03/18 21:59
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
冬真side
「……望月?」
後ろから呼ばれて、声を聞いただけで担任の結城先生だということが分かった。
驚いて慌てていたからその場から離れてしまったが、こんなんだったら尚更……変に疑りをかけられても困る。
冷静になって、うまく言い訳を考えた方がよかった。
「ん、望月じゃん。 おはよ」
「ふぇい!?」
相手は朝香だが、また名前を呼ばれて変な声が出た。
「……ちょ、何焦ってんの?」
絶対馬鹿だと思われた。
「いやぁ、悪い」
バスケ部を退部するって自分で決めて、退部してからかなり経ったのに……ちょっとバスケ部が大会でいいところまで行ったからって再び今更未練たらしく、 毎朝体育館周辺をうろついているなんて──恥ずかしくて、言えるわけがない。
「そういえば、望月もうバスケやらないの?」
気がついたら、後ろにいたはずの朝香が俺のすぐ真横に並んで歩いている。
しかもいきなり痛いところをつかれた。
「……まぁ。 もう朝香がこっちくるだいぶ前にやめたよ」
色々あったから……なんて無理やりこじつけたような嘘の言葉を並べた。
またいつもの冷めたような目で俺を見ているんじゃないかと、朝香の方を見たが思っていた朝香とは違う朝香がそこにはいた。
「そうなんだ。 なんか興味本位で軽い気持ちで聞いちゃったから、ごめん」
「いや。 気にしないで」
中学生の時から考えると、まさか朝香に謝られる日が来るなんて……。
それにしても── まだバスケ部も体育館で朝練をしている時間だ。
いつもは大体俺が教室で1人の時間なのに、こんな朝早くから朝香はどうしたんだろう。
すると朝香はまるで俺の心情が読めるかのように、俺の方を見て
「今日さ、日直なんだけど……手伝ってくれない?」
はいこれ……と俺の手の上に日誌をドサッと乗せた。
「それ教室までよろしく!」
よろしく、ってあと数メートルじゃないか。そんな言葉は飲み込んで素直に従うことにした。
教室には俺と朝香だけ。
何でお前はそんなに来るのが早いの?……そう聞こうと思っていたけれど、なぜだか言葉が喉に引っかかって出てこなかったんだ。
あと10分もすれば誰かしら教室に来るだろう。
それまでは、この広い教室に2人っきりだ。