コメディ・ライト小説(新)
- Re: 今は無題 ( No.2 )
- 日時: 2018/10/14 22:46
- 名前: モズ ◆hI.72Tk6FQ (ID: OypUyKao)
『迷い故の洋館にて』
昔々の噂話、今ではそれが話題に出ることなんて珍しい程に昔の噂話。
今ではそれを信じる者も居なくなり、過去なら禁止されていた『深夜の森への出入り』は解除された。
そう、過去には深夜に森へ出入りした少年少女ばかりが失踪する事件が勃発していたのだ。
何人かは戻ってきても口を揃えて、
「何も無かった……何も無いんだ」
そのような旨を述べていく。それから『深夜の森への出入り』は禁止された。
すると、勃発した少年少女の失踪はパタリと止まったのである。
しかし、時間が経てばそんなの気にならないお話として括られていく。
過去は過去でしかなくて、今ではその話が真実だなんて誰かが証明するつもりなのか?
そのリスクを避けたのか、過去の話としたのか、またはそれ以外の理由か。
訳はわからずとも、その禁止事項は解除された。
一人の少女が春先というのにまだ肌寒い深夜を紺のワンピースと海のような青のショール。
それだけを身に付けて、あとは透き通る青いパンプス。
手には一冊の分厚い本と真っ赤に熟したりんご。それだけを持って。
森へと駆け出す、後に続く者は誰一人としていない。彼女を包むのは静寂、それだけ。
突如現れた霧、彼女は動かずに何もせずに霧が消えることを待った。
そして霧が晴れた時、そこには無かった筈の洋館が建っている。
中からは愉快な笑い声、そしてこちらをジトリと見るような視線。
そして彼女を招き入れるように彼女より遥かに大きい扉は開かれるのだ。
──さァ、中へ入りなさイ。少女よ、もう戻ることは出来なイのよ。
その声に吸い込まれるように彼女は扉へ導かれ、歩き出してしまった。
その先に何があるのか知らずに、入ったらもう戻れない、何かをするまで。
歩んでしまってよいのか、もう歩んでいるじゃないか。もう、知らないよ。
彼女を唯一見守る月は彼女を見放すように雲に隠れてしまった。
包んでいた静寂は館の住人の笑い声で無かったことにされる。
迷いこんだ少女は、彼らと愉快に笑いを上げる。あぁ、感化。そうなのか。
春先なのにまだまだ肌寒い深夜、りんごと一冊の本を持って森を歩くのは、私。
人っ子一人いない中、私を包むのは静寂、そして月明かりだけ。
周りには誰もいない、先程まで私を包んでいたのは静寂と月明かりだけ、そう思っていたのに。
いつの間にか霧が立ち込めていたみたいで目の前でさえ、何も見えなくなっていた。
視界は完全に遮断された、そう表現するのが正しいのだろうか。
そしてまたいつの間にか霧は晴れていた、眼前には今まで見えてなかった、存在してない洋館。
アンティーク調、見上げなければ上の方まで見えない、不思議な洋館。
ぼんやりとした明かりに照らされて窓から見える人影は複数で愉快な笑い声を上げている。
洋館の大きな扉は開かれ、まるで私を歓迎するかのようにそんな声が聞こえた。
──さァ、中へ入りなさイ。少女よ、もう戻ることは出来なイのよ。
その声に自然と体は洋館へ吸い込まれていった。足は止まらずに歩み続ける。
あの笑い声が近付いていく、会話の内容もだんだんと、はっきりと聞こえてくる。
気付いたら寝ていた。目を開けたのに視界は暗く、閉ざされている。
丁寧にも腕は綺麗に並べられ、足も揃えられた状態で床に横たわっていた。
何も見えないぞ、その疑問に答えるように手は動き出す、筈だった。
ガチャンガチャ、と音がする。そういえば、私は手錠をされているのか。今更気付いた。
それではこの暗さはアイマスクか目の光を奪う力か、部屋がただ単に暗いか。
アイマスクのような布を皮膚では感じられなかったからアイマスクは候補から除外された。
そんなことを考えても仕方ない、結局はこの結論に陥るのだから。
ただ、これからどうすれば良いだろうか。身動きも取れず、視界による情報は得られない。
「目覚めたか? おはよーさん」
少し距離が空いている、が同じ空間からその声は聞こえた。若い男性だろうか。
そもそも手は使えないから体制を起こすことも出来ず、立ち上がることなんて出来なかった。
だから動かず、声も出さずに寝ている、そんな風に装った。
「……無視かよ、まぁ良いや。お嬢さん、ちょっと失礼するから暴れんなよ」
そう言われると同時に体がふわりと浮き上がる、まるでそんな風に感じられた。
厳密にはお嬢様抱っこをされた。それなりの年の私をそんな風に持ち上げるこの人は誰なんだろう。
何も見えない今ではそんなことを考えることしか、暇を潰せるようなことは無い。
普通だったら照れたりしちゃうんだろうけど、状況が状況だからそんなことは一切なく。
椅子、のようなものに座らされて、その人の手は離れた。
けど、まだ何かを話してくれているようだ。
「今から手錠を外すから動くなよ……」
まずは手錠を外されて、手は自由になった。どうやら外す、には続きがあったようで。
またもや、動くなよと忠告をされてから何かを掛けられたような感覚がした。
すると、今まで何も見えなかった目が光を得て景色を写し出した。
座らされていたのは椅子、椅子以外の何物でもない。
私のいるこの部屋は椅子しか、私の座るその椅子しか置かれていない部屋だった。
それなのに上京したての芸人のようなワンルームよりもずっと広い部屋。
何で明かりがついているのだろう、光源は見当たらない。探してみたが分からなかった。
目の前には先程の彼、と思わしき男性が目線を合わせてくる。
目付きは悪そうだが世間的に言えば、イケメン。それに部類されるような人なのだろう。
女子が羨ましがるようなぱっちり二重と涙袋、生きてんのかと思わせるような色白、
薄くも厚くもない丁度良い厚さ、且つ程々の発色をした唇。
それだけでも充分羨ましいというのに、近くで見ているが肌はキメ細かく毛穴なんて無いようで。
目はキレ長で少女漫画に出てくるさながら学園の王子様のような……典型的なイケメンといった所か。
「どうかしたか、俺の顔なんか見て……」
「典型的なイケメンに部類されるような人なんだろうと思いまして」
「正直だな」
「よく言われます。正直者は得をすると私の祖母にはよく教えられました」
「典型的なイケメン……か、ありきたりという意味か。それは嫌だな」
「イケメン、それだけじゃ嫌なんですか」
「個性がないのと同じだろ、典型的だなんて。ありきたりなイケメンなんて一般人と同じさ」
「変わった人ですね」
「それはお互い様だと思うがな」
お互いに正直者である、それを認識したようだ。言葉のキャッチボール、そんなスピードではなく。
お互いに撃ち合う、そんなスピードで互いに言葉を聞き、そして発して交わしていく。
そして何事もなかったように彼は何故か、私の顔を見てくる。
それに対抗するように私も彼の顔を見る。そして互いに何かを思ったのだろう、言葉が交差した。
それに彼は驚いてお先にどうぞ、と話す順番を譲ってくれる。
しかしそれに応えたらなんか負けたような気になってしまうのが嫌でこちらも譲る。
そんな私の気持ちなんて知らないだろう、彼は話す。
「お嬢さんは素敵な顔をしているなと思ってな」
「あら、そうですか。褒めて頂いてもらうような人間ではないと自負してるのですが」
「少なくとも今までここに迷いこんだ人間のなかでは、のお話だよ」
「今までもここに人が来たことがあったんですか」
「お嬢さんも何か話したがっていたんじゃないの」
まるで人が来たことを言いたくないかのように見事にスルーされたが、まぁ良いだろう。
「あぁ、忘れてました。申した方がよろしいですか? 」
「とか言いつつ、言いたいんだろうに」
「私たち、本当に似た思考をしているのね。ある意味、同族を思わせる」
それほどに彼とは話しやすかった。とはいえ、私も話したいことがある。
彼に催促されたのならば、答えなければ。私が話したかったのだから、話すのである。
「目の赤いライン、そして首もとが気になりましてね……それらは何でしょうか」
目元にはアイラインとして赤を差し、首もとには何かは分からないが目に付く何かが描かれていた。
どうして今の今まで気にならなかったのだろう、彼に興味がなかったからだろうか。
と、自問自答するのである。一呼吸置いて、
「目の方も首の方も理由は同じ、憑かれたんだ」
「疲れた? 人間として生きるのに疲れを感じたのですか」
「まぁそれも間違ってないけどその『疲れる』じゃなく、俺のは妖怪に憑かれるの方」
「ほう、間違ってはないのですか。そして何かに憑かれたと」
「狐だよ。それで俺は人間なようで狐にもなれる何かに変身した訳で」
「へぇ、それは面白いですわね。変身してくれないの? 」
「興味あるんすか? 」
「なかったら、何も言わないでしょうに」
「そうだな。では尾には触るなよ……」
彼がこちらに向かって可愛らしい花の匂いがする大きな、質感の良い布を被せてきた。
それはしっかりと私の頭に、顔に被さる。変身のその瞬間を見せたくないなら、そう言えば良いのに。
尾には触るなよ、その言葉は何だろう。きっと本心からだろうが、そう言われたら触りたくなる。
それが人間というものである。
「これでどうか……」
その布をぶん投げてしまえば、目の前には彼に狐の特徴ともいえよう、ふさふさとした複数の白い尾、とがった耳。
目の赤いラインも首もとのもそういうことか、と何とか理解することができた。
彼がそれであることの僅かな印、私自身はそう理解することにした。
人間とはいえ、彼の尾には触れないでおこう。私、とても偉いのね。
「さぁ、皆の元へ参ろうではないか」
もとの姿に戻った彼が未だに名乗らずに先に部屋を出ていこうとする。
それでは着いていくしかない、勝手に体は動くものだ。
それにしても他にも何かがいるのか。部屋を移動して彼が止まる。
すると、私は止まらざるを得ない。わざわざこちらを振り向いて
「ここだ、皆がここにいる。怖がらなくても良い、なんて言っても意味無いか」
どうやら目の前の扉の奥に皆、がいるそうだ。わざわざ心配もしてくれたようだが、確かに意味はない。
彼の人の良さに安心していたからここへの恐怖は殆ど消え去っていた。
「そうね、誰かさんのお陰ですっかり安心してるわよ」
その答えにふっ、と微かな笑い声を溢した彼はそうかそうか、とこちらに笑いかける。
「なら、良かった。入るぞ」
耳に障るような古めかしさを感じさせる甲高く、苛つく音を立て、扉が開く。
その先には彼と私を待ち構えていたように複数の人達が立ち並んでいた。
左からフードを被った金髪の小さい女の子、生気の無い、ちゃんとした白髪の男の子、
彼とは反対的な、狼みたいな目付きの赤髪男性、腰まで伸びている黒髪が特徴的な美女。
そしてテーブルの上にヤンキー座りをしてこちらを冷たく見ている灰色の髪の男の子。
フードを被り、その袖をぶらぶらさせて。私がそちらを見つめるとニィ、と口角を上げて笑って。
そして後は先程まで一緒にいた彼だけ。
お互いに定め、定め合うのが続くかと思われたが、それは案外早く打ち破られた。
そう、フードの金髪少女によって打ち破られた。
「迷い込んだのはこの子か……変人の館へようこそ! 」
手を広げ、歓迎を示すジェスチャー。健気な少女、そう思わせる元気な声に安心した。
声に合わせ、表情も笑顔であることを確認して私は安堵の息を漏らす。
「その筆頭はお前だろ、毒ロリ」
「煩いな、馬鹿犬は」
「犬じゃねーよ、何で犬なんだよ」
「ギャンギャン煩いから、それしかないっしょ」
フードを被った金髪少女に突っかかるように狼みたいな赤髪さんが毒を吐く。
かと思えば、その少女も余裕そうに言い返す。この二人はいつもこうなんだろう、周りの冷静さがそれを感じさせた。
「この二人はいつも煩いから気にしなくて大丈夫、ねぇコンコン……どうするつもり? 」
黒髪美女がおっとりとした口調で誰かに話し掛ける。コンコン、だからきっと彼なのだろうが。
それでも二人は口喧嘩を続けている。これが彼らの日常の一つなのだろう。
「コンコンはやめてください……それに関してはまだ良いでしょう、面倒ですし」
予想的中、コンコンとはやはり狐に憑かれた彼だった。黒髪美女の方が年上なのだろうか。
それにしてもそれ、とは何だろう。
残りの二人は喋る素振りを見せない。白髪の方は地面を見つめ、フードの方はヤンキー座りはやめた。
テーブルの上、足をぶらぶらさせている。相変わらず、行儀は悪いようだ。
「犬は黙ってろ……で、君の名前を教えてよ。嫌なら仮の名前でも良いから! 」
喧嘩は終わったのだろうか、キラキラした目でこちらを見つめながらそう声を掛けてきた金髪少女。
犬と呼ばれた彼は金髪少女をギロリ、と睨んでいるが口は硬く閉ざされていた。
これは表現ではなく、現実である。目の前の少女にきっとされたのだろう、口には綺麗にガムテープ。
勝手に取られないために手さえもガムテープで拘束されていた。
「リゼリア、彼女は客人よ。先ずは私達から名乗るべきでしょう、それが礼儀ではないの? 」
「はぁ、名前を出さなくても伝わるから。んで、名はリゼリア、よろしく……」
金髪少女の名はリゼリア、だが名前を出せば嫌な態度を示している。何故だろう。可愛いのに。
次は私かしら、と再びあのおっとりとした声が聞こえてきた。
「私はメトリーと申します、よろしくお願いしますね」
よく見たら着ているのはゴスロリ衣装、まぁ口調の割に綺麗な顔をしているから似合うんだが。
私ならきっと似合わないだろうし、着る勇気はないと思う。
さて、迷う。リゼリアさん、そしてメトリーさんは自己紹介してもらった。
リゼリアさん曰く犬はガムテープを貼られて喋れない、リゼリアさんはガムテープを外す素振りさえ見せない。
生気の無い男の子は床にうずくまっている。フードを被った方はその子の傍で寝ている。
猫背だったからか、テーブルの上に座っていたからか。思ったよりも身長が大きい。
犬さんか、狐の彼。彼らとそこまで変わらない身長。生気の無い男の子はリゼリアさん程で大きくはない。
狐の彼は自己紹介をするつもりは無いらしい。では、私になるのだが。何と名乗ろうか。
仮の名前でも良いってどうすれば良いのだろう。それはそれで迷う。
私も自分の名前は好きじゃないからそれは助かるけど、代用の名前は直ぐに思い付かず、
狐の彼に助けを求めるしかなかった。
5,870文字、修正、又は続きを書く。