コメディ・ライト小説(新)
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.29 )
- 日時: 2018/03/30 17:44
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
巴side
「……まぁ。 もう朝香がこっちくるだいぶ前にやめたよ」
色々あったから……と、望月は私にこじつけたような言葉を次から次へと口にした。
──嘘でしょ?
そう言って問い詰めることもできた。
前の私なら、相手の気持ちなど微塵も気にせずにそうやって望月にしていたかもしれない。
けど、しようかしないか……ためらいが出るなんて私も変わったのかな。
「そうなんだ。 なんか興味本位で軽い気持ちで聞いちゃったから、ごめん」
「いや。 気にしないで」
ほっとしたような表情を浮かべる望月。
うん、やっぱり私の選択は間違っていなかったみたいだ。
「今日さ、日直なんだけど……手伝ってくれない?」
ドサッと手に持った日誌、それから数種類のプリントを望月の手に乗せた。
──多分、今私は反射的に望月に「何で早くきたの?」って聞かれるのを避けたんだと思う。
それでも冷静に物事を判断できる時は、「でも日直だとしても、来るの早すぎない?」って聞かれるかもしれない。
私は結構鋭いと思う。
望月も他の人と比べたら、私ほどまでじゃないとしても鋭いと思う。
……早すぎないって聞いてくるかなと思ったけど聞いてこなかった。
「それ教室までよろしく!」
私はそう言って一足先に教室に入った。
あと少ししたら、すぐに他の人達も来ると思う。
それまでの間は望月と2人かなって思ってた。
──思ってた。
「2人とも早いね」
そう言って教室に入ってきたのは……先生。
横に座ってた望月から息を呑む音が聞こえたから、横目でそっちを見た。
……もしかしたら、私と会う前に何か会ったのかな。
「先生こそ、いつもチャイムと同時に入ってくるのに」
私は先生に言った。
「最近みんな……僕のクラスだけじゃないけど遅刻が増えてるからこうして先生が教室にいるんじゃ遅刻できなくなるかな、と思ってね。こんな早く来てる2人には無縁だと思うから、話しちゃうけどとりあえず今週だけのお試しの取り組みなんだ」
……いくら何でもそれは、生徒に言ってはいけないことではないんですか?
先生は今学年の先生を全員裏切ったことになる。
本人が気づいていないんだ。
そのままの幸せな状態で放っておこう。
「林とか、やべーな」
望月は笑いながらいつもチャイムギリギリに学校に来るクラスメイトの名前をあげた。
いつの間にか結城先生が入ってきた時のぎこちなさが、なくなったようだ。
「そうだね」
──これという理由はないけれど、望月の横顔を見つめた。
中学校時代と今で、望月との関わりにこんなにも違いが生まれるなんて思いもしなかった。
──私は中学生という肩書きに、望月は追い続けたバスケットボールという道に負けてしまったから……度合いは違うかもしれないけど、それぞれが「負ける」という本当の意味を知っているから、お互いの通う部分があるのかな。
だとしたら、なんだかちょっと切ない。
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.30 )
- 日時: 2018/04/08 18:58
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
冬真side
今日1日俺は、先生に朝のことを言われるかどうかビクビクしながら過ごしていた。
けれどそんな素振りは全く見せず、ホームルームが終わると同時に職員室に戻っていった。
もちろん聞かれなくて良かったのだが、少しモヤモヤとする。
*
「店長こんにちは」
「おう。今日も頑張ろうな」
カウンターに店長の姿は見えなかったが、声がしたので安心した。
更衣室に入ってから鞄を端に置いて、ブレザーをハンガーにかけ店のエプロンをつける。
「今日本当は望月くんともう1人湊さんに入ってもらう予定だったんだけど、ちょっと湊さん熱で今日は来れないって連絡入ったから僕と望月くんの2人で頑張ろう。平日だからそんなに人くるかどうか分からないけど……」
店長がそう言っている間に1人お客さんが入ってくる。
よく来てくれる人だ。 いつも色々な場所を見て回り少し立ち読みして買うか買わないかを決める。
──多分、本が心から好きなんだろうな……。
俺は店長が昨日や一昨日に買ったのであろう本を棚に運び始めた。
ここは出版された年別に並べてあるのだ。
だから求めている本と同じ時に書かれた別の本との出会いもあるというわけだ。
店長は優しいから予め、僕に棚へ本を運ぶ仕事を頼む時は付箋でこれは何年に書かれた本などという情報を書いておいてくれる。
本を開いて確認すれば1発で分かることではあるが、その手を省くことで時間短縮に繋がるという店長の考えはとんでもなく効率が良い。
「すみません」
突然お客さんに話しかけられた。
──どうしよう。いつもは湊さんや店長がお客さんと話せる距離にいてくれたから俺は裏の方の仕事だけで良かったけど今日は……。
「どうされましたか?」
自分の声が震えてる。 でもどうかこの不安が目の前のお客さんにだけは伝わってはいけない。
「少し久しぶりに来たんですけど、新しく入った本はどれですか? 良ければ教えて頂きたくて」
いつもこのお客さんが店長などに話しかけることはないのに、何で今日に限って……。
当然ここで働いているのだから本に詳しくて当たり前だと思われている。
確かに当然だ。──そう思われても仕方がないのだ。
店の商品のことすら把握してない店員がいる。
そうこのお客さんに思われたら、きっとここは悪い印象になってしまう。
どうにかしなくては……。
「お客様、それでしたらこちらにありますのでご案内致します」
店長だ。救世主。
「……望月くんはレジお願い」
お客さんに聞こえない声のトーンで店長は俺にそう言った。
言われるがまますぐに俺はレジへと小走りで向かった。
*
「ごめんね望月くん」
お客さんが満足げに本を購入し店を後にしてから、店長に平謝りされた。
「いやいやむしろ僕の方こそ、ありがとうございます」
「今度、本のこと少し話すよ。 聞いてもらえる?」
突然のことに、驚きが隠せない。
思いがけない店長の言葉に戸惑ったが……俺は、この人の本に対する思いを聞きたい。
「……はい! ぜひ聞きたいです」
俺がそういうなり、店長が店の閉店時間まで本のことを語ったことは事実だ。
──けれどその話をいつまでも聞いていられるなと感じたことも事実。
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.31 )
- 日時: 2018/04/17 18:09
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
巴side
「いただきまーす」
「いただきます」
夕食。大家さんと私と──先生。
ふわふわと上がる湯気、冷めないうちにと大家さんに急かされて私と先生は取り皿に食べる分もおかずを盛る。
プシュっという弾けるような軽さの音がした。横を見ると先生がビールを開けていた。
「あんまり飲みすぎないでください」
「だーいじょーぶだって」
ひらひらと手を振る先生。 まだ数口なのにもう酔いが回ってきているのか喋り方が面白い。
普段の学校での先生とは違う……私だけが知ってる先生。
一応私も先生の生徒なのに、一切こういう部分を先生は隠そうとしない。
もしかして生徒と思われていない……?──いや、そんなことはないはず。
だったらただ抜けてるだけ?──ちょっとそれも違うような気がする。
……もしも先生が、先生が私を生徒だと思っていないなら私って一体……?
「先生、私は先生にとって…… 」
呼吸の音。──先生は机に伏せて寝ていた。
いつの間にか私がちょっと考えてる間に取り皿に取ったおかずを食べきったみたいだ。
ビール缶を持ち上げる。 多分半分くらい残っている。
「また駿さんってば……寝ちゃってるわね~」
毛布をふわっとかける大家さん。
「最近帰ってくるの遅かったみたいだし、こうして一緒に夕食食べるのも少し久しぶりよね。 疲れ溜まってたのかしらね」
しばらくしたら起こしましょう、と言って大家さんはまたどこかへ行ってしまった。
先生の寝顔を見ながら食事。 すごく変な感じ。
「ん……」
腕を組み直して、頭の向きを変えて私の方を向いた。
こうして見てみると相手は先生だと分かっているけれど、すごいまつ毛長い。
寝顔だけだと一気に子供に見えなくもない。
パラッと先生の前髪が、落ちてまぶたにかかる。
起こさないように注意しながら、そっと前髪を横に流す。
──可愛い。
素直にそう感じた。
「とも、え……」
寝言だからはっきり聞こえなかったけれど……──今、多分私の名前呼んだ。
「──ともえ」
「はい……」
先生の頬にそっと、指先からゆっくりと手を重ねた。
──好きです。
触れてるだけなのに、ただそれだけで自分の気持ちを先生に読み取られているような気がして。
寝ぼけて名前を呼ばれただけなのに私はこんなにも意識してる。
……先生からすれば、私はただの生徒Aに過ぎないかもしれないのに。
それは嫌だ──そうではないことを心のどこかで祈っている自分がいる。
──この時から私にとって先生は本当にかけがえのない存在です。
- Re: 「死神」少女 【コメント募集中٩( ᐛ )( ᐖ )۶】 ( No.32 )
- 日時: 2018/05/17 19:57
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
巴side
きっと強い気持ちを持っていれば、ちょっとくらいの壁は自力で破れると思っていた。
好きになって気づいた。
──実は私が思っていた以上に先生との間に立っている壁は何層にもなっていて、頑丈で。
仮に破ることができたとしても……すごく時間を費やしてしまう。
……どうしたら距離を縮めることができますか?
*
「せんせー! おはよー」
「おはよう」
私と同じ学年の女子生徒が馴れ馴れしく先生に話しかけている。
……あんなに爽やかに返してしまったら私のライバルが増えてしまうじゃないか。
自分の気持ちに気づいてからというもの私は先生のことをじーっと観察する癖がついてしまった。
そうしたら思った以上に先生の周りにはたくさんの人がいて、「私はみんなが知らない先生の一面を知っているから大丈夫」なんて思っていたけれど、全然そんなの役に立たない。
モヤモヤして胸がキュッと締め付けられる。
「朝香、なんか今日のお前はお前じゃない。 変だ」
いやお前のその言葉も負けてないくらい変だ──そう返したかったけど、さすがに望月にまで言われてしまったら、やっぱり今の自分の異変っぷりを認めるしかなさそうだ。
「変じゃない……から」
「変だろ」
「絶対変じゃない」
「絶対に変!」
「絶対絶対変じゃない!」
「絶対絶対絶対に変!」
どう考えても不毛すぎるこのやりとり。
お互いに顔を見合わせて吹き出した。
「普通に笑うんだな」
「え? なんか言った?」
望月の口からなにか聞こえた気がしたのだけれど……「何でもない」と本人から否定されればそれ以上問いつめるのは気が引ける。
一緒にご飯を食べる時の先生と学校でたくさんの生徒に囲まれている姿はまるで別人。
どっちの先生もかっこよくて……なんていうか私よりも年上なはずなのに少しだけ頼りなさげところとか、ちょっと可愛いなぁって思う。
すぐ寝ちゃうところとかも。
「でも朝香はさっきからずっと結城先生のこと見てるよな」
「そ、そう?」
「ん……ごめん俺の勘違いか」
ストレートに謝られることに私は弱い。
「いや合ってる。 先生のこと今日は結構見てる、かも」
語尾をなんとなくごまかした。
「それってさ……」
望月は鋭い。 もしかして私の気持ちにもう気づいたのか? 口から出る続きの言葉を聞くのが怖くて、唇をキュッと噛みしめた。
「ズボンの裾がずっと靴下に入ってるから?」
望月が先生の足元を指さして聞いてくる。
──本当だ。 今日ずっと目で追っていたのに気づかなかった。
「あー……うん、そう! 気になっちゃって」
なんだ鋭いから「朝香はもしかして先生が好き?」なんて言われるかとばかり思っていたから、思わず笑いそうになって焦った。